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1章 隠密令嬢(?)とリア充令息
不機嫌な幼馴染と支える攻略対象達 Ⅱ
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騒音の中心人物、殿下が教室にやってきた。
「…嫌味ですか」
俺が吐き捨てるように言えば、殿下は憎たらしいほどの爽やかな笑顔をこちらに向けた。本当、いけ好かない奴だ。周りを囲っていたギャラリーを手で制すると、こちらに悠々と歩み寄ってくる。それと同時にギャラリーも撤収していった。
”連が殿下の補佐?それ、マジうける!”
今一瞬、脳内を俺を馬鹿にする藍の声が流れていった。
…うん、ムカつくけど、藍ならこういう事言うだろうな。
そうなんだよ。こういう風に冷やかされたくないから殿下の配下になりたくないってのも理由の一つなんだわ…。一番は面倒だからだけど。
殿下は俺の前の席に腰を掛けると、肘をついて口を開いた。お願いだから、暇なら公務でもしててくださいよ。
「ユベール、まだ黒髪黒目の令嬢を探してるのか?」
そう、殿下は必ず第一声がこれ、だ。
「見つかってたら、今ここでボーッとしてませんって…」
「それもそうか。好みのこだわりもそこまで来ると一種の病気だな、はは」
快活に笑う目の前の奴が、将来国を統べる王になるとは思えないんだがな。大体、殿下も婚約者がいないというのはどうかと思うぞ。王族も位の高い公爵家も婚約者を取っていないとかなり有名な話になってしまってる訳だが。故意的に広めたさ。アイツが尻尾を出すための工作だった…。
俺は何故この世界に転生する必要があったのか。前世でも何でもそつなくこなせたから今の境遇に喜びはあんまりない。ましてや家族との親睦も深めるほど、家庭を大事にする両親ではないんだよ。普通の会話と呼べるか怪しいが、一週間の出来事を報告するくらいだな。
俺が思考を飛ばしていると、殿下の忠実な配下達がやってきていた。
「殿下、やはりこちらにいらっしゃいましたか…」
「仕事をさっさと終わらせてからでも時間は十分ありましたのに、途中で放棄していかないでください」
前者が宰相の息子トレバンズ・ジャイルズ。頭脳の方は確かなんだが、少々気が弱い奴だ。お前にこそ補佐がいるんじゃないか?
後者が子爵家出身だが実力者で将来文官の道に進むであろう人物、ライナス・ポロックだ。殿下をそこそこ遊ばせつつ働かせる強者だ。こいつを見ていると、藍を思い出す。俺の藍センサーは全く反応してないがな。
「二人とも来たか。用件はすぐ終わるから大丈夫だぞ。
――よし、話そう。ユベール」
「はぁ?俺は話す事なんてないぞ」
何となしにアキムの方を見たが、この空気は話すしかないのか。諦めも肝心だな。
「んで?殿下の用件は俺の琴線に触れる話題なんですか?」
「ふふ、よく聞いてくれた」
「…用件だけお願いしますよ」
殿下に振り回されるようじゃ俺もまだまだだな。
「用件というのはだな…
令嬢ではないが、黒髪黒目と思しき少年が今日王城に来ていたそうだ」
「………。」
「……」
「は?」
「おうおう、驚いているな!!その反応を待っていたんだ!」
「ちょっと待ってくれ!何だって今更黒髪黒目の特徴をした奴が王城に…」
「うむ。推定8歳の少年がバロン子爵家の者に抱えられていたようだ。少年自身はどこか障害があると私は聞いているぞ。――アキム、君は心当たりはあるか?」
殿下が何故かアキムに視線を向けたので、俺もそちらに顔を向けた。
「いえ、叔父とは縁を切っているため、私も母上も知りません。王城に、ですか。あの人が他人を仕事場に…、それも子供を…。一体どういう風の吹き回しなんだ」
後半は呟くように言っていたため、あまり聞き取れなかったが、アキムの血縁者がその少年を保護しているという事か。障害か…。何かしら今まで見つからない訳がそこにあったんだろうな。
「殿下、その少年の身元は分かりましたか」
「おや、君は男色だったか?」
「冗談は控えてください。どうなんですか。殿下なら調べるくらいの事はしたんでしょう」
問い詰めるとあっさり話してくれたが、あまり実りのある情報ではなかった。
少年はユースティン・バロン子爵の養子になるという事。魔力も自由自在に使え、優秀な人材だという事。黒髪は合致していたが、目は閉じていて黒目かは分からなかったという事。
今のところは藍である確率は高い。
だが、普通には遭遇できないだろう。何かしら場を設ける必要がある。バロン子爵に少年を表に出させるような計らいが…。
こちらを見る視線に顔を上げれば、殿下がニコニコと笑っていた。作り笑いなんだが、目だけはどこか楽し気だ。
「少年は今現在まだ養子ではないようだから、その手続きを速やかに済まさせ、面会の場を私が作るとするよ」
やはり企んでた訳か。
とは言っても、藍をお前の配下の一員に入れさせはしないからな。
「では、私と彼が二人きりで話せる場も用意しておいてください。」
「…ユベール、それは私にどんなメリットがあるのかな?」
「私とその少年が配下になる以外の要求なら飲みますよ…」
「それじゃあ…、
その少年が私の好みだったら婚約者にしてもいいかな?」
「「「「はっ!?」」」」
「なんだか、私の食指が動きそうな気がするんだよね、ふふふ‥」
俺達が硬直したのは言うまでもない。
殿下が婚約者を取らない理由を知っていた。でも、まだ会ってもいない、それも少年に既に狙いを定めている。あわよくば、当日に食おうとしているのは明白だ。
それに、「冗談だ!」とごまかしたりしないのが殿下が本気だという、何よりの証拠だ。
他の異世界は知らないが、この世界では男同士で子供は産めない事になっている。要は、手順を踏めば、産める。一応、性差別が根強い世界観だから皆自重するんだが。王族でも、ある程度のバッシングは受けるさ。
おい、少年。藍だったら特に許さないが、殿下に惚れられるなよ!!
ここにいる殿下以外は同じ心持だっただろう。
殿下以外全員 ”子供産める令嬢を選んでくれ(ください)!!”
自重を知らない殿下に、四人四様に途方に暮れていた。
「…嫌味ですか」
俺が吐き捨てるように言えば、殿下は憎たらしいほどの爽やかな笑顔をこちらに向けた。本当、いけ好かない奴だ。周りを囲っていたギャラリーを手で制すると、こちらに悠々と歩み寄ってくる。それと同時にギャラリーも撤収していった。
”連が殿下の補佐?それ、マジうける!”
今一瞬、脳内を俺を馬鹿にする藍の声が流れていった。
…うん、ムカつくけど、藍ならこういう事言うだろうな。
そうなんだよ。こういう風に冷やかされたくないから殿下の配下になりたくないってのも理由の一つなんだわ…。一番は面倒だからだけど。
殿下は俺の前の席に腰を掛けると、肘をついて口を開いた。お願いだから、暇なら公務でもしててくださいよ。
「ユベール、まだ黒髪黒目の令嬢を探してるのか?」
そう、殿下は必ず第一声がこれ、だ。
「見つかってたら、今ここでボーッとしてませんって…」
「それもそうか。好みのこだわりもそこまで来ると一種の病気だな、はは」
快活に笑う目の前の奴が、将来国を統べる王になるとは思えないんだがな。大体、殿下も婚約者がいないというのはどうかと思うぞ。王族も位の高い公爵家も婚約者を取っていないとかなり有名な話になってしまってる訳だが。故意的に広めたさ。アイツが尻尾を出すための工作だった…。
俺は何故この世界に転生する必要があったのか。前世でも何でもそつなくこなせたから今の境遇に喜びはあんまりない。ましてや家族との親睦も深めるほど、家庭を大事にする両親ではないんだよ。普通の会話と呼べるか怪しいが、一週間の出来事を報告するくらいだな。
俺が思考を飛ばしていると、殿下の忠実な配下達がやってきていた。
「殿下、やはりこちらにいらっしゃいましたか…」
「仕事をさっさと終わらせてからでも時間は十分ありましたのに、途中で放棄していかないでください」
前者が宰相の息子トレバンズ・ジャイルズ。頭脳の方は確かなんだが、少々気が弱い奴だ。お前にこそ補佐がいるんじゃないか?
後者が子爵家出身だが実力者で将来文官の道に進むであろう人物、ライナス・ポロックだ。殿下をそこそこ遊ばせつつ働かせる強者だ。こいつを見ていると、藍を思い出す。俺の藍センサーは全く反応してないがな。
「二人とも来たか。用件はすぐ終わるから大丈夫だぞ。
――よし、話そう。ユベール」
「はぁ?俺は話す事なんてないぞ」
何となしにアキムの方を見たが、この空気は話すしかないのか。諦めも肝心だな。
「んで?殿下の用件は俺の琴線に触れる話題なんですか?」
「ふふ、よく聞いてくれた」
「…用件だけお願いしますよ」
殿下に振り回されるようじゃ俺もまだまだだな。
「用件というのはだな…
令嬢ではないが、黒髪黒目と思しき少年が今日王城に来ていたそうだ」
「………。」
「……」
「は?」
「おうおう、驚いているな!!その反応を待っていたんだ!」
「ちょっと待ってくれ!何だって今更黒髪黒目の特徴をした奴が王城に…」
「うむ。推定8歳の少年がバロン子爵家の者に抱えられていたようだ。少年自身はどこか障害があると私は聞いているぞ。――アキム、君は心当たりはあるか?」
殿下が何故かアキムに視線を向けたので、俺もそちらに顔を向けた。
「いえ、叔父とは縁を切っているため、私も母上も知りません。王城に、ですか。あの人が他人を仕事場に…、それも子供を…。一体どういう風の吹き回しなんだ」
後半は呟くように言っていたため、あまり聞き取れなかったが、アキムの血縁者がその少年を保護しているという事か。障害か…。何かしら今まで見つからない訳がそこにあったんだろうな。
「殿下、その少年の身元は分かりましたか」
「おや、君は男色だったか?」
「冗談は控えてください。どうなんですか。殿下なら調べるくらいの事はしたんでしょう」
問い詰めるとあっさり話してくれたが、あまり実りのある情報ではなかった。
少年はユースティン・バロン子爵の養子になるという事。魔力も自由自在に使え、優秀な人材だという事。黒髪は合致していたが、目は閉じていて黒目かは分からなかったという事。
今のところは藍である確率は高い。
だが、普通には遭遇できないだろう。何かしら場を設ける必要がある。バロン子爵に少年を表に出させるような計らいが…。
こちらを見る視線に顔を上げれば、殿下がニコニコと笑っていた。作り笑いなんだが、目だけはどこか楽し気だ。
「少年は今現在まだ養子ではないようだから、その手続きを速やかに済まさせ、面会の場を私が作るとするよ」
やはり企んでた訳か。
とは言っても、藍をお前の配下の一員に入れさせはしないからな。
「では、私と彼が二人きりで話せる場も用意しておいてください。」
「…ユベール、それは私にどんなメリットがあるのかな?」
「私とその少年が配下になる以外の要求なら飲みますよ…」
「それじゃあ…、
その少年が私の好みだったら婚約者にしてもいいかな?」
「「「「はっ!?」」」」
「なんだか、私の食指が動きそうな気がするんだよね、ふふふ‥」
俺達が硬直したのは言うまでもない。
殿下が婚約者を取らない理由を知っていた。でも、まだ会ってもいない、それも少年に既に狙いを定めている。あわよくば、当日に食おうとしているのは明白だ。
それに、「冗談だ!」とごまかしたりしないのが殿下が本気だという、何よりの証拠だ。
他の異世界は知らないが、この世界では男同士で子供は産めない事になっている。要は、手順を踏めば、産める。一応、性差別が根強い世界観だから皆自重するんだが。王族でも、ある程度のバッシングは受けるさ。
おい、少年。藍だったら特に許さないが、殿下に惚れられるなよ!!
ここにいる殿下以外は同じ心持だっただろう。
殿下以外全員 ”子供産める令嬢を選んでくれ(ください)!!”
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