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1章 隠密令嬢(?)とリア充令息
嵐は去った。多分
しおりを挟む散々弄られた頭も整理されて、瞼を押し上げたら、青年が静かにこちらを見下ろしていた。
彼の膝を借りていたようね。残念ながら眼福って気持ちより前にため息が出た。
「随分無茶をしてくれますね」
「そうかい?私を忘れていた君も悪いと思うけど」
「僕の状態を誰よりも知っていた貴方がそう言うって事は、相当苦労したんでしょうけど。家の方はどうなんですか?害虫排除はできたんですよね?」
「ああ、大丈夫だ。あの女と一部の使用人は隔離している。公爵家…いや私に忠実な部下達が監視しているから下手な事にならないね」
「…そう。ありがとう」
「君に感謝される事はしていないよ。私は後始末をしただけ…でも、その気持ちは受け取らせてもらう」
記憶を取り戻した事によって、目の前の彼の事も思い出した。
少なくとも今世で数少ない、私の味方とだけ言っておこう。
私達から漂う只ならぬ空気を察知して、痺れを切らしたユベールが問いかけてきた。
「…シリル、彼とはどういった関係なんだ?」
「ああ、彼はまあ…親戚のおにぃ―「兄だ、よろしく」
「そ、そうか。よろしく頼む。」
私の説明をぶった切った兄ことジョゼフ兄さんは神々しい流し目をしてらっしゃる。エフェクトの無駄遣いだわ。え?ファンタジーの世界ならアリ?そうね、令嬢方がいたら腰を抜かしたり貧血を起こしたり大変なことになりそうね!
連も”お前も公爵家かよ!マジで何があった!”ってツッコんでくれるな。おいそれと話せる内容じゃないんだよ!察しろ、この才女ッ!!
連の話から逃げるように思案していたら、謎の天の声が聞こえた。
「だ、大丈夫ですか!こちらで大きな魔法発動を感知したのですが、皆様お怪我はありま…――ひっ!?」
ジョゼフ兄さんの魔法を会場にいた魔法省の人が感知したようで、魔法省の関係者を数名連れてやってきた。正義感の強そうな、第一声を上げた彼は、王太子の悲惨な姿に悲鳴を漏らしてしまったようだ。正常な反応だよ。うん。
うんうんと頷いていたら、ジョゼフ兄さんは魔法省の一人に事情説明…大事にしないよう少しの情報で納得させていた。他の魔法省の方々は部屋全体を最新の撮影魔法で保存し修復させていった。連ことユベールは他の面子と王太子の記憶改ざんをとか何とか話している。おい、物騒だな。私も大賛成だけど。害にしかならなそうだもん、王子様。
私はというと、ライナスさんに残されて可哀想なお菓子を恵まれている。嬉しい事に、この身体太りにくいんだよね~。筋肉もそこそこあるし、ある意味チートかな。あ、このカヌレおいひい!前世でも食べた事ある!確か連のファンがバレンタインに買った有名な――って、いらん情報だな。
テーブルの上の菓子がなくなる頃には、片が付いていた。
王太子は担架で運ばれ(すっ転んで頭を打った事にした)、私達はジョゼフ兄さんのおかげで事情聴収に駆り出される心配もなく、その日は解散となった。
去り際に連とジョゼフ兄さんから呼び止められ、約束を取り付けられた。
同時に誘われて困ったけど、ジョゼフ兄さんが何か察したらしく、今週末に連と二人でラム公爵家の別邸にお邪魔する事になった。バロンさんにも伝えとこう。
連はまだ話したそうにしていて、挨拶した際に何か持たされた。
ん?これは、携帯…――マジ?
思わず連を見たらどや顔されたので一発デコピンした。多分繊細だろう頭は避けてあげたんだから感謝しなさい。前世のバラエティー番組で司会者とかがIQ200の天才児の頭を叩いたのを見た時はテレビを掴んで壊しそうになったな…懐かしい。連には苦笑されたっけ。決まって”藍らしいね。関係ない他人のために怒るなんて。”と言われていたな。私は何て返してただろう?
……。まあ、そのうち思い出すか。あ、それより!
「れッ…ユベール、これ…」
「ああ、今日帰ったら試してみて。すぐかけるから」
そんじゃ、と手を振って去る連に口をあんぐり開けていた。
「顎が外れちゃうよ、シリル」
「あ、バロンさん…」
セットされていた髪が少し乱れたのか、前髪を掻き上げるバロンさんは外行きの表情で私を見て、颯爽と抱え上げた。何で…と言わなくても、すぐに視界がぼやけてきた。ホントにいつもタイミングいいな。
帰りの馬車で、私を膝に乗せて抱きかかえたバロンさんは相当疲れていたらしく、愚痴っていた。中でも厄介なのが実家のグレンヴィル、姉夫婦が縁談の場をと多くの令嬢を今日会わせてきたらしい。バロンさんって優良物件だけど、本人は爵位に頓着しないし何なら独身貫こうとしているし、…あれ?私お邪魔では?
甘えてくるバロンさんに絆された私は、明日にでも聞こうと問題を先送りにした。
だが、翌日思いもよらぬ来客があり、聞く事はできなかった。噂をすれば何とやらですね。
彼の膝を借りていたようね。残念ながら眼福って気持ちより前にため息が出た。
「随分無茶をしてくれますね」
「そうかい?私を忘れていた君も悪いと思うけど」
「僕の状態を誰よりも知っていた貴方がそう言うって事は、相当苦労したんでしょうけど。家の方はどうなんですか?害虫排除はできたんですよね?」
「ああ、大丈夫だ。あの女と一部の使用人は隔離している。公爵家…いや私に忠実な部下達が監視しているから下手な事にならないね」
「…そう。ありがとう」
「君に感謝される事はしていないよ。私は後始末をしただけ…でも、その気持ちは受け取らせてもらう」
記憶を取り戻した事によって、目の前の彼の事も思い出した。
少なくとも今世で数少ない、私の味方とだけ言っておこう。
私達から漂う只ならぬ空気を察知して、痺れを切らしたユベールが問いかけてきた。
「…シリル、彼とはどういった関係なんだ?」
「ああ、彼はまあ…親戚のおにぃ―「兄だ、よろしく」
「そ、そうか。よろしく頼む。」
私の説明をぶった切った兄ことジョゼフ兄さんは神々しい流し目をしてらっしゃる。エフェクトの無駄遣いだわ。え?ファンタジーの世界ならアリ?そうね、令嬢方がいたら腰を抜かしたり貧血を起こしたり大変なことになりそうね!
連も”お前も公爵家かよ!マジで何があった!”ってツッコんでくれるな。おいそれと話せる内容じゃないんだよ!察しろ、この才女ッ!!
連の話から逃げるように思案していたら、謎の天の声が聞こえた。
「だ、大丈夫ですか!こちらで大きな魔法発動を感知したのですが、皆様お怪我はありま…――ひっ!?」
ジョゼフ兄さんの魔法を会場にいた魔法省の人が感知したようで、魔法省の関係者を数名連れてやってきた。正義感の強そうな、第一声を上げた彼は、王太子の悲惨な姿に悲鳴を漏らしてしまったようだ。正常な反応だよ。うん。
うんうんと頷いていたら、ジョゼフ兄さんは魔法省の一人に事情説明…大事にしないよう少しの情報で納得させていた。他の魔法省の方々は部屋全体を最新の撮影魔法で保存し修復させていった。連ことユベールは他の面子と王太子の記憶改ざんをとか何とか話している。おい、物騒だな。私も大賛成だけど。害にしかならなそうだもん、王子様。
私はというと、ライナスさんに残されて可哀想なお菓子を恵まれている。嬉しい事に、この身体太りにくいんだよね~。筋肉もそこそこあるし、ある意味チートかな。あ、このカヌレおいひい!前世でも食べた事ある!確か連のファンがバレンタインに買った有名な――って、いらん情報だな。
テーブルの上の菓子がなくなる頃には、片が付いていた。
王太子は担架で運ばれ(すっ転んで頭を打った事にした)、私達はジョゼフ兄さんのおかげで事情聴収に駆り出される心配もなく、その日は解散となった。
去り際に連とジョゼフ兄さんから呼び止められ、約束を取り付けられた。
同時に誘われて困ったけど、ジョゼフ兄さんが何か察したらしく、今週末に連と二人でラム公爵家の別邸にお邪魔する事になった。バロンさんにも伝えとこう。
連はまだ話したそうにしていて、挨拶した際に何か持たされた。
ん?これは、携帯…――マジ?
思わず連を見たらどや顔されたので一発デコピンした。多分繊細だろう頭は避けてあげたんだから感謝しなさい。前世のバラエティー番組で司会者とかがIQ200の天才児の頭を叩いたのを見た時はテレビを掴んで壊しそうになったな…懐かしい。連には苦笑されたっけ。決まって”藍らしいね。関係ない他人のために怒るなんて。”と言われていたな。私は何て返してただろう?
……。まあ、そのうち思い出すか。あ、それより!
「れッ…ユベール、これ…」
「ああ、今日帰ったら試してみて。すぐかけるから」
そんじゃ、と手を振って去る連に口をあんぐり開けていた。
「顎が外れちゃうよ、シリル」
「あ、バロンさん…」
セットされていた髪が少し乱れたのか、前髪を掻き上げるバロンさんは外行きの表情で私を見て、颯爽と抱え上げた。何で…と言わなくても、すぐに視界がぼやけてきた。ホントにいつもタイミングいいな。
帰りの馬車で、私を膝に乗せて抱きかかえたバロンさんは相当疲れていたらしく、愚痴っていた。中でも厄介なのが実家のグレンヴィル、姉夫婦が縁談の場をと多くの令嬢を今日会わせてきたらしい。バロンさんって優良物件だけど、本人は爵位に頓着しないし何なら独身貫こうとしているし、…あれ?私お邪魔では?
甘えてくるバロンさんに絆された私は、明日にでも聞こうと問題を先送りにした。
だが、翌日思いもよらぬ来客があり、聞く事はできなかった。噂をすれば何とやらですね。
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