巻き込まれ転生

もふりす

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1章 隠密令嬢(?)とリア充令息

家族のカタチ 後編 ジョゼフ・ラム視点

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少年が話してくれた事は真実を知るには、十分すぎる内容で。
父親への怒りで目の前がチカチカしそうだった。

それも目の前の少年を思えば、鎮まった。
彼は被害者で、私の異母兄弟でもあるんだから。守らなきゃ。

――今の私に何ができる?

同年代の誰にも負けないくらいに私は強くなった。
勉学も武術も剣術も磨いてきて、…それを生かせるのはいつだ?

所詮子供でしかなくて、親の支えがなければ家を存続させられない。
彼を救い出すと差し伸べた手も、自分から見ても頼りなさげだ。

どうしたら…―――

ボンヤリと眺めていた手に、温もりを感じた。
少年の小さな手だ。

手から視線を徐々に上げて彼を見れば、瞳に光を宿していた。

「…聞いてくれて、ありがとう。ここに来てくれて、…ありがとう。」

彼は私の手をギュッと握ると、上着を返してきた。
その瞳に、迷いは一切残っておらず、私の助けなんて必要ないと突き放された気がした。

君は…、強いな。私は鍛えるべき箇所を間違えてしまったのか。

「必ず、救ってみせる。だから、少しの間辛抱していてくれッ…」

それに対し、少年は微笑んだが、頷いてはくれなかった。
私も供を連れて、館を後にした。

私の言葉は彼に届いた…と思う。



それから3週間後、少年の様子を確認できる機会がもうすぐそこまで来ている。

ここまでに私が調べた事はこうだ。
少年は義母にツァイスと名付けられ、数か月前からあの館で人形として買われた。夫人を主とし、彼女の命令に従う日々を送っているそうだ。それこそ、身の回りの世話だけでなく、夜の営みも催促しているんだとか。
流石に、未発達な体だから貞操を奪われていないが、少年を痛めつけたり、際どい命令もしていると影から報告を受けた。


少年と別れてこれだけの歳月が経ってしまったのにも訳がある。
一つは、夫人に気取られないように情報収集するため。
もう一つは、父との話し合いの場を作る必要があったからだ。

それが、今日だ。

「…私に用とは何かね?ジョゼフ」

「時間を割いていただき有難うございます、父上。」

「すぐ済む話かね?私も暇ではないのだから、手短に頼むよ」

「それは、…父上次第です」

眉間に皺を寄せ、訝し気な表情でこちらを見てきた。
父が何か言い出す前にテーブルの上に資料を置いた。
それを見るなり、父は一瞬顔色を変え、資料に目を通し始めた。

全てに目を通して、父は私を見て嘆息した。

「…証拠は、他にも持っているんだろう?それだけの確証があるんだな?」

「父上は隠したかったようですが、この際に事情を説明してくれませんか。

――何故、母上を殺した女と夫婦になったのですか。」


私の異母弟の事を調べる時、必然的に入ってきた情報は、夫人に関する情報の矛盾。
夫人の生い立ちや交流関係、適正魔力などの個人情報を調べたが…、
身元不明で接触した事のある人物は父上のみ。適正魔法は闇。

影に隠密捜査を任せた所、彼女は人ではないという事が判明した。
父上は、悪魔と契約をして言いなりになっているのだ。
何が父上を掻き立てたのか、それを知らない事には夫人と縁を切れない。

父上は苦い思いを押し込めるように一呼吸置くと、口を開いた。

「そうだな。お前を苦しめてまでこの地位に居続けられないな。
私が彼女と手を結んだのは、偏にお前を失いたくなかったからだ。」

その後語られた内容はこうだ。

悪魔であるあの女は父に一目惚れし、伴侶になってと誘ってきたそうだ。その当時から父は私の母と婚約していて既に私を身籠っていたそうだ。
父は元々人の感情の機微には敏い方で、悪魔が母に異様な執着をし出した事にもいち早く気付いた。母に何かあってはいけないと思い、つい相談に乗ってしまった。それが、悪魔の罠だと分かっていたのに。

父は悪魔に身の毛もよだつお願いをされた。

”私、貴方との子が欲しいわ。貴方の愛を私にちょうだい”

父が生涯愛すと決めた女性は母だけで、家格もあるため得体のしれない相手と交わる事にも恐れを感じていた。
いい答えをもらえないと分かっていたのか、悪魔は違う提案をしてきた。

”あの腹にいる子供をちょうだい。貴方達の仲は裂かないから、ね?”

十分に夫婦間に亀裂が入るだろう。
父は母に相談等できず、返事を保留にした。

そこで拒絶するなり他の提案をすれば何か変わっただろう。

痺れを切らした悪魔は母の元に訪れた。
それも、臨月を迎えていた、不安定な母の元に。


「私はあの時…きちんと悪魔を止めていたら、お前とあいつ二人を守れたかもしれない。…―なのに、決断しなかったばかりに、あいつは自分の命を捧げてしまった。お前を守るために」

母の顔を見れず、その存在を知らず、肖像画の母しか知らなかった。
だけど、強い女性だった気がする。

父は相変わらず気が弱い。
私と話すことを避け、悪魔の言いなりになり、今も逃げ腰だ。

「…――もういい頃合いかもしれない」

「父上?」

急に周りの空気がガラリと変わり、父の方を見れば、亜空間から一枚の用紙を出した。

父と…悪魔の契約書の写しが置かれていた。
これが、事の発端の契約なのだろう。

「ジョゼフ。お前の成長が思いの外早かった事に感謝する。
私は悪の根源を取り払う機会を見計らっていたのだが、最終的にはお前の賢さに助けられてしまった。情けない父上ですまないな、ジョゼフ…」

「父上、いきなりどうして――」

そんな事を言うんですか、と言おうとして、父の慈しむな眼差しと交差した。

「格好がつかないな。ミリアにも怒られてしまうな。」

そうか。

父上。――貴方は母上と同じ方法を取るんですね。

二人の愛情を感じる反面、潔く私を置いていこうとする二人に苛立ちを感じた。
ならば、貴方方の息子である私が取る行動も決まっている。

「父上、後は任せてください。ただ、後悔は残さないで下さいよ。立つ鳥跡を濁さず、ですからね」

父は目を見張り、次の瞬間にはくしゃりと顔を歪め、私を抱きしめてきた。
私も不器用な愛情で私を見守ってくれた父を抱きしめ返した。

「ああもう、私の…私達の子はもうこんなに大きくなって…ッ、――ジョ、ゼフ…、ありがとう」
「父上…、父上っ。」

しばし抱きしめ合って、名残惜しそうに互いを見た。
涙で残念な顔になっている父上が、今までで一番頼もしく見えるなんて。
――あ、そうだった。

「父上、」
「分かっているよ。でも、彼には会わない。
…これは、私なりの彼への誠意なんだ。私は、彼の手を放してしまったのだから」

「…そうか。なら、何も言わない。
父上。何十年先になるか分からないけど、私もそちらに行きますから。だから、父上は――」
「ジョゼフ、それでは地獄に来ることになってしまうぞ?」
「ああもう!締まらないな!父上!」
「あ、ああ。何だ?」
「父上は先にあちらに行って、母上を探して上げてください。きっと父上を待ってますから。だから、お元気で。――行ってらっしゃい、父上」

「ああ、ジョゼフ。行ってくる」

父上は私のおでこにキスを落とすと、しっかりとした足取りでドアの向こうに消えた。


よし、私もひと暴れしますか!


その時の私は知らなかった。
あの少年がむごい仕打ちから逃れ、自力で脱出している事に。

ただ、私の行動によって悪魔に侵食された使用人を一人も取り逃さずに済んだ。


それから数日後、私は父の爵位を継ぎ、ラム公爵家当主となった。

今の私なら、何も躊躇ったりしない。
――見守っていてください、父上、母上。


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