18 / 30
1章 隠密令嬢(?)とリア充令息
甦る記憶
しおりを挟む
前髪をかき上げながら部屋中央に佇む美青年は、部屋全体を目だけで見渡した。
展開していた魔法を解除したのか空気が一瞬歪んだ。
王太子も側近達も時間が止まったようにフリーズしてる。
流石に連も石のように固まっている。
えー…、この状況どうすりゃいいんだ?
相も変わらず美青年は王子にガン飛ばしてるし。何か目で会話してる…?
美青年が腰に差してる剣を鞘から出す動作をしたら、王子が顔を横に振って小刻みに震えてるんですけど。おお、語らずとも分かりますな。恐喝ですな!!
・・・・・・ってか、私、ここ離れちゃ駄目?
内輪の問題に、私関係ないよね~。
足音を立てずに一歩後退しようとして、――――できなかった。
後ろから肩に手を置かれてました。
・・・蓮、後でシメるからな。
連ことユベールを一睨みして前を見たら、王子が仰向けになって失神していた。
‥‥‥見たくもなかったが、両手で股間を押さえてる。
「ユベール、ありがとう」
美青年が頬笑みをたたえながらこちらに向かって歩いてきた。
私は視線を逸らして下を見てたんだけど、至近距離で覗き込まれた。
わっっ、近い!!!
無駄に綺麗なその顔を見て、また既視感を覚えた。
思わずその顔を両サイドから手で挟み込んで聞いてみた。
「何処かで会った事ありますか?顔に見覚えがあります…」
目の前の美少年は小首を傾げてみせた。
う~~~ん、イケメンは一度で覚えるんだが。連も然り。
そんな事考えてたら、後方から答えが返ってきた。
「いつも見てる顔じゃねぇか。お前の顔に似てるだろう。」
「‥‥は?」
未だにホールドしてる美青年の顔をガン見するが、…いや~、んな訳…―――
「…そうか。私は、―――自惚れていたのか。」
美青年は憂い顔を浮かべ、その瞳に私を映してきた。
この顔が、私に似てる?この隙のない端正な顔が?
彼の手が私の頬に触れたと思ったら、おでこに手を滑らせてきた。
晒されたそこに彼の、美青年の唇が当たった。
「えぇッ!?」
驚いたのも一瞬で、辺りが真っ白になった。
頭の奥から様々な記憶が溢れ出してきて、考える余裕がなくなったんだ。
今世に生まれ落ちてからの記憶が甦ってきて、パズルのピースのように嵌まっていく。
うっ!この、記憶を無理やり引き出す感覚はッ…。
この青年っ…、優し気な見た目して強引でガサツだ!!
気遣って、なんか、ないだろうッ!!
・・・ッ、頭が割れるように痛い。
身体も発熱したみたいに熱い。
この、痛みは…―――
私の意識は遡っていくように、記憶の中に引きずり込まれていった。
*
*
*
*
ここは、…―――ああ、またか。
記憶の中の映像を見て、私は記憶の殆どを思い出した。
前世と今世の自我が確かに存在していて、目の前の光景を第三者の目線で見ているようだ。
記憶の私はまだ五歳。
貴族だったのは確かだけど、そんないい境遇ではなかった。
薄汚れた布一枚で身体を隠し、物置小屋に身を置いていた。
夏は息苦しく、冬は肌寒い。
遠のく意識を必死で繋ぎ止め、いつ聞こえてくるか分からない足音に耳を澄ましていた。
両親と呼ばせてもらえた事はなかったが、貴族の親はいて、血筋はまともだった。
――そう。
間違っていなければ、この日が実母の命日。
母の葬儀で呆然としていた私は、天涯孤独になったと思っていた。
だから、目を覚まさない母の傍を離れない私に話しかけてきた男性の言葉の意味が分からず、只々見覚えのない顔を見上げていた。
『迎えが遅くなってしまったね。大丈夫だよ、安心して?君を私の家に迎え入れる準備はできているから。今後の心配はしなくていいからね?』
いたい。はなして。
おかあさんはここにいるの。いっしょにいるの。
めをさまさないのは、つかれてるからなんだよ?
だから、そばをはなれたりしないの。
当時の思いが、幼い声で脳内に流れてくる。
状況を把握できてないけれど、母へのまっすぐな想いを胸に、腕を引く大の大人に抵抗している。力がないから引きずられていて、母から離れていく。
――でも、目から光は消えていない。
それに安心ながら、冷静な頭で考える。
母は急に倒れて亡くなった。持病を患わせて、とかではない。
この男が言う『迎え』は明らかにおかしい。
これでは、母の死を予期していた事になる。
これは後から知った事だけど、私を葬儀場から、母から切り離したこの男が実の父だった。
私が父、いや公爵に拾われた理由を知ったのはその晩の事だった。
悪夢の始まりに、幼かった私は耐え切れず、宿していた光は呆気なく消え去った。
展開していた魔法を解除したのか空気が一瞬歪んだ。
王太子も側近達も時間が止まったようにフリーズしてる。
流石に連も石のように固まっている。
えー…、この状況どうすりゃいいんだ?
相も変わらず美青年は王子にガン飛ばしてるし。何か目で会話してる…?
美青年が腰に差してる剣を鞘から出す動作をしたら、王子が顔を横に振って小刻みに震えてるんですけど。おお、語らずとも分かりますな。恐喝ですな!!
・・・・・・ってか、私、ここ離れちゃ駄目?
内輪の問題に、私関係ないよね~。
足音を立てずに一歩後退しようとして、――――できなかった。
後ろから肩に手を置かれてました。
・・・蓮、後でシメるからな。
連ことユベールを一睨みして前を見たら、王子が仰向けになって失神していた。
‥‥‥見たくもなかったが、両手で股間を押さえてる。
「ユベール、ありがとう」
美青年が頬笑みをたたえながらこちらに向かって歩いてきた。
私は視線を逸らして下を見てたんだけど、至近距離で覗き込まれた。
わっっ、近い!!!
無駄に綺麗なその顔を見て、また既視感を覚えた。
思わずその顔を両サイドから手で挟み込んで聞いてみた。
「何処かで会った事ありますか?顔に見覚えがあります…」
目の前の美少年は小首を傾げてみせた。
う~~~ん、イケメンは一度で覚えるんだが。連も然り。
そんな事考えてたら、後方から答えが返ってきた。
「いつも見てる顔じゃねぇか。お前の顔に似てるだろう。」
「‥‥は?」
未だにホールドしてる美青年の顔をガン見するが、…いや~、んな訳…―――
「…そうか。私は、―――自惚れていたのか。」
美青年は憂い顔を浮かべ、その瞳に私を映してきた。
この顔が、私に似てる?この隙のない端正な顔が?
彼の手が私の頬に触れたと思ったら、おでこに手を滑らせてきた。
晒されたそこに彼の、美青年の唇が当たった。
「えぇッ!?」
驚いたのも一瞬で、辺りが真っ白になった。
頭の奥から様々な記憶が溢れ出してきて、考える余裕がなくなったんだ。
今世に生まれ落ちてからの記憶が甦ってきて、パズルのピースのように嵌まっていく。
うっ!この、記憶を無理やり引き出す感覚はッ…。
この青年っ…、優し気な見た目して強引でガサツだ!!
気遣って、なんか、ないだろうッ!!
・・・ッ、頭が割れるように痛い。
身体も発熱したみたいに熱い。
この、痛みは…―――
私の意識は遡っていくように、記憶の中に引きずり込まれていった。
*
*
*
*
ここは、…―――ああ、またか。
記憶の中の映像を見て、私は記憶の殆どを思い出した。
前世と今世の自我が確かに存在していて、目の前の光景を第三者の目線で見ているようだ。
記憶の私はまだ五歳。
貴族だったのは確かだけど、そんないい境遇ではなかった。
薄汚れた布一枚で身体を隠し、物置小屋に身を置いていた。
夏は息苦しく、冬は肌寒い。
遠のく意識を必死で繋ぎ止め、いつ聞こえてくるか分からない足音に耳を澄ましていた。
両親と呼ばせてもらえた事はなかったが、貴族の親はいて、血筋はまともだった。
――そう。
間違っていなければ、この日が実母の命日。
母の葬儀で呆然としていた私は、天涯孤独になったと思っていた。
だから、目を覚まさない母の傍を離れない私に話しかけてきた男性の言葉の意味が分からず、只々見覚えのない顔を見上げていた。
『迎えが遅くなってしまったね。大丈夫だよ、安心して?君を私の家に迎え入れる準備はできているから。今後の心配はしなくていいからね?』
いたい。はなして。
おかあさんはここにいるの。いっしょにいるの。
めをさまさないのは、つかれてるからなんだよ?
だから、そばをはなれたりしないの。
当時の思いが、幼い声で脳内に流れてくる。
状況を把握できてないけれど、母へのまっすぐな想いを胸に、腕を引く大の大人に抵抗している。力がないから引きずられていて、母から離れていく。
――でも、目から光は消えていない。
それに安心ながら、冷静な頭で考える。
母は急に倒れて亡くなった。持病を患わせて、とかではない。
この男が言う『迎え』は明らかにおかしい。
これでは、母の死を予期していた事になる。
これは後から知った事だけど、私を葬儀場から、母から切り離したこの男が実の父だった。
私が父、いや公爵に拾われた理由を知ったのはその晩の事だった。
悪夢の始まりに、幼かった私は耐え切れず、宿していた光は呆気なく消え去った。
0
お気に入りに追加
186
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる