巻き込まれ転生

もふりす

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1章 隠密令嬢(?)とリア充令息

残念王子

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破壊された扉の向こうから王子が登場。
・・・誰も囚われてないから、そのダイナミックな演出いらないぞ。

当の本人は肩や袖に着いた木の欠片を手で払っている。
さっきまで話し合ってたイケメン達も慌てて彼に駆け寄ってます。
あ~、やっぱり側近なんですね。

まだ名も知らない面子は王子を何やら説得している。
友人になったと思うライナスさんはどこかに連絡を取っている様子。

そして、連ことユベールは私の横で心底不愉快そうで機嫌を損ねている。
よく分からないけど、側近一同が王子を放ったらかしもおかしいからね?

「アレが、王子?何か…威厳というかオーラがないね…」

「そう言ってやるなって。アレでも王太子だから不敬だぞ」

「は~、王太子か。この国、大丈夫かな…」

ユベールとひそひそ話をしてたら、その王子と目が合ってしまった。
微笑まれたので、愛想笑いを返した。

「ねぇ、私って顔知られてるの?」

「ん~、アイツはお前を遠目で見たって言ってたけど…。
お前が王城に居たなら有り得るだろ?」

「……一つ聞いてもいい?」

「ん?」

ユベールの耳元で訊いてみた。

「…あの王子は、男色なの?さっきからやたらと粘着質な視線を感じるんだけど…」

「お察しの通りだよ」

マジか。
王太子という身分を振りかざして美少年を喰ってきたのだろう。
でも、私は別に美少年では…ないよね?顔が整ってる自信はあるけどさ。

イケメン側近たちが押さえきれなかったのか、王太子殿下がこっちにやってきた。

「やあ、はじめまして。…君が、噂のシリル殿かな?」

ええ、そうですとも。って、噂?何の話だ?それは置いといて。
女装が趣味だとは思わないでくれよ?
この格好は今日限りなんだから。

――なんだけど、ジロジロと身体に穴が開きそうな程見つめられてます。
それに、”彼なら私の相手に最適だ”とか言っちゃってますよ。
可愛く着飾った私を見て言ってるのかな?私の中身は可愛くないぞ?

「お初にお目にかかります。シリルです。…何か?」

「これは失礼。あまりに可憐だったので見惚れてしまいました。
――これからどうですか。二人きりでこれからの事を話しませんか?」

おいおい。それはお誘いなんだろうけど、こっちは断れないじゃないか!
分かっててやってるだろ!いけ好かない野郎だこと。

何かいい言い訳はないかと考えあぐねてると、ユベールが介入してきた。

「殿下。あの約束は守ってください。
これは信用問題でもあるんですから、慎重に行動してください」

蓮、人の下で働いてるんだね。あの連が、ね~。
一人感心していると、オレンジ…じゃなくてライナスさんに肩を叩かれた。
手招きされたので、部屋の隅に移動した。
連はともかく、王太子殿はヒートアップしてるのかこちらには気付いてないみたい。

「本当に申し訳ない。びっくりしたよね?」

「あ、うん。王太子の事だよね?
びっくりはしたけど、色々と問題ありそうだね」

「イーモン殿下は少し、本能に忠実だからね。
最近は噂が落ち着いてたからこんな面倒―手がかかる、いや問題がなかったんだけど、本当に参るよ。シリル、少しの辛抱だから我慢してね。彼を手懐けられる人が、もうそろそろ――あっ、来た」

ライナスさんが顔を上げた方向を見れば、扉部分に立つ青年が一人。

白銀色の長髪を後ろで結び、青灰色の瞳は怒りを湛えている。
背筋が伸びる感覚がして彼を見つめてみたが、妙な既視感の理由を見つけられない。

見た目は儚げな美青年だけど、彼の佇まいは王族のそれだった。


――私は、彼をどこかで見た事がある?

無くした記憶の中で、とても大切な事だったように感じる。
何だか胸の奥がざわついて、心臓の音が煩い位に大きく聞こえる。

もしかして、私が貴族だった頃の知人、…もっと親しかったとか?

見入っていた青灰色の瞳はある人物を見るや否や、窄められた。

彼は王太子を射殺さんばかりのオーラを纏い、王太子を睨みつけている。
それに気づかない人は誰一人としていなかった。
王太子が尻餅をついて後ずさっていて、側近たちはそんな彼が逃げ出さないよう左右に陣取っている。彼らも心なしか顔色が悪い。オーラに当てられたのかな?


状況把握していたら、王太子の見苦しい言い訳が聞こえてきた。


「ひ、ひいぃぃぃぃ!!…ッ、約束は違えてない、はず!な、なな何でここに…。
・・・今日なら心配する必要はないと…。

はっ!――ユベールッ!私を騙したな!?」

王太子ことイーモンは震える声でユベールを非難しているが、威厳なんてないに等しい。
・・・バカ王子、いいから口閉じろ~。
お前が何か言葉を発するごとに、正面の青年のだろう殺気で空気が淀んでいってるんだが。

私は怖いもの見たさで青年の方を見て、後悔した。

息が止まるかと思った。

心臓が凍り付かせられたように身動きが出来ず、意味もなく彼の瞳の奥を覗き見る事しかできなかった。
彼が話していると気付いて、やっと我に返った。

「――――――――…」

「…ッ!?」

「―――――――」

「―――、―――!!」

・・・・・・・・・
・・・・・・・・・ん?

声が全く聞こえないんだけど。

よしよし、読唇術をしろと言うんですね。
私には赤子の手をひねるようなもん―――・・・・・・ッ!?!?

・・・あ~、うん。そうか。

私も理解できる程度にはバロンさんから教えていただいてますけど、まさかこんなに早く復習する羽目になるとは…。

私の頭の中は絶賛ヒートアップ中です。バカ王子を不憫に思いつつも、青年に”よし、もっとやれ!”とエールを送ったり、余所でやってくれと思わなくもない。


要約すると規制の入るような、危うい会話が成されていました。
グロイというか、生々しいと言いますか…。

私はとんでもなく内容に、頬を引き攣らせていた事だろう。
四つの手によって、視界と音を塞がれた。きっと連とライナスさんだ。


それらの手が離れていくのに、それから数分と掛からなかった。

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