巻き込まれ転生

もふりす

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1章 隠密令嬢(?)とリア充令息

再会

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お菓子もぐもぐ。紅茶も適温のものが飲み放題。
贅沢なひとときだな~、…この重い空気がなければ、ね。

目の前では真面目な話が成されてたんだけど、今は何やら深刻な状況です。
私、展開が読めてないんですよね。というか、どうやら空気扱いです。

何故なら、私を除く全員が遮音フィールド内で話し合いをしてるからです。
一人だけ仲間外れとか…。前世でも友達いなかったのに、嫌がらせかぁ!!

でも、大事な話みたいだから私は私の役割をするのみ。
そう、テーブルに所狭しと並ぶスイーツとセルフサービスの紅茶。
それをいただくのが私の与えられた役目!
今まで贅沢できなかったし、少しくらい食いすぎても―――

「…美味しそうに食べるね」

「そりゃ本当に美味しいんですから当然!世の中の令嬢は食を細くしなきゃいけないとか無駄な事をしてるよ、ほんと」

もぐもぐ。あ、このパイ生地、サックサク!
生地が崩れにくい上にしっとりしてるくせに、サクサクとか!うまっ!
中に入ってる林檎も赤ワインが染み込んでて…、何これ、最高~!

「これも美味しいよ」

こ、これはぁ!!イチゴ大福ぅぅぅぅ!?!?
え、何で?この世界に存在してるとか。シェフ、いやパティシエも転生者か!

・・・・・・。

ん?

「…ん゛んんっ!(ごっくん)…誰?」

今更人の気配に気づきました。噎せそうになったわ、危ない。
私、会話してた覚えはなかったけど、会話になってたのね。

ようやく反応を示した私に、その人物は目を丸くして笑い出した。

「ははっ!君、面白いね!…くくっ、思わず餌付けしちゃったよ」

笑いは止められないのかお腹を押さえながら会話を続ける彼は、間違いなくイケメン集団の中の一人だ。見た目は橙色の髪に焦げ茶色の瞳の、細身のイケメンですね。才覚があるなら、頭脳派だろうな。どう見ても武闘派ではない。

「っ、すまないね。笑い出したりして。まだ自己紹介をしてなかったね。
私は、ライナス・ポロックだ。よろしく」

と言いながら、こちらが名乗るのを待っているご様子。
気さくで賢そうな人みたいだし、別に名乗っても大丈夫、かな。

「私はシリルと言います。バロンさんの元で弟子をしてます。よろしくお願いします、ポロック様。」

頭を下げてたら、無理やり身体を起こされた。

「堅苦しく”様”付けしなくていいから!ライナス、でいいから!
私もシリルって呼んでいいかな?」

「あ、はい…。ライナス、さん」

「まだ他人行儀だね。それが素、なのかな。私は子爵だから身分とか気にしなくていいよ。私も、気楽に話せる友人が欲しいからね」

「っ!」

そうか、友人…。
これは友人を作れる絶好のチャンス!

「あの――」


ガシッ


話しかけようとして、頭を鷲掴みされ、顔の向きを変えられました。非常に痛い。
向けられた方向には、アッシュブラウン君がいました。

――そう、連だ。

向こうも何やら感じ取るものがあるらしく、纏う空気が緩んだ。
そして、小声で。

「藍、だろ?」

私はこくりと頷いた。
別に、絶対会いたくない訳じゃなかったし。
今日の、私が言う嫌な予感はこれじゃないと分かる。勘だけどね。

私だと分かると、そのまま肩に腕を回して話し続けた。

「嫌味言うつもりなかったんだけど、その格好…何?」

「これはっ――、ってこのまま話して大丈夫なわけ?」

「ん、大丈夫。遮音してるから」

へぇ~、…遮音だけじゃないよな。明らかに時間とか止めちゃってますよね?
周りが不自然に止まってるもん。まあ、誰かに聞かれても困るしね。

「で?」

「…ああ、この格好は着せられたんだ、強制的にね」

「ふ~ん。ってか、女に生まれなかったんだな。あれか、女装男子が悪役令嬢ってか?」

「言いたい事は分かるよ?私も何が何だか…」

本当に、無理ある設定だよね。
女装男子って時点で、ヒロインが好きになる相手(男)を好きになっても、結ばれる事はない訳じゃん。攻略対象達は地位ある連中だから、男を伴侶にとかアウトでしょ。

「私がヒロインから相手の子息を奪うなんて、性別的に無理があるでしょ。」

「ああ、それな。実は、男同士でも子は産めるだとよ…」

「へ~…え゛!?何で?ご都合主義?」

「俺も知りたくなかったけど、男にも子宮を作れるらしい。そういう種を使うんだって」

これはかなり衝撃的な事実。
何、奪取できちゃうのか。するつもりはないが。
男なのに女にもなれる…。つい最近男だと自覚した自分としては複雑な心境だわ。

「あ、そういや、連は今世では”ユベール・なんとか”…だったか。
前世と変わった所って、庶民から金持ちになった事だけじゃない?
あ、流石に機械いじれなくて禁断症状とか…」

他愛もない話題だと思うんだけど、連が黙り込んでしまった。
怒ってるような、泣きそうな、微妙な顔をしてる。

「変わらないなって、最初の頃は思ってた。
でも、生活に違和感しか感じなくて、本当につまらなくて退屈だった…」

「…今は違うんだ?」

「今は、面倒だけど馬鹿ができる仲間ができた。」

何だ、私がいなくても案外青春全うしてるじゃないか。
改めて、連と離れてた時間が思ったより長かった事に気が付く。
私の存在意義って…、いや、今は違うか。
私は、元貴族で庶民の、バロンさんの一番弟子で…。将来の夢は…――

「だけど、まだ足りなかった。物足りなかった」

おい、随分と贅沢を言うな。

「金持ちなんだから、欲しけりゃ手に入るでしょ?
あれ、もしかして…、婚約者がいる人の事、好きになっちゃったの?」

ニヤニヤしてたら、頭を叩かれそうになった。
ふふ、条件反射は鈍ってなかった。よしよし。

と思ってたら、

「…なら、お前が欲しい。いくら出せばいいんだ?金で手に入れていいのか?」

ソファに押し倒されながら尋問?脅迫?されてます。
今のところ、ときめく要素はない。

――そう、言い忘れてたけど、コイツ――連はモテるけどフラれもする。
連も恋愛をしてみたいと言う時期はあった。でも、一週間も持たずにフラれていた。
気の利く台詞を言えない。頭の容量に彼女の事を考えるスペースがない。
恋愛に対して受け身でしかない。恋愛してみると言った割に奥手。面倒くさい。

…とにかくだ。面倒な彼を包み込める人物は今までいなかったんだな。
だから、胸キュンっぽい描写なのに、ちっとも心動かない。
まあ?今更意識はしない。手の掛かる、年上な弟だもん。

「助手はしないからね?メイドも執事もお世話係もおかんも、し・な・いからね?」

「…ああ、婚約者とか恋人とか作らないから自由に出入りして大丈夫。
変な気遣いはいらないから、明日から来てくれていいから。」

「いや、行かないから」

「…――何が不満なんだよ」

えええ~?全部だけど、言ったら言ったで、巻き込まれる。
私は、危ういけど今の立ち位置を変えたくない。

「あ、…時間切れ」

「え?」

連がそう言い終えてから、空間がぐわんと歪んだ。
時間を止めるのにも制限があったんだな。
色々と魔法にも種類があるみたいだな。

「…っ、ごめん」

「?いや、大丈夫だけど」

何やら謝りながら、私の上から退いてくれた。
沈黙が続きそうだったから声を掛けようとして――、



ドガアアアアアァッ―――――


客室の扉が吹っ飛びました。
蹴とばした時に振り上げた長い足を下ろしたのは、多分王子――金髪少年だった。

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