巻き込まれ転生

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1章 隠密令嬢(?)とリア充令息

こんな予感はしてた!

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バロンさんと変な接触があった以降は、自分で出来る事は自分でやるようになった。

風呂はクリーン魔法で綺麗にして、モノクルを装着したまま浴槽に浸かったりしている。湯気で曇ることのないように目元に小さな結界を張ってるから大丈夫!

モノクルの使用時間外は、魔力での透視ができるよう特訓をしてます。傍から見たら目を閉じてるように見えて危ないけど、私自身は周囲が見えてるという感じ。モノクルとの使い分けが出来そうになってきたから、外出時にモノクルを身につける事にするつもり。


あれからバロンさんとゆっくり話す事がなかったのは避けられてるからだと思ってたんだけど、違いました。どうやら仕事を前倒しで終えてるみたいで、顔を合わせられなかった模様です。三日で2週間分の仕事を終えるって、神がかってるね。私も見習わなきゃだね!

そんなこんなで、話があるとかで朝食後に引き止められました。


「申し訳ないんだが、シリルには社交の場に出てもらわなくてはならない。
すまないね。私の力じゃどうにもできなかった。」

うん、これは仕方ないんじゃないかな。
バロンさんって宮廷魔術師としては地位が高いけど、子爵位だから断れないはずだ。


「そこは気にしてないんで心配しないでください。
それより、何故私が同行する事になったんです?バロンさんの弟子、としてですか?」

これ以外考えられないんだよね。
元貴族だとはいえ、烙印押された出来損ない扱いだろうし、呼ばれる理由ないもん。
功績を上げた魔術師の端くれとして招待されたって事だろうし。


「勿論シリルの功績は公表されているから、私の一番弟子としてのお披露目も兼ねてるよ。でもね、今回は何かある気がしてならないんだ…。だからこそ、参加する前に調査したんだが、良くない情報が耳に入って来た時は耳を疑ったよ。…――本当に不快極まりないが、参加するしかない。私は今の爵位を呪いたいくらいだよっ…!」


沸々と怒気の籠った声色で言いながら、バロンさんは拳を震わせている。
そんなに許せないような事が舞踏会で行われようとしているの?

気になって問いかけようとして、バロンさんに肩を掴まれた。


「舞踏会の間は私から離れないでくれ。君は私の家族なんだから」

「えっと、あの?」


そう言葉を残して、バロンさんは険しい顔つきで食卓を後にした。

とにかくバロンさんの傍は安全だって事だよね?
私も覚悟を決めて、使用人達が用意してくれた正装に身を包むこととなった。









嘘でしょ。忘れかけてたフラグを思い出す羽目になった。
うん、注意してればこんな事にはならなかった…かもね?

「シリル様っ、大変似合っておいでです!!」

「あ…ああ、そうか。ありがとう…」

最初に言っておくけど、私は黒歴史を作る気はなかったからね!
私の意思ではないから!そこ大事っ!


――今の私は、どこからどう見ても、なのです。


よく考えればおかしい所満載でしたよ。
バロンさんの話を聞いた後しばらく考え込んでいたら、ムキムキのお兄さん二人に両側をロックされ、連行された。連れていかれた先は勿論衣裳部屋。でも、置かれてたのはフリフリのドレスの数々。
そのドレスを一着ずつ持った侍女たちが私にロックオンしてきた。いや、元々そのつもりだったんだろうね。

・・・その後、辛かった。

身ぐるみ剥がされて、興奮した彼女らに着せ替えさせられた。女性として生きてきた自分がいたのも確かなんだけど、これは苦行ですって。
だって、女性用の下着までつけて、ドレス(胸のパット付き)にコルセット(骨が軋んだ)、ウィッグにメイク、そしてピンヒール。…ストッキング、脱いじゃ駄目?

身体は男なんだよ!普通にスーツかタキシードにしてくれよ。

ん?バロンさんのご要望でドレスを注文しただぁ~!?
くっ、我慢!!一瞬殺意が芽生えただなんて、この人達にバレたら私が消される!


皆さん、お分かりいただけただろうか…?

女装させられたんです。
紛れもなく、女装男子――悪役令嬢にジョブチェンジさせられたんです。


ドアのノックが聞こえて普通に返事したけど、心の内では「あ゛?」とドスの効いたヤンキーな私が暴れてやがります。

部屋に入ってきた私のストレスの根源――張本人が、それはもう清々しいほど罪悪感のない、いい笑顔をしてらっしゃいますよ、ええ。私の格好に満足したのか、つま先から頭の天辺までぐるぐると見回しては頻りに頷いてます。

「バロンさん、コレは私情ではない、意味ある大事なパフォーマンスなんですよね?そうですよね?」

私に何させてやがりますか、と心の中で暴言を吐きまくりながら目の前の人物を見据える。

「うん。この格好なら私のパートナーという事で、君にも私にも人が寄って来ないはずだよ。………――」

え、あの、バロンさん?最後の間、そして意味深な笑みは何!?
何か企んでるでしょ!
よし、そっちがそういうつもりなら、仕掛けられたら私が反撃しても仕方ないよね。

――でも、この舞踏会、何か嫌な予感しかしないんだよね~。







夕方頃会場に到着して、バロンさんのエスコートで会場入りした。

バロンさんに熱い視線が注がれてるのは分かるんだけど、何故に私にもその類の視線が来てるんだ?主に男性陣の視線が肩や背中に刺さる!痛い!

私、今世に生まれ変わってから大分軟弱になったよね。
・・・、そうだよ。鍛えれば女装路線から抜け出せるかも!ついでに早く独り立ち!


――グイッ

腰を支えてくれてたバロンさんの手に思いっきり力が入った。
今、私倒れそうになったり、ぶつかりそうになったりしてないからね?寧ろ、人が左右に捌けて道を作ってくれてます。モーゼの十戒ですね、これ。

って、そういう話じゃなかった。
何事かと思い、顔を上げてバロンさんが見ている方向に視線を動かした。


「「あ」」


視線の先にいたのは、イケメン。というかイケメンの集団。
それも、これが乙女ゲームの世界だという事を踏まえると、攻略対象達、だよね。
私が視線と身体の向きを変え、その場から離れようとしたことは悪くないはず!

不敬だと?知らん。
失礼だと?私は常識のない庶民みたいなもんだ。
恥じらったか、だと?んな訳あるか!

私が反射的に動いた理由は、ただ一つ。

あ、あいつはああああ!!
あのいけ好かない笑い方をする奴はああああ!

あのやr、…rrrrrr蓮だろぉ!!


あはは、舌巻いちゃった。
即回避!!――とはいかなかった。

常識人のバロンさんが私の腰を支えるどころかお姫様抱っこで拉致しました。

そんな事をしているうちに、イケメン集団がこちらに歩み寄ってきた。一直線に。
何でっ?あいつ、笑いに来ただけだろっ!!

爆発しそうな感情を鎮めるように、バロンさんの胸に頭を預けて深呼吸をする。すーはーすーはー。あれ?バロンさんってシトラスの香りがするんだ。今まで気づかなかった…。あ、そうか。舞踏会だからめかし込んだのか。ふむふむ。

「お初にお目にかかります、ユースティン・バロン子爵殿。貴殿は社交の場に足を運ばないと有名なので、今回もいらっしゃないかと思いました。来てくださってありがとうございます。」

イケメン集団の中心にいるアッシュブラウン髪のイケメンが恭しく頭を下げている。
これには周りも騒めきだした。まあ、そうだよね。彼の方が身分が上だもんね。

でも、それで動じないのがバロンさんだったり。

「ご丁寧にどうも。初めまして、ユベール・オードラン公爵子息殿。いえ、こちらも驚きました。まさか、身分の低い私だけでなく、我が愛弟子も参加させていただけるなんて思いもしませんでしたよ。この集まりが、伯爵以上と条件付けされてますからね。あの招待状に、私共は困り果てましたとも。醜聞を晒したくないので、招かれた本当の目的が知りたいものですね…?」

お~っと。バロンさん、案外好戦的ですね。
そんなに怒る理由が知りたいな。手紙読みたかったのに、君は読まなくていいと言われて目の前で燃やしたからね、黒い笑みを浮かべてね!

さあ、アッシュブラウン君はどう切り返すのか。
・・・あ、僭越ながら心の中で実況、司会をさせていただきます、シリルです。
本日はよろしくお願いします。

「バロン殿。焦らずとも理由はお教えします。…ですが、このような場でするような話でもありません。客室を用意しておりますので、そちらでゆっくり話し合いましょう。――お互いに納得できない事も多いですし、ね」

何やら意味深な台詞を吐きましたね、アッシュブラウン君。
この続きは、何やら貸し切りの部屋で行われるそうで―――あたっ!?

バロンさんが歩き出したからバランスを崩した訳なんだけど…。
あの、バロンさん?下ろしてくれませんかね?

私の目での訴えはスルーされ、会場を大きく横切り、客室へ。
何でこんな個人的な用を舞踏会当日に持ち込んだんだ?

・・・まあ?嫌な予感しかしないよ。


え?イケメン集団の中で誰がタイプかって?
ん~、自分からフラグ立てたくない。私も一応悪役令嬢(笑)だし。

あ~、お家に帰りたい。

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