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12-3(POV:ヴィル)
第281話:二人の秘密
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「お、俺は、そんな話、アレンから聞いていないぞ」
「んーー、言っていないらしいぜ」
うおおおぉぉぉ!
アレンっ!! 水くさいじゃないか! なぜ話してくれないのだ。
リアも秘密にしていたのか?
さては俺に気を使っているな?
なんて可愛い婚約者だ。
「嬉しいが、やはり少し妬けるな。それは二人の秘密ということなのかな?」
「お前以外は皆知っている」
「いつからそういう関係になのだろう?」
「闘病中のようだ。俺は知らなかったのだが、あいつは自力で食事もできない状態だったらしい。そのあたりの話は過酷すぎて聞いているだけでゾッとしたが、意外にも二人は楽しそうにその時の話をしてくれた」
そうだ、リアは命を懸けて彼を守ったのだ。
手を取り合って困難を乗り越え、そこで二人の愛は深まった。
つまりあの時、俺は追い出されて正解だったということだ。
婚約破棄されるのではと肝を冷やしたが、いやいやいや……俺が二人をくっつけたも同然だ。
「それでそれで?」
「先にやり出したのは書記だ。微笑ましかったぞ。まあ若干、恋人同士というより兄妹っぽい感じもしたが」
は……? 兄妹だと?
「溺愛する男と、兄を慕う妹みたいな」
「それ、本当に深い仲になっているのか?」
「だからそれを本人に聞いてみろと言っている。そうなっているのなら、お前のしたい情報交換とやらができるだろう?」
「もしかして、ただ互いに世話を焼いていただけの可能性もあると?」
「そうだな」
「口づけはしていたか?」
「いいや、ピッタリ身を寄せ合って座っているくらいで、そこまではしていない」
「……それは多分、深い関係ではないな」
急に肩の力が抜けてしまった。
蜜イチゴの話だけにもっと甘い話なのかと思ったのだが、どうやらそうではなさそうだ。
「そう気を落とすな」
「ぬか喜びだった……」
「お前の次に親しい男はアレン・オーディンスで間違いない」
「そういうことだな」
「何かをきっかけに急に関係が深まることだってあるだろう?」
「俺が二人をくっつければいいのかな?」
「露骨にやるなよ? たまーに、さりげなーく、だ」
「分かった、任せろ」
俺も急にくっつかれると心の準備が間に合わないということが分かった。
これは良い教訓だ。嫉妬をする天人族は愚かだと頭では分かっていても、やはり人に心がある以上、まったく嫉妬をしないというのは難しい。
俺はリアに新しい夫ができるたび、こういう気持ちと向き合っていくことになるのだろう。
頭の後ろで手を組み、深く背もたれに寄りかかると、小さくため息をついた。
「蜜イチゴかぁ……」
「リア様が美味だと感激していたぞ」
「そうか。リアが好きなら作ってみるかな?」
「はあ? なんだと?」
労働の尊さを教えるという大義名分のもと、俺は小遣いを止められていた時期が長くあり、学生時代は金欠解消のためにあっちこっちで小遣い稼ぎに精を出していた。
蜜イチゴの農家にも随分と稼がせてもらった。
リアが気に入ったなら、その経験を活かすことができる。
「作り方を知っているのか?」
「ふっ、俺は『畑の神』と言われた男だぞ? 畑でしか役に立たない王家特有のアホみたいな地属性魔法も使える」
「おお、そんな魔法があったな」
「ダサいから皆には内緒にしていたが、最近こっそり使っている」
クリスは「お前は釣りも上手いし、生きていくには困らないよな」と言うと楽しそうに笑った。
「無駄に自給自足能力が高い。王都を追われたら湖の近くで農家をやろうと思っている」
「海の近くにしろ」
「海の近くも悪くない」
「俺は満を持して漁師になるぜ」
「リアは小さなカフェをやりたいらしい。アレンは給仕だな。あのメガネを外せば客寄せになっていいだろう。それで、前から話しているとおり俺達はパンを焼くぞ。白くてフワッフワのやつをな」
クリスは笑いを堪えながら「都落ちをそんなに楽しそうに話す王族なんていないぜ」と言った。
「蜜イチゴを作ったら、リアは俺にもその『あーん』をやってくれるだろうか。羨ましいよな」
俺がそう言うと、彼は豪快に噴き出して「書記が言っていたとおりの反応」と大笑いした。
俺は目を閉じて想像してみた。
リアが髪を耳にかけ、頬を赤らめながら艶々とした桃色の唇をわずかに開……ッ!
「ぐっ、は……っ!」
「ヴィル? どうした? 顔が赤いぞ」
「く、口移しの『あーん』を想像したら、リアが可愛すぎてヤバい。禁欲中の身には刺激が強すぎる……っ」
「なんて幸福な大馬鹿野郎だ」
「あああ~! ここにいないのに、もう可愛い!」
「有益な情報を提供できてよかったよ」
「ありがとう。やはり俺に夫仲間は必要不可欠だと確信した」
俺はすっくと立ちあがった。
さて、忙しくなるぞ。
まずは叔父と茶会の調整だ。
そして、仕事の合間にフィリップを探して連れ戻す。
リアにクリスの良さを説き、さりげなくアレンとの関係が深まるよう気を配る。
さらには『あーん』して食べるために蜜イチゴを作る。
不思議とリアのためだと忙しくても苦痛ではない。
「よし、頑張ろう。俺に不可能はないっ」
「帰るのか?」と、クリスが聞いた。
「ああ、また来る! 長々と邪魔して悪かったな」と、俺は答えた。
「えっ? ちょっ……」
俺がツカツカ歩き出すと、後ろでクリスがバタついていた。
何かゴチャゴチャ言っている。
話し忘れたことでもあったのだろうか。
「ちょっ、ちょっと待て、ヴィル! おい!」
「んっ、どうした?」
俺は振り返った。
「ここ、お前の部屋! 片付けと戸締まり! あと外套も忘れている!」
「えっ? ……あっ、そうだった!」
俺達は大笑いしながらカップを片付け、また鍵が合わずに二人で騒ぎながらどうにか施錠をして、賑やかに王宮を後にした。
「んーー、言っていないらしいぜ」
うおおおぉぉぉ!
アレンっ!! 水くさいじゃないか! なぜ話してくれないのだ。
リアも秘密にしていたのか?
さては俺に気を使っているな?
なんて可愛い婚約者だ。
「嬉しいが、やはり少し妬けるな。それは二人の秘密ということなのかな?」
「お前以外は皆知っている」
「いつからそういう関係になのだろう?」
「闘病中のようだ。俺は知らなかったのだが、あいつは自力で食事もできない状態だったらしい。そのあたりの話は過酷すぎて聞いているだけでゾッとしたが、意外にも二人は楽しそうにその時の話をしてくれた」
そうだ、リアは命を懸けて彼を守ったのだ。
手を取り合って困難を乗り越え、そこで二人の愛は深まった。
つまりあの時、俺は追い出されて正解だったということだ。
婚約破棄されるのではと肝を冷やしたが、いやいやいや……俺が二人をくっつけたも同然だ。
「それでそれで?」
「先にやり出したのは書記だ。微笑ましかったぞ。まあ若干、恋人同士というより兄妹っぽい感じもしたが」
は……? 兄妹だと?
「溺愛する男と、兄を慕う妹みたいな」
「それ、本当に深い仲になっているのか?」
「だからそれを本人に聞いてみろと言っている。そうなっているのなら、お前のしたい情報交換とやらができるだろう?」
「もしかして、ただ互いに世話を焼いていただけの可能性もあると?」
「そうだな」
「口づけはしていたか?」
「いいや、ピッタリ身を寄せ合って座っているくらいで、そこまではしていない」
「……それは多分、深い関係ではないな」
急に肩の力が抜けてしまった。
蜜イチゴの話だけにもっと甘い話なのかと思ったのだが、どうやらそうではなさそうだ。
「そう気を落とすな」
「ぬか喜びだった……」
「お前の次に親しい男はアレン・オーディンスで間違いない」
「そういうことだな」
「何かをきっかけに急に関係が深まることだってあるだろう?」
「俺が二人をくっつければいいのかな?」
「露骨にやるなよ? たまーに、さりげなーく、だ」
「分かった、任せろ」
俺も急にくっつかれると心の準備が間に合わないということが分かった。
これは良い教訓だ。嫉妬をする天人族は愚かだと頭では分かっていても、やはり人に心がある以上、まったく嫉妬をしないというのは難しい。
俺はリアに新しい夫ができるたび、こういう気持ちと向き合っていくことになるのだろう。
頭の後ろで手を組み、深く背もたれに寄りかかると、小さくため息をついた。
「蜜イチゴかぁ……」
「リア様が美味だと感激していたぞ」
「そうか。リアが好きなら作ってみるかな?」
「はあ? なんだと?」
労働の尊さを教えるという大義名分のもと、俺は小遣いを止められていた時期が長くあり、学生時代は金欠解消のためにあっちこっちで小遣い稼ぎに精を出していた。
蜜イチゴの農家にも随分と稼がせてもらった。
リアが気に入ったなら、その経験を活かすことができる。
「作り方を知っているのか?」
「ふっ、俺は『畑の神』と言われた男だぞ? 畑でしか役に立たない王家特有のアホみたいな地属性魔法も使える」
「おお、そんな魔法があったな」
「ダサいから皆には内緒にしていたが、最近こっそり使っている」
クリスは「お前は釣りも上手いし、生きていくには困らないよな」と言うと楽しそうに笑った。
「無駄に自給自足能力が高い。王都を追われたら湖の近くで農家をやろうと思っている」
「海の近くにしろ」
「海の近くも悪くない」
「俺は満を持して漁師になるぜ」
「リアは小さなカフェをやりたいらしい。アレンは給仕だな。あのメガネを外せば客寄せになっていいだろう。それで、前から話しているとおり俺達はパンを焼くぞ。白くてフワッフワのやつをな」
クリスは笑いを堪えながら「都落ちをそんなに楽しそうに話す王族なんていないぜ」と言った。
「蜜イチゴを作ったら、リアは俺にもその『あーん』をやってくれるだろうか。羨ましいよな」
俺がそう言うと、彼は豪快に噴き出して「書記が言っていたとおりの反応」と大笑いした。
俺は目を閉じて想像してみた。
リアが髪を耳にかけ、頬を赤らめながら艶々とした桃色の唇をわずかに開……ッ!
「ぐっ、は……っ!」
「ヴィル? どうした? 顔が赤いぞ」
「く、口移しの『あーん』を想像したら、リアが可愛すぎてヤバい。禁欲中の身には刺激が強すぎる……っ」
「なんて幸福な大馬鹿野郎だ」
「あああ~! ここにいないのに、もう可愛い!」
「有益な情報を提供できてよかったよ」
「ありがとう。やはり俺に夫仲間は必要不可欠だと確信した」
俺はすっくと立ちあがった。
さて、忙しくなるぞ。
まずは叔父と茶会の調整だ。
そして、仕事の合間にフィリップを探して連れ戻す。
リアにクリスの良さを説き、さりげなくアレンとの関係が深まるよう気を配る。
さらには『あーん』して食べるために蜜イチゴを作る。
不思議とリアのためだと忙しくても苦痛ではない。
「よし、頑張ろう。俺に不可能はないっ」
「帰るのか?」と、クリスが聞いた。
「ああ、また来る! 長々と邪魔して悪かったな」と、俺は答えた。
「えっ? ちょっ……」
俺がツカツカ歩き出すと、後ろでクリスがバタついていた。
何かゴチャゴチャ言っている。
話し忘れたことでもあったのだろうか。
「ちょっ、ちょっと待て、ヴィル! おい!」
「んっ、どうした?」
俺は振り返った。
「ここ、お前の部屋! 片付けと戸締まり! あと外套も忘れている!」
「えっ? ……あっ、そうだった!」
俺達は大笑いしながらカップを片付け、また鍵が合わずに二人で騒ぎながらどうにか施錠をして、賑やかに王宮を後にした。
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