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第十一章 婚約発表

第261話:爆弾発言

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 わたしがヴィルさん一人では満足していないと思われているのだろうか。
 とんでもない。
 むしろ、もっと努力をしないと隣に立つ資格はない気がして、侍女と一丸となって頑張っているところなのに。
 二人目の夫なんてそんな……相手が誰であろうと有り得ない。

 ビシッと否定しようとしたけれども、またペロンと指を舐めていたヴィルさんがわたしよりも先にこう言った。

「そうですね。少なくても、あと二~三人は夫が欲しいですね」

 は……?

 スクナクテモ アト ニサンニン?
 欲しいですね、って……ヴィルさんが欲しいって意味?

 はいぃぃぃーーッ???

「ヴィルさん、一体何を言っ……」
「例えばケンカになってしまったときにリアを慰めてくれたり、仕事で帰れない夜にリアが寂しがらないようにしてくれたり、俺がいない間にリアが何をしていたか教えてくれたり、リアの好きなものなど情報共有してくれる同志は多いほど良い。アレンやクリスなら大歓迎」

 こっ、こっ、こっ…… (※ニワトリではない)

 こここここっ、この人は一体何を言っているのでしょうか……ッ?

 ケンカの仲直りや朝帰りのフォローは、ご自身でお願いしたいです。
 あ、でも今まで高確率でアレンさんがフォローのために介入してくれていたかも。
 あれ? そういう意味では「ヴィルさん一人では足りていない」と言えないこともな……いやいやいや落ち着いて! 夫婦ゲンカの仲直りに第三者が絡むことだってあるでしょう。
 で、朝帰りのフォローはどうだったっけ? いえいえ、そもそも旦那さんが朝帰りなんて滅多にしないのよっ。
 ああぁ、わけが分からなくなってきました……。

 わたしに一妻多夫なんて無理なので、間違いのない唯一の旦那様を選んだつもりだ。
 『生命の宝珠』をたくさんを作らなければならないという事情があるため、それを成し得る旦那様であることが最重要ポイントだった。
 世の中に完璧な人などいない。彼の良いところ悪いところ全部ひっくるめて、良い相手と婚約したと思っていた。

 なのに、まさか、まさか……
 まさか彼が・・別の夫を欲しがるなんて。
 しかも「あと二~三人は欲しい」ってどういうこと?
 だ、誰か、誰か説明してっ。

 宰相様っ、助けてください!
 すがるように目配せをすると、フォルセティ宰相はニッコリと微笑んだ。

「最初にも申し上げましたが、やはり夫は少なくても二~三人は持たれたほうが良いですよね」

 あああぁ、ヴィルさんのせいでっ、ヴィルさんが陛下にそんな話をするからっ、外堀が埋まりかけているではありませんかぁぁ。

 人前で彼に文句を言うわけにはいかない。そこはぐっと堪えよう。
 しかし、なんて答えれば良いのか分からず、口をぱくぱくするばかりだった。

 宰相様、取り急ぎ大雨洪水波浪警報を発令してください。わたくし、感情がぶっ壊れて泣きそうです。


 「──恐れながら陛下、リア様はそのようなことは望んでおられません」

 はっと隣を見ると、アレンさんがこちらを見てわずかに頷いた。
 「大丈夫ですよ、お任せください」と言ってくれる時の落ち着いた表情だった。

 アレンさん……。
 う、うわーん、アレンさぁぁん。
 うう……、ヤバい、号泣してしまいそう……。
 ナイスフォローです。
 さすが隠れイケメンです。
 いつもありがとうございます。素敵すぎます。

 しかし、ヴィルさんはまたもや指についたチョコを舐めながら言った。

「俺はリアの可愛いところを話し合う相手が欲しい。同じ立場でないと、ただの自慢話になってしまう。お前はそれに適した人物だと思っているのだが」

 うおー、ヴィルさんのワカランチン、話し合わなくて良いのですよーっ。

「それは団長の都合です。リア様の気持ちを優先してください」

 神様、イケ仏様、アレン様……。
 わたしは一生あなた様を拝んで生きてゆきます。
 カッコ良すぎです。

 「なんだ? リアがそう言ったのではないのか?」と、陛下が怪訝そうな顔をした。
 誤解されてはいけないので「わたしは何もお話ししていません」と伝えたところ、陛下のこめかみにお怒りマークが浮かび上がった。

「ヴィル、お前というやつは……!」

 まったく、なんて婚約者だろう。
 やはりあのナントカ伯令嬢(また忘れた)なんて全然大したことなかった。
 あんなの、夫を二~三人持てと言われることに比べたら蚊に刺された程度だ。

「私は数人で協力してリアを支えられたらと思っているだけですよ」

 ヴィルさんがシレっと言うと、「今それを言うのは団長のワガママです」と、アレンさんがツッコんだ。もう本当にカッコイイ。

「ヴィル、またリアを振り回す気か!」

 陛下はおかんむりだ。
 顔が真っ赤で、鼻が膨らんでいる。今にも頭から湯気が出そうだ。

 アレンさんは涼しい顔でチョコをつまんで珈琲を飲んだ。そしてこちらを見て「とても美味ですねぇ」と目を細めた。
 嗚呼さすが十三億円の男……余裕が違う。

「私はリアの長期的な幸せを考えて言っています。夫が一人では足りませんよ。足りるわけがないでしょう?」
「まだ婚約を発表したばかりなのですよ? もう少し自重してください」
「自重も何も、俺はリアのために……」

「オーディンスの言うとおりだ! お前はまたリアの気持ちを無視しおって、このッ……」

 ああ、もう陛下が噴火しそう……。
 陛下のすぐ近くに座っている宰相が軽く耳を押さえた。
 隣からスッと腕が伸びてきて、アレンさんがわたしの両耳を手で優しく塞いだ。

「大馬鹿者ぉッッッ!!!!!!」

 は、はわぁ……

 特大のカミナリが落ちてお説教が始まると、宰相がサッと逃がしてくれた。
 アレンさんに手を引かれて馬車に飛び乗ると、皆でとっとと自宅へ引き返した。
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