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第二章 出会い
第48話:パニック
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「リア……」
ふるふると首を振った。
無理です。わたしはテロリストにはなりたくありません。
「どうしてそんなに可憐なのだ」
彼はワープでもしたのかというほど素早く戻ってくるとわたしを抱き寄せた。そして、愛おしげに頬に触れたかと思うと、いきなりキスを落としてきた。
「んん……っ?!」
あっという間に唇を奪われてしまったせいか、一瞬頭がパニックになり、状況を把握した途端に心臓がバクバクし始めて緊張で体が強張った。
相手のことをろくに知らないばかりか、自分の素性も明かしていない。十日もすれば旦那さん探しが本格化する身のわたしが、こんなことをして良いわけがない。
自分を取り巻く諸事情を踏まえると、とても悪いことをしているような気持ちになった。
だめです。待ってください、ヴィルさん。
わたし、神薙なのです。
こういうことは、ちゃんとお互いのことを分かった上でしないと。
だから……だから……
「んぅ……」
両手で彼の胸を押して離れようとしても、彼はビクとも動かないし唇も放してくれない。
結局、また彼の大胸筋に触れただけだった。
それどころか、彼が角度を変えて啄むような優しいキスを数えきれないほど降らせてくるので、彼に掴まって地面にちゃんと足をつけることと、最低限の呼吸をすることで手一杯になってしまった。
「ヴィルさ……」
「可愛いリア、少し開けて」
彼は親指でわたしの唇を開かせ、そこに狙いを定めるように甘いキスを落とした。僅かな隙間から彼の温かい舌が入ってきて、優しく蕩けるように深いキスをした。
「……ッ」
「リア、ダメだ。逃がさない」
甘い刺激に痺れて耐え切れず、呻いて逃げようとしても、大きな手に包み込まれて逃がしてもらえない。彼の唇はどこまでも追いかけてきて、わたしを溶かした。
キスって、こんなにワケが分からなくなるものでしたっけ……。
今までしてきたそれは一体なんだったのでしょう?
彼はキスのついでに、わたしの価値観まで壊していく。
わたしの気が逸れたことに気づいたのか、腰に回された手で強く抱き寄せられ、わずかに残っていた思考も奪われた。
わたしの頭にも庭園と同じように白いモヤがかかり、フワフワと漂った。
そのうち自分の足が地面に着いているのかも分からなくなり、息をしているのかも分からなくなった。ただ掴まっているフニャフニャの手に、わずかばかりの力を入れるたび、彼の上着に付いている金のチェーンやキラキラした留め金が小さく音を立てていた。
帰りの馬車の中でも、彼はわたしの唇を放してくれなかった。
キスとキスの合間に、うわ言のように何度も耳元で囁かれる名前。耳にかかる彼の息。「帰したくない」「可愛い」といった甘い言葉で、また頭が真っ白になる。
どうやって自分の馬車に乗り換えたのか記憶にないけれど、「今日のことは忘れない」と耳元で囁かれ、どうにかこうにか「わたしもです」と声を絞り出して別れたのは覚えている。
屋敷に戻り、自分のリビングに辿り着くと、普段なら絶対にそんなことはしないのに、靴を脱いでソファーにぽふっと突っ伏した。
頭から湯気が出ます……。
ケトルを乗せればお湯ぐらい余裕で沸かせる気がした。
頭がおかしくなりそうだった。
こんな日を忘れられるわけがない。
状況を察してくれたのか、侍女はわたしをそっとしておいてくれた。
しばらくすると人が呼びに来て、約束していたドレスの業者が到着したと言った。
試着をし、細かい最終調整を経て、ついに注文通りのドレスが完成した。
料理人がパイを焼いてくれていたので、それを添えて陛下にドレス完成の報告を出す。
ドレス作りに積極的に関わってくれた皆をサロンに呼び、陛下から頂いたお茶を淹れると、小さなお疲れ様会をした。
夜、日課の日記を書こうとしたけれど、思い出し笑いならぬ思い出し赤面で死にそうになった。
「ヴィルさんと初めてのお出かけ」としか書けない。それ以上書こうとすると頭がおかしくなりそうで無理だった。
これはいくらなんでも不甲斐ない。爪痕ぐらいは残そうと、小さなハートマークを書き加えることにした。
それから数日、フワフワと地に足が着いていない状態で過ごしていた。あまりにホワホワとするので体温を測ったら微熱があった。
……キスだけで知恵熱を出していた。
ふるふると首を振った。
無理です。わたしはテロリストにはなりたくありません。
「どうしてそんなに可憐なのだ」
彼はワープでもしたのかというほど素早く戻ってくるとわたしを抱き寄せた。そして、愛おしげに頬に触れたかと思うと、いきなりキスを落としてきた。
「んん……っ?!」
あっという間に唇を奪われてしまったせいか、一瞬頭がパニックになり、状況を把握した途端に心臓がバクバクし始めて緊張で体が強張った。
相手のことをろくに知らないばかりか、自分の素性も明かしていない。十日もすれば旦那さん探しが本格化する身のわたしが、こんなことをして良いわけがない。
自分を取り巻く諸事情を踏まえると、とても悪いことをしているような気持ちになった。
だめです。待ってください、ヴィルさん。
わたし、神薙なのです。
こういうことは、ちゃんとお互いのことを分かった上でしないと。
だから……だから……
「んぅ……」
両手で彼の胸を押して離れようとしても、彼はビクとも動かないし唇も放してくれない。
結局、また彼の大胸筋に触れただけだった。
それどころか、彼が角度を変えて啄むような優しいキスを数えきれないほど降らせてくるので、彼に掴まって地面にちゃんと足をつけることと、最低限の呼吸をすることで手一杯になってしまった。
「ヴィルさ……」
「可愛いリア、少し開けて」
彼は親指でわたしの唇を開かせ、そこに狙いを定めるように甘いキスを落とした。僅かな隙間から彼の温かい舌が入ってきて、優しく蕩けるように深いキスをした。
「……ッ」
「リア、ダメだ。逃がさない」
甘い刺激に痺れて耐え切れず、呻いて逃げようとしても、大きな手に包み込まれて逃がしてもらえない。彼の唇はどこまでも追いかけてきて、わたしを溶かした。
キスって、こんなにワケが分からなくなるものでしたっけ……。
今までしてきたそれは一体なんだったのでしょう?
彼はキスのついでに、わたしの価値観まで壊していく。
わたしの気が逸れたことに気づいたのか、腰に回された手で強く抱き寄せられ、わずかに残っていた思考も奪われた。
わたしの頭にも庭園と同じように白いモヤがかかり、フワフワと漂った。
そのうち自分の足が地面に着いているのかも分からなくなり、息をしているのかも分からなくなった。ただ掴まっているフニャフニャの手に、わずかばかりの力を入れるたび、彼の上着に付いている金のチェーンやキラキラした留め金が小さく音を立てていた。
帰りの馬車の中でも、彼はわたしの唇を放してくれなかった。
キスとキスの合間に、うわ言のように何度も耳元で囁かれる名前。耳にかかる彼の息。「帰したくない」「可愛い」といった甘い言葉で、また頭が真っ白になる。
どうやって自分の馬車に乗り換えたのか記憶にないけれど、「今日のことは忘れない」と耳元で囁かれ、どうにかこうにか「わたしもです」と声を絞り出して別れたのは覚えている。
屋敷に戻り、自分のリビングに辿り着くと、普段なら絶対にそんなことはしないのに、靴を脱いでソファーにぽふっと突っ伏した。
頭から湯気が出ます……。
ケトルを乗せればお湯ぐらい余裕で沸かせる気がした。
頭がおかしくなりそうだった。
こんな日を忘れられるわけがない。
状況を察してくれたのか、侍女はわたしをそっとしておいてくれた。
しばらくすると人が呼びに来て、約束していたドレスの業者が到着したと言った。
試着をし、細かい最終調整を経て、ついに注文通りのドレスが完成した。
料理人がパイを焼いてくれていたので、それを添えて陛下にドレス完成の報告を出す。
ドレス作りに積極的に関わってくれた皆をサロンに呼び、陛下から頂いたお茶を淹れると、小さなお疲れ様会をした。
夜、日課の日記を書こうとしたけれど、思い出し笑いならぬ思い出し赤面で死にそうになった。
「ヴィルさんと初めてのお出かけ」としか書けない。それ以上書こうとすると頭がおかしくなりそうで無理だった。
これはいくらなんでも不甲斐ない。爪痕ぐらいは残そうと、小さなハートマークを書き加えることにした。
それから数日、フワフワと地に足が着いていない状態で過ごしていた。あまりにホワホワとするので体温を測ったら微熱があった。
……キスだけで知恵熱を出していた。
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