41 / 372
第二章 出会い
第40話:ご相談
しおりを挟む
「神薙でいるのはお嫌ですか?」と、オーディンス副団長は言った。
「ずっと、身分を明かさず手紙のやり取りをなさっていますよね」
「う……」
顔が上げられなくなってしまった。
彼の小さなため息が聞こえたから余計だった。
彼はがっかりしたような顔で、「私が先代の話をしたせいですね」と言った。
慌てて首を横に振る。
「いいえ、暴露本を読んだのはわたしです」
「何冊も読むきっかけになったのは私の話では?」
「そういうわけではなくて」
「リア様は神薙の歴史を変える方です。あなたがアレらのようになるわけがない」
「アレら?」
「あなた以外の神薙など人ではない。獣です」
け、ケダモノ……。
彼はトレードマークのメガネを外し、眉間を指でグっと押しながら吐息をついた。
急にイケメンが出てきたせいで、わたしの喉が「ひぅ」と鳴った。
なかなか「出かけたい」が言い出せずモジモジしていたせいで、想定外の事態である。
「何と説明をすれば、この国に来たばかりのあなたに分かって頂けるのか……」
こちらの気も知らず、彼は苦悶の表情で言った。
メガネの結界で押しとどめていたフェロモンが漏れ出し始めている。
早急にかけ直して頂きたいのに、彼はメガネをサイドテーブルに置いてしまった。
警告、警告、イケメン兵器が作動しました。ただちに避難して下さい。繰り返す。警告、警告……
「ふ、副団長さま、あの、メ、メガネを、ですね」
「なんですか?」
はあああぁぁっ!
こ、コチラを見ないでくださいッ!
扇子! お扇子はっ?
ああぁ、お部屋に、お部屋にぃぃぃ~……っ
防具がなにもないです(泣)
唯一の防具である扇子の装備を忘れた勇者リアは激ヨワだった。
「リア様」
「ハ、ハイ……」
下を向いてストールを握りしめた。
気をしっかり持たなくては、お腹に力を入れて頑張らなくては。イケメンビームに殺されます(ぷるぷる)
「先代の頃、仕事をなすりつけ合って嫌々仕えていた部下達が、ここには競い合って仕事をしに来ています。なぜだか分かりますか?」
「え、ええと、仕事が楽だから、でしょうか」
「確かに無欲な神薙の警護は楽です。リア様は男を襲わないので安全でもある」
先代さんは護衛の騎士様を襲っていたらしい。
聞けば聞くほど地獄なのだけど、わたしが来る前のオルランディアはディストピアか何かですか?
ケダモノの後任はツラいです。
「まあ、リア様の場合、襲われても男のほうが喜ぶというか、むしろ皆それを期待していますが」
「し、しませんっ、そんなこと」
「それは、残念ですね……」
ひえぇぇ~~~!
ダメです、ダメです、副団長さま。
その顔でそういうことを言うと、誘っているみたいになってしまいますからっ。
「あのぅ……そろそろメガネを……」
「皆、あなたを一目見たくて、ここへ来ているのですよ」
「へ?」
「あなたは王国が誇る神薙です。恥じることは何もありません」
「あ、ありがとう、ございます」
「無理に名乗れとは言いませんが、願わくはそうであって頂きたい。私もあなたの護衛であることを誇りたいですから」
「ハイ、すみません。努力はします、ので……」
恥ずかしくなって俯いている間に、彼はメガネを掛けていた。
彼の言うことは分かる。
護衛の仕事に誇りを持ちたいのに警護対象がその立場を恥だと思っているわけだから、不満に思うだろうし文句の一つも言いたくなるだろう。
お出かけのお願いをする気力と勇気がすっかりしぼんでしまった。
ごめんなさいヴィルさん、わたしには無理かもです。
「さて、例の騎士との外出ですが、日程はお決まりですか?」
「えっ?」
「そういうご相談でしょう?」
いや、エスパーなのですか?(汗)
普段からお仕事デキるマンだとは思っていたけれども、人の心まで読むとは……。しかし、これに甘えさせて頂こう。
「この候補日の中から選ぶのですけれども」
「ふむ、なるほど」
候補日を書いたメモを見せると、彼は人差し指と中指をきれいに揃えた二本指でビシッと指差し、お披露目会の十日前の日付を選んだ。
「こちらの日で調整をさせて頂きましょう」
「あ、はいっ」
「準備で忙しくなってきています。この日を逃すと披露目の後になる。それでは恐らく都合が悪い、ですよね?」
「うっ、……ハ、ハイ」
「リア様の特務師並みのすばしこさを踏まえ、護衛は大幅に増員しますが、一般市民に紛れてついて行きます」
「うぐっ……すみません」
特務師というのは、諜報員のような人を指すらしい。
前回、チョロチョロして八人の護衛を撒いてしまったわたしは、騎士の間で「特務師並み」と言われている。
確かにフットワークは軽いほうだけど、「ドレスを着たニンジャ」と言われているようなものなので少し恥ずかしい。
「相手が彼なら警護は要らない気もしますが、念には念を入れましょう」
「お強い方なのですか?」
「ええ、家名を伏せるような面倒臭い人ですが、人物と腕前は保証いたします。独身ですし、妙な噂もありません」
「そうなのですね」
おかげさまでヴィルさんと再会できることになった。
その後、何度か当日の予定や待ち合わせに関する手紙をやり取りし、ヴィルさんオススメのレストランで夕食をご一緒する約束になった。
しかし、楽しみにしていたのも束の間、お披露目会用ドレスの納品が後ろにズレ込み、お出かけ当日の夕方に仕立屋さんが来ることになってしまった。
初めての外食は残念ながら今回はお預けだ。
お詫びのお手紙を書くと、「それならば新しいカフェでお茶をしよう」と、前向きな返事が返ってきて、少し心が救われた。
「ずっと、身分を明かさず手紙のやり取りをなさっていますよね」
「う……」
顔が上げられなくなってしまった。
彼の小さなため息が聞こえたから余計だった。
彼はがっかりしたような顔で、「私が先代の話をしたせいですね」と言った。
慌てて首を横に振る。
「いいえ、暴露本を読んだのはわたしです」
「何冊も読むきっかけになったのは私の話では?」
「そういうわけではなくて」
「リア様は神薙の歴史を変える方です。あなたがアレらのようになるわけがない」
「アレら?」
「あなた以外の神薙など人ではない。獣です」
け、ケダモノ……。
彼はトレードマークのメガネを外し、眉間を指でグっと押しながら吐息をついた。
急にイケメンが出てきたせいで、わたしの喉が「ひぅ」と鳴った。
なかなか「出かけたい」が言い出せずモジモジしていたせいで、想定外の事態である。
「何と説明をすれば、この国に来たばかりのあなたに分かって頂けるのか……」
こちらの気も知らず、彼は苦悶の表情で言った。
メガネの結界で押しとどめていたフェロモンが漏れ出し始めている。
早急にかけ直して頂きたいのに、彼はメガネをサイドテーブルに置いてしまった。
警告、警告、イケメン兵器が作動しました。ただちに避難して下さい。繰り返す。警告、警告……
「ふ、副団長さま、あの、メ、メガネを、ですね」
「なんですか?」
はあああぁぁっ!
こ、コチラを見ないでくださいッ!
扇子! お扇子はっ?
ああぁ、お部屋に、お部屋にぃぃぃ~……っ
防具がなにもないです(泣)
唯一の防具である扇子の装備を忘れた勇者リアは激ヨワだった。
「リア様」
「ハ、ハイ……」
下を向いてストールを握りしめた。
気をしっかり持たなくては、お腹に力を入れて頑張らなくては。イケメンビームに殺されます(ぷるぷる)
「先代の頃、仕事をなすりつけ合って嫌々仕えていた部下達が、ここには競い合って仕事をしに来ています。なぜだか分かりますか?」
「え、ええと、仕事が楽だから、でしょうか」
「確かに無欲な神薙の警護は楽です。リア様は男を襲わないので安全でもある」
先代さんは護衛の騎士様を襲っていたらしい。
聞けば聞くほど地獄なのだけど、わたしが来る前のオルランディアはディストピアか何かですか?
ケダモノの後任はツラいです。
「まあ、リア様の場合、襲われても男のほうが喜ぶというか、むしろ皆それを期待していますが」
「し、しませんっ、そんなこと」
「それは、残念ですね……」
ひえぇぇ~~~!
ダメです、ダメです、副団長さま。
その顔でそういうことを言うと、誘っているみたいになってしまいますからっ。
「あのぅ……そろそろメガネを……」
「皆、あなたを一目見たくて、ここへ来ているのですよ」
「へ?」
「あなたは王国が誇る神薙です。恥じることは何もありません」
「あ、ありがとう、ございます」
「無理に名乗れとは言いませんが、願わくはそうであって頂きたい。私もあなたの護衛であることを誇りたいですから」
「ハイ、すみません。努力はします、ので……」
恥ずかしくなって俯いている間に、彼はメガネを掛けていた。
彼の言うことは分かる。
護衛の仕事に誇りを持ちたいのに警護対象がその立場を恥だと思っているわけだから、不満に思うだろうし文句の一つも言いたくなるだろう。
お出かけのお願いをする気力と勇気がすっかりしぼんでしまった。
ごめんなさいヴィルさん、わたしには無理かもです。
「さて、例の騎士との外出ですが、日程はお決まりですか?」
「えっ?」
「そういうご相談でしょう?」
いや、エスパーなのですか?(汗)
普段からお仕事デキるマンだとは思っていたけれども、人の心まで読むとは……。しかし、これに甘えさせて頂こう。
「この候補日の中から選ぶのですけれども」
「ふむ、なるほど」
候補日を書いたメモを見せると、彼は人差し指と中指をきれいに揃えた二本指でビシッと指差し、お披露目会の十日前の日付を選んだ。
「こちらの日で調整をさせて頂きましょう」
「あ、はいっ」
「準備で忙しくなってきています。この日を逃すと披露目の後になる。それでは恐らく都合が悪い、ですよね?」
「うっ、……ハ、ハイ」
「リア様の特務師並みのすばしこさを踏まえ、護衛は大幅に増員しますが、一般市民に紛れてついて行きます」
「うぐっ……すみません」
特務師というのは、諜報員のような人を指すらしい。
前回、チョロチョロして八人の護衛を撒いてしまったわたしは、騎士の間で「特務師並み」と言われている。
確かにフットワークは軽いほうだけど、「ドレスを着たニンジャ」と言われているようなものなので少し恥ずかしい。
「相手が彼なら警護は要らない気もしますが、念には念を入れましょう」
「お強い方なのですか?」
「ええ、家名を伏せるような面倒臭い人ですが、人物と腕前は保証いたします。独身ですし、妙な噂もありません」
「そうなのですね」
おかげさまでヴィルさんと再会できることになった。
その後、何度か当日の予定や待ち合わせに関する手紙をやり取りし、ヴィルさんオススメのレストランで夕食をご一緒する約束になった。
しかし、楽しみにしていたのも束の間、お披露目会用ドレスの納品が後ろにズレ込み、お出かけ当日の夕方に仕立屋さんが来ることになってしまった。
初めての外食は残念ながら今回はお預けだ。
お詫びのお手紙を書くと、「それならば新しいカフェでお茶をしよう」と、前向きな返事が返ってきて、少し心が救われた。
68
お気に入りに追加
455
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
勘違いは程々に
蜜迦
恋愛
年に一度開催される、王国主催の馬上槍試合(トーナメント)。
大歓声の中、円形闘技場の中央で勝者の証であるトロフィーを受け取ったのは、精鋭揃いで名高い第一騎士団で副団長を務めるリアム・エズモンド。
トーナメントの優勝者は、褒美としてどんな願いもひとつだけ叶えてもらうことができる。
観客は皆、彼が今日かねてから恋仲にあった第二王女との結婚の許しを得るため、その権利を使うのではないかと噂していた。
歓声の中見つめ合うふたりに安堵のため息を漏らしたのは、リアムの婚約者フィオナだった。
(これでやっと、彼を解放してあげられる……)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる