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第十五章 新人類
第333話:オニクを所望しております
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「腹が減った」と、金色の自由人が呟いた。
全員のお腹が減っているのは、ヴィルさんの支度が長引いたせいだ。
休憩時間を利用して軽くお食事を頂くことにした。
立食形式ではあるけれども、招待客全員を入れられそうな広い飲食スペースがあり、高級ホテルならではの美味しいお料理が出ると聞いていた。ホテル開催はそれも売りの一つらしい。
それに、女性が何か食べている最中に声を掛けるのはオルランディア紳士のNG行為とされているので、仲間内で話をしたいときは食べ物を手にしておくのが良いと教わった。挨拶でお疲れ気味の顔筋をほぐすためにもモグモグタイムは必須だ。
ヴィルさんとビュッフェテーブルを見にいくと、かなりの混雑だった。
「あれならリアの小さな口でも入るのではないかな」と、彼は一口サイズのカナッペを指差していた。
わたしの口の円周および口腔内の容量を完全に見誤っている……。三倍のサイズでも一口で行けますよと思ったものの、一応「そうですね」と答えた。
彼はその後も次々と料理を指差した。
「これもリアの口にちょうど良い」と、ひまわりの種のおつまみ。
「あれも良いぞ」と、くるみの蜂蜜漬け。
「それも悪くない」と、オリーブのアンチョビ詰め。
「あっちにも」と、レーズン。
そのたびに微妙な反応を返してしまった。
彼はわたしをリスかハムスターの類と間違えている可能性が高い。これは彼の食べ物バグの影響なのだろうか。なにせ彼はイカを見て「三十本足の化け物」と言った人だ。いまだにイカとタコの区別もついていない。
ピンチです……。
このまま彼の言うとおりにしていると豆か木の実しか食べられない。今日は踊りまくるつもりだし、料理長に晩ごはんは要らないと言ってしまったので、もう少しガッツリしたものが食べたいというか……実は、先程からとても良い匂いが漂ってきていて、気になっているものがある。
今宵のわたしにはオニクとか、オニクとか、もしくはオニクとかが必要だと思う(※訳:わたしは今、非常にお肉が食べたいです)
メインディッシュが置いてあるビュッフェテーブルの前には人が群がっていた。しかもガタイの大きな男性ばかり。わたしには全容の把握すら難しそうだ。
お家に帰ってから冷蔵庫の残りご飯でタマゴ雑炊でも作って食べたほうがいいかも……などと弱気になってくる。人を押しのけてグイグイ行けないのは昔からだ。早々に心が折れかけて後ずさりをしていた。
「リア様?」
「ん? はい?」
両手に大きなお皿を持ったアレンさんが筋肉の山から抜け出してきた。
「リア様が興味ありそうなものを選んできましたよ」
「えーっ」
「ほら」
彼が見せてくれたお皿には、一口サイズに切ってグレイビーソースがかけられた山盛りのステーキと、チコリーの葉の上にアボカドやチーズなどを乗せたサラダボート、それから海老のクリームソースをかけたパスタのようなお料理。もちろんアレンさんの好物である腸詰めもあった。
わたしとヴィルさんを席に移動させると、彼はもう一往復してパンとパテ、さらにはデザートまで持ってきてくれた。
ハムスター飯か雑炊かの悲しい二択から一瞬にして解き放たれ、デザート付きフルコースに昇格したわたしの晩ごはんは、キラキラと輝きながら美味しそうな湯気を上げていた。
きゃ~っ! きゃ~~~っ!!
神様、仏様、イケ仏様、アレン様。
ばんざーい、ばんざーい、ばんざーーい!
ありがとうございます。この御恩は一生忘れませんっ。
彼は大きな海老にクリームソースがかかったお料理を指差して説明してくれた。
「この海老のソースがかかっている料理は『ノル』と言って、この地域で古くから食べられている郷土料理です。通常は塩漬けの豚肉を使うのですが、今日のは豪華に海老だそうですよ」
「とっても美味しそうですっ」
「今、一部の楽器に不具合が起きているらしく、弦を張り替えて調整しているので休憩時間が少々伸びると言っていました。ゆっくり食べましょう」
「はいっ」
もうハイスペックすぎて涙が出そう。
アレンさんはわたしの生活必需品だ。彼がいないとわたしは早死にする。確実に。
「んん~……美味しいっ」
この地域の郷土料理だというノルは、手打ちのショートパスタのようなお料理だった。もちもちとしていてソースがよく絡み、大きなエビさんも新鮮でぷりぷり。庶民食だと言って毛嫌いする貴族もいるらしいけれど、その人たちは絶対に損をしていると思う。
前菜もお肉も何もかもが美味しい。ホテルのごはんって、どうしてこんなにも特別感があるのだろう。幸せです。
わたしの食べ物が確保できたことを確認した後、ふらりといなくなっていたヴィルさんが、大きなお皿を持って戻ってきた。
ドンとテーブルに置かれた大皿には、いったい何百グラムあるのか想像がつかない巨大ステーキと、ブロッコリーにマッシュポテト、それからニンジンのグラッセなど付け合わせ野菜が乗っている。それとパンだ。
彼はサッと鑑定魔法で全体をチェックすると、フォークの先でブロッコリーを「しっしっ」と端によけた。
全員のお腹が減っているのは、ヴィルさんの支度が長引いたせいだ。
休憩時間を利用して軽くお食事を頂くことにした。
立食形式ではあるけれども、招待客全員を入れられそうな広い飲食スペースがあり、高級ホテルならではの美味しいお料理が出ると聞いていた。ホテル開催はそれも売りの一つらしい。
それに、女性が何か食べている最中に声を掛けるのはオルランディア紳士のNG行為とされているので、仲間内で話をしたいときは食べ物を手にしておくのが良いと教わった。挨拶でお疲れ気味の顔筋をほぐすためにもモグモグタイムは必須だ。
ヴィルさんとビュッフェテーブルを見にいくと、かなりの混雑だった。
「あれならリアの小さな口でも入るのではないかな」と、彼は一口サイズのカナッペを指差していた。
わたしの口の円周および口腔内の容量を完全に見誤っている……。三倍のサイズでも一口で行けますよと思ったものの、一応「そうですね」と答えた。
彼はその後も次々と料理を指差した。
「これもリアの口にちょうど良い」と、ひまわりの種のおつまみ。
「あれも良いぞ」と、くるみの蜂蜜漬け。
「それも悪くない」と、オリーブのアンチョビ詰め。
「あっちにも」と、レーズン。
そのたびに微妙な反応を返してしまった。
彼はわたしをリスかハムスターの類と間違えている可能性が高い。これは彼の食べ物バグの影響なのだろうか。なにせ彼はイカを見て「三十本足の化け物」と言った人だ。いまだにイカとタコの区別もついていない。
ピンチです……。
このまま彼の言うとおりにしていると豆か木の実しか食べられない。今日は踊りまくるつもりだし、料理長に晩ごはんは要らないと言ってしまったので、もう少しガッツリしたものが食べたいというか……実は、先程からとても良い匂いが漂ってきていて、気になっているものがある。
今宵のわたしにはオニクとか、オニクとか、もしくはオニクとかが必要だと思う(※訳:わたしは今、非常にお肉が食べたいです)
メインディッシュが置いてあるビュッフェテーブルの前には人が群がっていた。しかもガタイの大きな男性ばかり。わたしには全容の把握すら難しそうだ。
お家に帰ってから冷蔵庫の残りご飯でタマゴ雑炊でも作って食べたほうがいいかも……などと弱気になってくる。人を押しのけてグイグイ行けないのは昔からだ。早々に心が折れかけて後ずさりをしていた。
「リア様?」
「ん? はい?」
両手に大きなお皿を持ったアレンさんが筋肉の山から抜け出してきた。
「リア様が興味ありそうなものを選んできましたよ」
「えーっ」
「ほら」
彼が見せてくれたお皿には、一口サイズに切ってグレイビーソースがかけられた山盛りのステーキと、チコリーの葉の上にアボカドやチーズなどを乗せたサラダボート、それから海老のクリームソースをかけたパスタのようなお料理。もちろんアレンさんの好物である腸詰めもあった。
わたしとヴィルさんを席に移動させると、彼はもう一往復してパンとパテ、さらにはデザートまで持ってきてくれた。
ハムスター飯か雑炊かの悲しい二択から一瞬にして解き放たれ、デザート付きフルコースに昇格したわたしの晩ごはんは、キラキラと輝きながら美味しそうな湯気を上げていた。
きゃ~っ! きゃ~~~っ!!
神様、仏様、イケ仏様、アレン様。
ばんざーい、ばんざーい、ばんざーーい!
ありがとうございます。この御恩は一生忘れませんっ。
彼は大きな海老にクリームソースがかかったお料理を指差して説明してくれた。
「この海老のソースがかかっている料理は『ノル』と言って、この地域で古くから食べられている郷土料理です。通常は塩漬けの豚肉を使うのですが、今日のは豪華に海老だそうですよ」
「とっても美味しそうですっ」
「今、一部の楽器に不具合が起きているらしく、弦を張り替えて調整しているので休憩時間が少々伸びると言っていました。ゆっくり食べましょう」
「はいっ」
もうハイスペックすぎて涙が出そう。
アレンさんはわたしの生活必需品だ。彼がいないとわたしは早死にする。確実に。
「んん~……美味しいっ」
この地域の郷土料理だというノルは、手打ちのショートパスタのようなお料理だった。もちもちとしていてソースがよく絡み、大きなエビさんも新鮮でぷりぷり。庶民食だと言って毛嫌いする貴族もいるらしいけれど、その人たちは絶対に損をしていると思う。
前菜もお肉も何もかもが美味しい。ホテルのごはんって、どうしてこんなにも特別感があるのだろう。幸せです。
わたしの食べ物が確保できたことを確認した後、ふらりといなくなっていたヴィルさんが、大きなお皿を持って戻ってきた。
ドンとテーブルに置かれた大皿には、いったい何百グラムあるのか想像がつかない巨大ステーキと、ブロッコリーにマッシュポテト、それからニンジンのグラッセなど付け合わせ野菜が乗っている。それとパンだ。
彼はサッと鑑定魔法で全体をチェックすると、フォークの先でブロッコリーを「しっしっ」と端によけた。
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