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第六章 淑女の秘密
第109話:おぱんつの乱
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残りの報告書を読んでいると、悪い話ばかりではなかった。
マダムはもともと紳士服のデザインで名を上げたらしく、その当時からの常連客が付いていた。
たまに常連客の奥様用に、ナイトドレスをデザインすることがあるらしい。
とりあえず食べるには困っていないようで、彼女は初期の頃のビジネススタイルに立ち戻って頑張っていると書いてあった。
執事長から指示を受けたスタッフが、マダムの店に出向いて接客態度の確認をし、神薙の仕事を受ける意思があるか確認してくれていた。
「自分の過ちは許されるものではないが、もし頂けるのなら謹んでお受けしたい」と、マダムは答えたようだ。
以前のマダムの口からは絶対に出なかったであろう一言だった。
執事長が戻ってきたので、マダムとの打ち合わせをセッティングして頂くようお願いした。
彼は難色を示して「同情はお互いのためになりません」と言った。
「実はデザインを頼みたいものがありまして」
「ほう?」
「その分野に関して、彼女に適性があることは分かっています。会っても大丈夫かを確認するためにお願いした調査でした。ちょっと、予想外の情報が盛りだくさんで驚きましたけれども……無事に目的は果たせました。だから、同情というわけではないのです」
「なるほど。そういうことですか」
「初めから彼女狙いでして……。うふふ」
執事長は「ふむ」と顎をさすった。
「今の彼女ならば誘う価値があります。一度会ってお話をしたほうが、お互いのためにも良いと思うのです」
「御意。「すぐに使者を出しましょう」と、彼は微笑んだ。
その翌週にマダムと会う約束を取りつけたものの、そこまでの日々は、途方もなく長く遠く感じた。
ヴィルさんとアレンさんは、わたし達がやっていることを執拗に知りたがった。
わたしが彼らを(おぱんつの件に限り)遠ざけたせいだ。
最初は戸惑ったのだろう。妙にふたりとも大人しかった。
しかし、怒涛の質問攻撃が始まるのに半日もかからなかった。
侍女長は普段、わたしが何をしていたかをアレンさんへ細かく報告しているらしい。
しかし、さすがの彼女も内容がデリケートすぎると思ったのだろう。「男性に話すことではない」と、この件に関する報告を拒否した。
すると、それがアレンさんからヴィルさんに伝わり、大魔王ヴィル太郎を目覚めさせてしまった。
最初の被害者は侍女長だった。
彼女はヴィルさんの執務室に呼ばれ、長時間出てこなかった。
ヘトヘトになって戻ってきたところで事情を聞くと、尋問のような質問攻撃を浴びていたことが分かった。
グッタリとした彼女は、まるで拷問を耐え抜いた捕虜のように「でも、わたくし、言いませんでした」と言った。
そうこうしているうちに、侍女が一人、二人と連れ去られた。
一緒に歩いている最中に、こつぜんと消えるのだ。
彼女たちは大魔王に拉致されていた。
物陰からニョキっと伸びてきた長い腕に捕獲され、悲鳴を上げる間もなく運ばれた。そして、密室で尋問を受けるという恐ろしい経験をした後、やはりヘロヘロ状態で解放された。
皆一様に「リア様はあのようなお方のそばにいて、よく平気ですね」と言った。
わたしは「平気ではないです。大変です」という言葉を飲み込んだ。
情にほだされて中途半端に情報提供をすると、そこを取っ掛かりに根掘り葉掘り聞かれて敗北する。
侍女の拉致監禁と尋問を防止するため、わたしは自分が矢面に立つことにした。恐縮ながら神薙様の強い権限を行使させて頂いて「男子禁制」の宣言をしたのだ。
こうして、わたしと大魔王のバトルが火ぶたを切った。
「侍女を狙うなんて、やり方が汚い」と抗議をすれば、「それならリアが教えてくれ」と言われた。
そこで「言えない」と言い返せば、耳元で「体に聞くという手もあるのだが?」と囁かれて息を吹きかけられる。
「セクハラだ」と言っても意味が通じない。この国の王都には、迷惑防止条例なんてものはないし、まずはハラスメントの意味から説明しなくてはならないのだ。
くぬぬ……手ごわい。
ヴィル太郎はすっかり悪役と化しており、二人きりになるのは危険だ。動けなくされて、洗いざらい吐かされるのが目に見えている。
彼のことが大好きなのにも関わらず、二人きりにならないための対策をするハメになった。
こうなったら護衛騎士を最大限活用するほかない。アレンさんにピッタリくっついて行動した。
彼がいれば大丈夫だと思っていたのだ。
ところが、真の敵は思わぬところに潜んでいた。
マダムはもともと紳士服のデザインで名を上げたらしく、その当時からの常連客が付いていた。
たまに常連客の奥様用に、ナイトドレスをデザインすることがあるらしい。
とりあえず食べるには困っていないようで、彼女は初期の頃のビジネススタイルに立ち戻って頑張っていると書いてあった。
執事長から指示を受けたスタッフが、マダムの店に出向いて接客態度の確認をし、神薙の仕事を受ける意思があるか確認してくれていた。
「自分の過ちは許されるものではないが、もし頂けるのなら謹んでお受けしたい」と、マダムは答えたようだ。
以前のマダムの口からは絶対に出なかったであろう一言だった。
執事長が戻ってきたので、マダムとの打ち合わせをセッティングして頂くようお願いした。
彼は難色を示して「同情はお互いのためになりません」と言った。
「実はデザインを頼みたいものがありまして」
「ほう?」
「その分野に関して、彼女に適性があることは分かっています。会っても大丈夫かを確認するためにお願いした調査でした。ちょっと、予想外の情報が盛りだくさんで驚きましたけれども……無事に目的は果たせました。だから、同情というわけではないのです」
「なるほど。そういうことですか」
「初めから彼女狙いでして……。うふふ」
執事長は「ふむ」と顎をさすった。
「今の彼女ならば誘う価値があります。一度会ってお話をしたほうが、お互いのためにも良いと思うのです」
「御意。「すぐに使者を出しましょう」と、彼は微笑んだ。
その翌週にマダムと会う約束を取りつけたものの、そこまでの日々は、途方もなく長く遠く感じた。
ヴィルさんとアレンさんは、わたし達がやっていることを執拗に知りたがった。
わたしが彼らを(おぱんつの件に限り)遠ざけたせいだ。
最初は戸惑ったのだろう。妙にふたりとも大人しかった。
しかし、怒涛の質問攻撃が始まるのに半日もかからなかった。
侍女長は普段、わたしが何をしていたかをアレンさんへ細かく報告しているらしい。
しかし、さすがの彼女も内容がデリケートすぎると思ったのだろう。「男性に話すことではない」と、この件に関する報告を拒否した。
すると、それがアレンさんからヴィルさんに伝わり、大魔王ヴィル太郎を目覚めさせてしまった。
最初の被害者は侍女長だった。
彼女はヴィルさんの執務室に呼ばれ、長時間出てこなかった。
ヘトヘトになって戻ってきたところで事情を聞くと、尋問のような質問攻撃を浴びていたことが分かった。
グッタリとした彼女は、まるで拷問を耐え抜いた捕虜のように「でも、わたくし、言いませんでした」と言った。
そうこうしているうちに、侍女が一人、二人と連れ去られた。
一緒に歩いている最中に、こつぜんと消えるのだ。
彼女たちは大魔王に拉致されていた。
物陰からニョキっと伸びてきた長い腕に捕獲され、悲鳴を上げる間もなく運ばれた。そして、密室で尋問を受けるという恐ろしい経験をした後、やはりヘロヘロ状態で解放された。
皆一様に「リア様はあのようなお方のそばにいて、よく平気ですね」と言った。
わたしは「平気ではないです。大変です」という言葉を飲み込んだ。
情にほだされて中途半端に情報提供をすると、そこを取っ掛かりに根掘り葉掘り聞かれて敗北する。
侍女の拉致監禁と尋問を防止するため、わたしは自分が矢面に立つことにした。恐縮ながら神薙様の強い権限を行使させて頂いて「男子禁制」の宣言をしたのだ。
こうして、わたしと大魔王のバトルが火ぶたを切った。
「侍女を狙うなんて、やり方が汚い」と抗議をすれば、「それならリアが教えてくれ」と言われた。
そこで「言えない」と言い返せば、耳元で「体に聞くという手もあるのだが?」と囁かれて息を吹きかけられる。
「セクハラだ」と言っても意味が通じない。この国の王都には、迷惑防止条例なんてものはないし、まずはハラスメントの意味から説明しなくてはならないのだ。
くぬぬ……手ごわい。
ヴィル太郎はすっかり悪役と化しており、二人きりになるのは危険だ。動けなくされて、洗いざらい吐かされるのが目に見えている。
彼のことが大好きなのにも関わらず、二人きりにならないための対策をするハメになった。
こうなったら護衛騎士を最大限活用するほかない。アレンさんにピッタリくっついて行動した。
彼がいれば大丈夫だと思っていたのだ。
ところが、真の敵は思わぬところに潜んでいた。
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