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8−2:出会い(POV:ヴィル)

第131話:治癒魔法

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「天下の王宮医殿でも治せないのか? 彼は王国一の治癒師だろうに」
「その天下のブロックルが二度も治癒魔法をかけたが何も効かない。もう大騒ぎだよ」
「どうやって治療をする?」
「結局、ブロックルの紹介で薬師を呼んだ。シンドリって、知っているか?」
「ああ、あのネスタ通りにある薬屋だろう?」
「有名だよな。その薬師が作った気味の悪い草の汁に頼ることになった」

 クリスがひどく顔をしかめて「効いたのか?」と聞くので、こちらまで顔がぐしゃっとなった。
 シンドリの薬と言えば臭くて不味いのが基本だ。騎士団宿舎の近くに店を構えているため、騎士なら誰でも一度は飲んだことがある。
 俺も二日酔いの薬と蕁麻疹の薬を飲んだことがあり、どちらも悶絶して泣きたくなるような味だった。

 「治癒魔法よりは効いたようだ」と、俺は答えた。

「神薙が駆け込んできて以来、叔父が神薙に執着するようになった」
「罪悪感か?」
「それもあるのだろうが、自分の怪我よりアレンを優先したことが大きい」

 「武人はそういう話に弱いよな」と、クリスは言った。

「降臨初日に落とされた男が言うと妙に説得力があるな」
「はははっ! なんとでも言いやがれ」

 叔父は事あるごとに「リアはどうしている」「今日は何をしている」「まだ痛むのか」と聞いてくるようになった。俺が王宮に一日いる日は三回も四回も聞かれる。
 俺が近くにいない日は神薙の宮殿に使いを出してまで様子を確認していた。

「極めつけは、妃にしたいと言い出した」
「うおおい、それはちょっと待ったああぁ!」
「全力で止めた。すごく頑張ったのだぞ」
「よしっ! それでこそ親友だ!」
「もっと褒めろ」
「えらいッッッ!」

 さすがの叔父も貴族を敵に回すことは望んでいない。
 そもそも叔父は王太子を得るために先代の神薙と(嫌々ではあるのだろうが)関係を持っているため、法的に新神薙の夫にはなれないのだ。法を変えてまで妻にするとなれば貴族は黙っていないだろう。
 「神薙が誰も選ばなかった際は王の妃にする」という案を出し、とりあえずその場を収めた。

「それで、リア様はどうだ?」
「もうぼちぼち完治だそうだ。元気だと聞いている」
「良かった。しかし、よく無事だったな」
「ああ、それについてなのだが……」

 俺が本題に入ろうとしたところ、扉をノックする音が聞こえた。
 「どうぞ」と声を掛けると、噂の「書記君」ことアレン・オーディンスが入ってきた。


 アレンは学生の頃からきちんとした後輩だったが、そのままきちんとした部下になった。
 相変わらず姿勢が良く、背中に棒でも入れているのではないかと思うほど背すじがきちんと伸びている。

「報告か? 今日は随分と早いな」
「団長……」
「どうした」
「リア様をナンパするのはやめて頂けますか」

 ぶばぁっ! と、クリスが草汁茶を噴いたせいで、向かいに座っていた俺の服に思い切り飛んできた。
 制服だから何を飛ばしても良いのだが、草汁茶はよせ。臭いが残りそうだ。

「ど、どういうことだ、ヴィル! てめぇ、説明しろ!」
「たまたま神薙が怪我をした現場に出くわして助けたという肝心な部分を、今まさに話そうとしていたところだ」

 クリスは嫉妬をするようなつまらない男ではない。
 ただ、幼馴染であるのを良いことに根掘り葉掘りしつこく聞いてくる奴ではある。

 「お前、リア様に何をした」と、彼は俺を睨みつけた。
 ひどい誤解だ。百パーセント、俺は無実だ。

「断じて不埒な真似はしていない。ナンパなどでは決してない」

 そうは言ったものの、少し不安になってきた。
 何もしていないよな……?

 ゴロツキから救った。
 真っ赤になった手首を冷やしてやった。
 多少アレではあるが……。
 荷物を拾い、大通りまで送った。
 何もしていないということにしておこう。

「宮廷訛りの可憐な小リスがゴロツキに絡まれていたから追っ払った。怪我をして困っていたから少し助けただけだ」
「どこで?」
「商人街から横道に逸れたところだ」
「危ないな……」
「俺もそう思う」
「女性が一人で歩く場所ではないぞ」
「同感だ」
「なぜそんな場所にリア様が一人で?」
「側仕えの騎士に聞いてみろ」
「おい書記、最初から説明しろ」

 アレンは一瞬、「うっ」と喉を詰まらせた。
 不埒者の濡れ衣を着せられた俺は反撃を試みる。

「クリス聞いてくれ。彼は神薙を傷つけられたことで激昂し、派手に魔力漏れをやらかして玄関先で突風を起こしたのだ。そして神薙の宮殿の調度品を壊したのだぞ?」
「なんてやんちゃな書記だ。何があった? 話してみろ」
「しかも陸将に向かって、犯人を捕らえなければ首を斬ると脅迫もしたのだ」
「悪い奴だな。お前らしくないぞ」
「俺が代わりに謝りにいったのだ。ああ、大変だったなぁ……」

 チラリとアレンを見た。
 彼は鋭い眼光で俺を睨みつけていたが、すぐにいつもの呆れ顔に戻った。

「すごい嘘つきだ。謝るどころか団長が畳みかけたと聞きましたよ?」
「ちっ、バレていたか」
「ヴィル、お前という奴は……。まあ書記クン、座りたまえ」

 総務大臣を務めているアレンの父アルベルト・オーディンスは、うちの父や叔父とは学生時代からの友人だ。父親から情報提供があったのだろう。アレンは事の詳細を知っていた。
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