パラレヌ・ワールド

羽川明

文字の大きさ
上 下
53 / 57
五章 「失われた色彩」

「Ⅶ」

しおりを挟む
 頭部の痛みをぼんやりと意識しながら、男は目を覚ました。泥沼のようにまとわりつく疲労感を振り切り、必死にかすんだ目を凝らす。視界のあちこちに、ちかちかと明滅する光が見える。
 しだいに焦点があっていく中で、男は、はっと目を見開き、息を呑んだ。
『なんだ、これは……!!』
 男は、自分が地面に投げ出され、うつぶせに横たわっていることに気づいた。

 ――――ちりちりと燃える茂みの中で。

 身を起こすと、茂みの隙間から、開けたむき出しの地面が見えた。草原があったはずのその場所は、今は焼け焦げ、見る影もない。見れば、そこらじゅうがクレーターのように窪(くぼ)み、不自然にえぐれている。
 その理由は直後に判明した。
『――――っ!?』
 焼け野原の向こうに見えた一本の若木が、閃光によって真っ二つに裂け、一瞬で燃え上がった。
 そして数秒後、三度の閃光を伴(ともな)って現れたレーザーが、倒れ伏す若木を粉々に砕く。
 見回せば、逃げ遅れた鳥たちが、黒焦げになって地面に転がっていた。
 花々も草木も、吹き荒れる風に揺れ動き、追い回すようにレーザーが飛び、貫かれては火ダルマと化していった。
 降り止まない豪雨のおかげか火の海でこそなかったが、立ち込める匂いは、〝死〟だ。
 無慈悲にも奪われた生命の怨嗟(えんさ)が、男には聞こえた。
 言葉となって、叫びとなって、否応なく反響し渦巻く。
 焼け落ちる草木に、転がる鳥たちの死骸に、見覚えなどなかった。
 男が、世界の果てから戻った時、この星はとうに、変わり果てていた。
 それでも。
 男は、悲しみに震えていた。
『……私は、』
 すり向けた血だらけの頬を、一筋の涙が伝う。
『……私は、』
 爪が食い込むほど握りしめた拳を、根元まで焦げた異星の木の根に振り下ろした。
『――――何のために!?』

 地位を捨て、家族を捨て、母星を離れ、男は、緑の帝王(グリーン・エンペラー)を探す旅に出た。
 冷却装置の中で眠りにつき、来るべきその日まで、恐ろしく長い年月を過ごした。
 だがある日、装置の寿命が限界を迎えた。
 帰還を余儀なくされた男は、敵軍の無人UFO(ドローン)の攻撃をかいくぐりながらワープを繰り返し、ついに母星への生還を果たしたのだ。
 しかし母星は、異星人たちに支配されていた。
 自然さえ、異星の草木が生い茂り、記憶の中の母星の姿は、もはや残されていなかった。
 そして今、それさえもが失われようとしている。

 ――――男は、どこまでも無力だった。

が、
『…………嫌だ。――――嫌だ!!』
 男は、諦めなかった。


『――――地球は、我々の母星だ』


 そのとき、脈打つ生命の鼓動が、全身を駆け巡った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

処理中です...