僕だった俺。

羽川明

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 二日目  「変わり始めた明日」

その八

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「着いたわ。ここよ」
 さやかの指さす方を見ると、さやかの家よりもずっと大きい二階建ての家があった。所々古ぼけており、相当年季が入っているようだ。
 その見た目から、さやかの祖父母の家とみて間違いなさそうだ。
「ちょっと待ってて。今インターフォン押すから」
 さやかは落ち着かない様子で門の前へ駆け寄る。
 だが緊張しているのか、中々インターフォンを押そうとしない。門の前をうろうろしてしばらく辺りを見回したかと思えば、ようやくインターフォンを押した。会うのが待ちどうしいのか、足踏みをして、終始落ち着きがない。
「そんなに会うのがうれしいのか?」
「え!? ちっ、違うわよ!!」
 なぜかさやかは顔を真っ赤にして怒った。女心とは本当にわからない。
「あれ? 全然出てこない。いないのかな」
 しびれを切らしたのか、さやかはインターフォンを連打し始める。
 だが誰も出てこない。よくよく見れば電気も点いていないし、まるで人気(ひとけ)がない。
 寝ているのだろうか。
「なぁ、この門、鍵かかってないんじゃないか?」
「え? そんなはずは……」
 さやかが手をかけると、門はあっさりと開いた。
「あれ? おかしいな。いつも家の戸締まりだけはしっかりしてるのに」
「もう年なんじゃないか」
「はぁ? 何言ってんのよ。家のドアにはちゃんと鍵をかけて❘」
 ドアノブを回すと、これまた何の抵抗もなく開いた。
「ないみたいだな」
「……何かあったのかな?」
「ただの認知症じゃないか」
「そんなはず……」
 心配になったのか、さやかは急ぎ足で家の中に入って行った。
 俺は少々迷ったが、後に続いた。
 リビングの電気を点け壁にかかった時計を見ると、午後十時半だった。予想外に遅い。やはりもう寝ているのだろう。
 家の中にはたくさんの家具があり生活感こそあったものの、相変わらず人気は全くなかった。
 それが余りに不気味だったので、二人で手分けして家中を探し回った。
 俺は一階をくまなく探し回ったが、誰もいなかった。
 二階担当のさやかがまだ下りて来ないので、俺は木製の階段をのぼり、二階へ向かった。
 さやかは、二階の部屋の中でも一際大きい部屋にいた。
 その部屋は壁に沿って窓がいくつも並べられ、そこだけ切り取ると教室のような作りだった。
 さやかは、その窓の一つを開け放ち、外の景色を眺めていた。
 月の光で照らされたさやかの横顔は、神秘的で、魅力的だった。
 それをいつまでも眺めていたかったが、視線を感じたのかさやかがこちらに気付き、髪をなびかせ、振り向いた。
 その黒髪もまた、目を奪われるほどに美しかった。改めて見ると、さやかはかなり整った顔立ちをしていた。

 俺はそんなさやかを見て、もっと一緒にいたいと思った。
 でも、今更戻ることなんて、僕にはできるのだろうか。
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