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二日目 「変わり始めた明日」
その三
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もう考えている時間はない。俺は窓を開けてナイフを奪い取り、襟首をつかんで抱き寄せると、野次馬共に向き直りながら少女の首にナイフを突き付けた。
「黙って道を開けろ! あと一歩でも近づいたら、コイツの命は無いぞ!!」
俺が叫ぶと、野次馬たちは立ち止り困惑した。
しかしただ一人、人質の少女だけは、恐怖に脅えていた。
「助けて……」
今にも消え入りそうな掠れ声だった。彼女の首筋に、うっすらと血がにじむ。
瞬間野次馬たちは、驚愕した。どうやらようやく気がついたらしい。
ナイフの刃が、ほとんど隙間なく宛がわれている事に。
少女の首筋から垂れた雫が、床を赤く染めた。
この野次馬共はどうせ偽善者ぶって簡単には道を開けないだろうから、このくらいの演出は止むを得ない。少女がどうかは知らないが、コイツらはどうせ彼女を助けるつもりなどない。この非日常を映画気分で楽しみたいだけだ。あったとしても無責任に警察に突き出すだけだろうが。
「道を開けろっつってんだろ! お前らがいたって邪魔になるだけなんだよ‼」
野次馬たちは恐れ戦き、ようやく道を開けた。
そう、それでいい。脇役は、素直に脇役してろ。
俺は少女を半ば引きずりながら突き進み一階へと下りる。
「付いてくるな!!」
俺が振り返り叫ぶと、後へ続こうとする足音は消えた。
「おい、勝手口はどこだ」
「台所の、奥よ……」
「案内、……してくれ」
俺がずっと突き立てていたナイフを降ろしても、少女に特に変化はなく、静かに台所の方へ歩いて行く。
その足取りがどこか軽快に見えたのは、きっと気のせいだろう。
勝手口から裏へ出ると、一旦敷地の外の道路に出てから表の野次馬たちの中に混じった。それが功を奏し、いつの間にか駆けつけていた警察官たちは俺たちに気付くことなくパトカーに乗り込んでどこかへ消えた。どこぞの知ったかぶりが作ったデマに流されて俺たちが逃げ出したとでも思い込んだのだろう。
そりゃそうだよな、まさか家の前で野次馬に紛れてるなんて思わない。
俺たちはパトカーの数がまばらになったのを見計らい、その場から立ち去った。
「黙って道を開けろ! あと一歩でも近づいたら、コイツの命は無いぞ!!」
俺が叫ぶと、野次馬たちは立ち止り困惑した。
しかしただ一人、人質の少女だけは、恐怖に脅えていた。
「助けて……」
今にも消え入りそうな掠れ声だった。彼女の首筋に、うっすらと血がにじむ。
瞬間野次馬たちは、驚愕した。どうやらようやく気がついたらしい。
ナイフの刃が、ほとんど隙間なく宛がわれている事に。
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この野次馬共はどうせ偽善者ぶって簡単には道を開けないだろうから、このくらいの演出は止むを得ない。少女がどうかは知らないが、コイツらはどうせ彼女を助けるつもりなどない。この非日常を映画気分で楽しみたいだけだ。あったとしても無責任に警察に突き出すだけだろうが。
「道を開けろっつってんだろ! お前らがいたって邪魔になるだけなんだよ‼」
野次馬たちは恐れ戦き、ようやく道を開けた。
そう、それでいい。脇役は、素直に脇役してろ。
俺は少女を半ば引きずりながら突き進み一階へと下りる。
「付いてくるな!!」
俺が振り返り叫ぶと、後へ続こうとする足音は消えた。
「おい、勝手口はどこだ」
「台所の、奥よ……」
「案内、……してくれ」
俺がずっと突き立てていたナイフを降ろしても、少女に特に変化はなく、静かに台所の方へ歩いて行く。
その足取りがどこか軽快に見えたのは、きっと気のせいだろう。
勝手口から裏へ出ると、一旦敷地の外の道路に出てから表の野次馬たちの中に混じった。それが功を奏し、いつの間にか駆けつけていた警察官たちは俺たちに気付くことなくパトカーに乗り込んでどこかへ消えた。どこぞの知ったかぶりが作ったデマに流されて俺たちが逃げ出したとでも思い込んだのだろう。
そりゃそうだよな、まさか家の前で野次馬に紛れてるなんて思わない。
俺たちはパトカーの数がまばらになったのを見計らい、その場から立ち去った。
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