僕だった俺。

羽川明

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 一日目 「いつも通りの今日」

その二

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 ――――俺は、衝撃とともに昇降口の屋根へ降り立った。
 地面よりは高い位置だが、それでも決して低くはない高さから飛び下りた割に、不思議と痛みは感じなかった。恐怖でからだがすくむことも、震えることもない。
 それどころか、体中が自らをたたえるようにうずき、湧き出すような力がみなぎって来る。
 目頭が熱くなり、頭は冷えて冴え渡り、二つの温度が中和して、後には爽快感だけが残る。

 俺は飛び下り際に屋根のふちを蹴って校門を軽々飛び越え、街へと駆け出した。
 行先は決めていなかった。目的だけが、今の俺を突き動かしていた。
 街に入ってからも、俺は走り続けた。道行く人を何人も追い抜かし、自転車をも追い抜かす速度で走ったが、それでも全く疲れなかった。止まってはいけない気がした。
 今までできなかったことの全てを、いつまでも立ち止まったままの自分を、今なら変えられる。きっとできる。俺はもう、自由なんだ。
 代わり映えのしなかった街の風景が、目まぐるしい勢いで変化していく。
 何の変哲もない青空も、どこかいつもと違って見えた。
 これから俺は、どのくらい変わることができるのだろう。
 これからの俺は、昔の自分から、どれほどかけ離れられるのだろう。
 どこかから、子供達の楽しげな笑い声が聞こえてきた。
 俺は彼らのように、幸せになれるだろうか。きっとなれる。
 だって俺は、もう既に、俺なんだから。
 建物の連なりが途切れ、たくさんの遊具が置かれた広場が見えてきた。
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