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二十四章

その三 ラストバトル3(改)

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「困るんだよ。誰彼(だれかれ)構わずぺらぺらと…… この時代の帰還用転送装置タイムマシンの存在は、極秘事項なのに。君は守秘義務と言うものを知らないのかい?」
 言葉を切ってから、おどけるように肩をすくめ、所長はおかしそうに口元を歪めた。
「……あぁ、そっか。知らないんだっけ? 被験者の不足分は適当に見繕ったらしいからなぁ。――――おっと」
 訪れそうになる沈黙の気配を打ち破ったのは、そんな、間の抜けた一声だった。
 次の瞬間、遠巻きにいたはずの黒腕たちが左右後方から傾(なだ)れ込み、所長を一呑ひとのみにした。立ち塞がる黒腕の壁に、僕ら二人はなすすべなく後退(あとずさ)る。
「そうか。胴から伸ばせば届く距離だったんだ……」
「……でも、なんで今頃になって動き出したんだ? 襲う機会はいくらでもあったはずだろ?
それに――――」
『――――胴が奥へ移動しただけだ』
 黒壁の向こうからくぐもった声が響き、その先を遮(さえぎ)った。
 直後、高々と積み上がった黒腕の山の中心がぱかりと割れ、所長が、何事も無かったかのように這い出てくる。虚勢とも平静ともつかない涼しい顔をしているが、片目が砕けたサングラスには、血が滲(にじ)んでいた。
「マジかよ……」
「……はははっ、大マジだよ。いつだって僕は、――――本気だ」
 所長は痙攣する右手でサングラスを掴むと、握りしめて潰し、ひしめく黒腕の中へ投げ捨てた。そうして、隠され続けて来た瞳が、露(あら)わになる。
「――――なっ!!」
「……狂ってやがる!」
 息を呑んでばかりの僕の横で、本道君が鈍く舌打ちをする。ほんの一瞬、怨嗟(えんさ)の如き暗い感情を垣間見た気がした。
 所長の、異様なまでに大きく見開かれた双眸。
 ひび割れるように血走ったその二つの瞳には、どす黒いリングが浮かんでいた。
「……ざっけんなよ。――――ふざっけんなよてめぇ!!」
 喉仏までも真っ赤に染まった横顔で、打ち震えた怒りで、本道君が叫ぶ。
「……それがどうゆうことか、分かってんのかよ……!」
 刃を突き立てるような、燃え上がる視線に、殺意が見え隠れする。
「――――分かってるさ、覚悟はできている。一度目の、あの日からずっと……」
 対する所長は、静かに燃える、冷たい炎に突き動かされているようだった。いつ消えるとも知れない空前の灯火に縋(すが)るその様は、危(あや)うさに満ちていた。一線を越えた狂気。それは狂(くる)おしいほどの切望(せつぼう)だった。
「……もう一度、コイツで道を作る、お前が行け。俺はここで、――――所長を殺す」
「は、はい……」
 ただそれだけを返し僕は、正面を見据え身構える。

 本道君が今、どんな顔をして、何を想っているのか、考えたくは無かった。
 ただ、本気なのだと言うことだけは、これ以上無いくらい分かった。
 それこそが、本道君が命を懸(か)けて怪物を殺す、理由なんだろう。

 本道君が真正面に向けてバズーカを構えると、所長は、不敵な笑みで見下(みくだ)すように笑った。
「――――来いっ!!」
 しかし、トリガーが引き絞られた時、光の柱が貫いたのは、所長の数メートル右の空間だった。所長が瞳を黄色く瞬(またた)かせるとともに展開させたカウンター・バリアーは不発に終わり、どす黒い壁に大穴が開く。
「何っ!?」
 完全に虚をつかれたらしい所長の脇を、僕はおよそ人間離れした瞬発力で駆け抜けた。重力が何十倍にも膨れ上がるような痛みが痺れるように響いた。けれど耐えられないほどではない。
 事態を呑みこみ振り返った所長の顔には、焦燥(しょうそう)の色がありありと浮かんでいた。
「――――余所見(よそみ)すんなぁぁーーーーーーーーああぁぁーーーーーーーーーぁぁっっ!!」
 役目を終えたバズーカを放り、本道君がやはり人間離れした脚力で飛躍。放物線を描きながら天高く跳び上がり、所長の背に向け振(ふ)り被(かぶ)る。
 所長は一瞬迷うような素振りを見せた後、冷めた瞳で僕を一瞥(いちべつ)し、本道君の方へ、余裕の笑みで迎え撃った。
『――――ハァーーーーーハァハァハァハァーーーーーーーーーーッ!!』

 その声はもはや、人ト非怪物そのものだ。
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