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二十三章
その一 VSハンハンド編1(改)
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何の変哲もない商店街の通りは、崩れた土砂のようなどす黒い塊に呑まれ、半端な長さで途切れていた。その六十メートル手前では、クラウチングスタートのような片膝立ちの姿勢で加奈子さんが一人待機している。――――身の丈に迫る巨大なバズーカを担(かつ)いで。
両足に装着した青いローラーブレードが、白衣の後姿から存在感を放っていた。今更だけど、こんな状態から立ち上がれるんだろうか? 僕なら十中八九(じゅっちゅうはっく)素っ転んでしまうだろう。
「――――大丈夫、ですかね?」
そういう意味も含めて、僕は誰ともなしに問いかけた。
「心配すんなって。あれがあいつの、普段の戦闘スタイルなんだよ」
「……どのみち、他にやる奴が居ない」
僕の反対の席に移動した本道君が外を眺めながら呟き、柴崎さんがそれを台無しにする。かなり緊張気味のようだ。逆に本道君の方は、いつになく緊張感に欠けた様子で、明後日(あさって)の方へ口笛を吹いている。見様(みよう)によっては気を紛らわせているように見えなくもないが。
「……そう言えば、怪物は、視えない人には襲って来ないんでしたよね? だったら、いっそ保護メガネを外して行けばいいんじゃないですか?」
「いや、むしろ危険だ。やめておけ」
柴崎さんが、ほとんど被せるように答える。
「どうしてですか?」
「お前にも、視えてるんだろ?」
「え? ……あ」
――――そうだ。そう言えば、視える。もう、保護メガネはつけていないのに。
「……まぁ、視えて無かったとしても、どのみち危険だろうけどな」
本道君が前の席を倒し足を投げ出しながら呟く。
「なんせコイツはデカすぎる」
「あ、そっか。大きすぎて避(よ)けられないんだ」
「いや、遅(おせ)ぇよ。今頃かよ」
「ごめん、何にも考えて無かった」
笑いかけると、本道君も少し笑った。
『チャージ、完了しました』
車のナビにノイズが走り、加奈子さんの声が流れ出す。
「分かった。こっちも――――」
柴崎さんが、横目でこちらに振り返る。本道君が慌ててバズーカを取り出すと、満足げに笑って、
「――――準備完了だ。始めてくれ」
『はっ、はい。……じゃあ、行きますね?』
スピーカ越しにも、加奈子さんの声が強張(こわば)っているのが分かった。さすがの僕も、ここまで来ると緊張せざるを得ない。
うっすらとノイズを纏った車のナビに、がちゃんと固く引き絞る音が入る。
同時にT字路の中央で加奈子さんが素早く立ち上がってバズーカを構え、発射口から真正面――――僕らから見て左――――に向かって大木のように太い光の柱が迸(ほとばし)った。少し遅れて発射口を囲むように取り付けられたジェットが逆噴射し、加奈子さんは前を向いたままT字路の右側に向かってものすごい勢いで滑走していった。入れ替わるように現れたバズーカの光は周囲に尾を引きながら見る間に広がっていくと、次の瞬間には全てを呑み込んだ。
「うわっ!」
世界が白と黒の眩いコントラストに包まれ、左の曲がり角の向こうで、黒が白に押し負け、四散するのが見えた気がした。
「出すぞっ!!」
「は、はい――――ぎゃっ!!」
柴崎さんがアクセルを踏み込み、三人を乗せたバンが急発進した。直後にハンドルをこれでもかと左に捻っての急カーブ。勢い余ってバンが横滑りし、豪快なドリフトを決める。何とか曲がり切ったものの、遠心力で窓を頭に強打する。本道君が声を上げて笑った。
速度が上がり、進路が安定すると、バンはいよいよ蠢(うごめ)くどす黒い森の中へ突っ込んでいった。
両足に装着した青いローラーブレードが、白衣の後姿から存在感を放っていた。今更だけど、こんな状態から立ち上がれるんだろうか? 僕なら十中八九(じゅっちゅうはっく)素っ転んでしまうだろう。
「――――大丈夫、ですかね?」
そういう意味も含めて、僕は誰ともなしに問いかけた。
「心配すんなって。あれがあいつの、普段の戦闘スタイルなんだよ」
「……どのみち、他にやる奴が居ない」
僕の反対の席に移動した本道君が外を眺めながら呟き、柴崎さんがそれを台無しにする。かなり緊張気味のようだ。逆に本道君の方は、いつになく緊張感に欠けた様子で、明後日(あさって)の方へ口笛を吹いている。見様(みよう)によっては気を紛らわせているように見えなくもないが。
「……そう言えば、怪物は、視えない人には襲って来ないんでしたよね? だったら、いっそ保護メガネを外して行けばいいんじゃないですか?」
「いや、むしろ危険だ。やめておけ」
柴崎さんが、ほとんど被せるように答える。
「どうしてですか?」
「お前にも、視えてるんだろ?」
「え? ……あ」
――――そうだ。そう言えば、視える。もう、保護メガネはつけていないのに。
「……まぁ、視えて無かったとしても、どのみち危険だろうけどな」
本道君が前の席を倒し足を投げ出しながら呟く。
「なんせコイツはデカすぎる」
「あ、そっか。大きすぎて避(よ)けられないんだ」
「いや、遅(おせ)ぇよ。今頃かよ」
「ごめん、何にも考えて無かった」
笑いかけると、本道君も少し笑った。
『チャージ、完了しました』
車のナビにノイズが走り、加奈子さんの声が流れ出す。
「分かった。こっちも――――」
柴崎さんが、横目でこちらに振り返る。本道君が慌ててバズーカを取り出すと、満足げに笑って、
「――――準備完了だ。始めてくれ」
『はっ、はい。……じゃあ、行きますね?』
スピーカ越しにも、加奈子さんの声が強張(こわば)っているのが分かった。さすがの僕も、ここまで来ると緊張せざるを得ない。
うっすらとノイズを纏った車のナビに、がちゃんと固く引き絞る音が入る。
同時にT字路の中央で加奈子さんが素早く立ち上がってバズーカを構え、発射口から真正面――――僕らから見て左――――に向かって大木のように太い光の柱が迸(ほとばし)った。少し遅れて発射口を囲むように取り付けられたジェットが逆噴射し、加奈子さんは前を向いたままT字路の右側に向かってものすごい勢いで滑走していった。入れ替わるように現れたバズーカの光は周囲に尾を引きながら見る間に広がっていくと、次の瞬間には全てを呑み込んだ。
「うわっ!」
世界が白と黒の眩いコントラストに包まれ、左の曲がり角の向こうで、黒が白に押し負け、四散するのが見えた気がした。
「出すぞっ!!」
「は、はい――――ぎゃっ!!」
柴崎さんがアクセルを踏み込み、三人を乗せたバンが急発進した。直後にハンドルをこれでもかと左に捻っての急カーブ。勢い余ってバンが横滑りし、豪快なドリフトを決める。何とか曲がり切ったものの、遠心力で窓を頭に強打する。本道君が声を上げて笑った。
速度が上がり、進路が安定すると、バンはいよいよ蠢(うごめ)くどす黒い森の中へ突っ込んでいった。
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