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二十一章

その三 第一転送室(改)

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 指定された座標通りにメタルワープすると、深い青色のカプセルの中に出た。カプセルは、同じく筒状の鋼鉄の壁が天井へ消えると同時にパカリと開き、両側の壁に収納された。同じようにして、隣のカプセルから坂本さんが姿を現す。
 どうやらここは転送室のようだ。……恐らくは、本部の。正面の薄紫色の防火扉の上にはめ込まれたプレートには、『第一転送室』とある。――――ということは、第二、第三もあるのか。この部屋だけで尾張支部(うち)の事務室くらいはありそうなのに。
「――――予定より遅れた……!」
 坂本さんは短く舌打ちして悪態をつきながらその時間さえも惜しいとばかりに防火扉に走り寄り、そばのボタンを半ば殴りつけるようにして叩いた。
 防火扉が摩擦で凄まじい音を立てながらゆっくりと開いていく。坂本さんは指を差し入れ強引にこじ開けると、できた隙間に体を滑り込ませ、慌ただしく駆け出した。
「お前も来い!!」
 速度は緩めず横目で振り返り、叫ぶ。
「待って下さいっ!」
 慌てて扉に走り寄り、見よう見まねでこじ開ける。下に車輪がついているらしく、思いの他簡単に開いたが、通路の先の白い背中は、早くも小さくなっていた。
 やっとのことで追いつくと、坂本さんが唐突に切り出して来る。
「……リストに、名前があった!」
「は?」
「立ち止まっている余裕は無い。このまま聞け!」
 言い終えるや否や坂本さんはいきなり方向転換し、左の壁の扉に体当たり気味に飛び入った。
「……は、はいっ!」
 右側の壁を蹴って急旋回し、後に続きながら答える。立ち並ぶ用途不明の近未来的な機械に壁一面に設けられた巨大モニターから映し出される幾何学的な図形が代わる代わる投影され、奥行きの長い部屋の中はSFに出てくるワープホールのような様相だった。
 よくよく見ると、映し出されているのは何かの設計図や模式図のようだ。とはいえ、難解すぎて理解できないことに変わりは無い。
「本部のデータベースに、時間跳躍者タイムリーパーのリストがあった! お前のことはそこで知った。多分、お前もモルモットにされた口だろう……!!」
「あの……、全然、意味が分からないんですけど! 第一僕は、タイムマシンなんて――――」
「――――覚えてないだけだ! 直(じき)に思い出す」
「え?」
「家族の顔も住所も、自分の名前や他人の名前、自分が今まで、何をして、どうしてこうなったのか。現代に帰れば、残らず思い出す」
「――――でも!! 僕の家は、引っ越した家族はどうなるんですか!?」
「それは……」
 口籠りながらも、坂本さんは奥の扉から通路に飛び出し、迷いのない動作で突き進んで行く。
「……俺にも分からない」
「そんな!?」
「仕方がないだろっ!! ……まだ誰も知らないんだ。そのための実験なんだろうがっ!」
「実験?」
「タイムワープシステムを実用化するためには、意思疎通の取れる被検体、つまり人間が必要だった。だから政府とSTKはメタルワープシステムの原理を応用して移動式のタイムリープシステムを作り上げ、特定の機種を装備したSTK職員をモルモットにしたのさ。お前の、この時代でいう〝最新型〟がそれだ。記憶が抜け落ちてるのは、口止めとして〝記憶の撹乱(かくらん)〟が施(ほどこ)されたからだ」
「じゃあ、坂本さんは――――」
「偽名だ」
 遮るように即答される。まだ説明の途中らしい。
「今言ったのは全部、この時代のデータベースから入手したものだ。この時代のリストには俺とお前しか載ってなかったが、間違いなくもう一人居る。最低でもあともう一人、監視役がいるはずだ。――――極秘とはいえ、本部のデータベースに堂々と未来の情報をぶち込むくらいだ、多分本部の人間だろう。それもかなり上の役職…… だから、俺はお前に目をつけた。この話をすれば、絶対に裏切らないだろうからなっ!」
 言いながら非常口の扉を豪快に蹴破ると、階段が現れた。避難経路なので、全ての階層に通じているはずだった。坂本さんは少し薄暗い中を躊躇(ちゅうちょ)なく駆け下りていく。
「でもどうして、僕が必要だったんですか? 一人でも帰れたんじゃ……」
 さっきからただの一人も見かけていない。坂本さんが選ぶ進路は気味が悪いほど人気がなく、静寂に包まれていた。これだけ暴れ回っているわりに警報さえならないところを見ると、今本部は蛻(もぬけ)の空なのかもしれない。
「いや、二人居ないと開かない扉がある。左右の扉の鍵を、体重をかけつつ同時に回す仕組みだ。だからお前を呼んだ」
 まるでそのためだけに呼んだかのような口振りだった。いや、実際そうなんだろう。でなければこの人がこんなにも丁寧に説明してくるはずがない。全ては自分が一刻も早く未来へ帰るため。全部自分のため。いかにも坂本さんらしい。
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