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十九章
その一 学校編・北館四階廊下付近
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休校のうちに埃をかぶった北館四階の廊下は、霧のように立ち込めた薄闇と、かすかに差し込む月光に当てられ、廃校舎のような有様になっていた。そんな中迸る無数の鋭い閃光は、それを名残惜しんでいると言うよりも、むしろ便乗して乗り込んで来た不良たちのロケット花火の如く苛烈であり、暴力的だった。
『敵三体、撃破』
振るわれた光の軌跡を掻き消すように突き破り、さらに二体の手々悪魔が突っ込んでくる。
風間が即席の弾幕で足止めし、それを撃破する。
『敵四体、接近』
前方からさらに四体。うち一体は危険度一の蝙蝠のようだったが、柴崎は大きく一歩踏み込みざま容赦なくなぎ払った。三度、紫の軌跡が色濃く残り、怪物たちに立ち塞がる。
『ヒヒヒッ!』
三つの短い断末魔の後、遅れて来た一体がどす黒い右腕を放つ。それは鞭のようにうねって床を掠めながら柴崎の足元をかいくぐると、鋭く弧を描いて風間に牙を剥いた。不意をつかれた風間だったが、そうと気付くころにはもう上下二本の黒腕は柴崎によって叩き切られていた。
『撃破。正面前方から依然推定十数体の怪物が接近中。推定危険度、一~三』
「くそっ、きりがない!!」
言いながら柴崎は右から左に豪快に切り上げ、飛来した四体の怪物を一掃。即座に横なぎに切り返し至近距離に迫る二体をぶった切る。そのさばきは一見荒々しくも、無駄のない軌跡を描いていた。ただ、区別している暇がなく、カラスやビニール袋、飛んできた紙の類なども、誤って斬ってしまっていた。
『――――カァァッ!!』
「っ、さばき切れなかった! 隼人、任せた!!」
「悟朗さんそれカラスです、傷つけないでくださいっ! また市長に怒鳴られますよ?」
「っるせぇな!! 今それどころじゃねぇんだよ!」
怒号を飛ばす柴崎に、風間は肩をすくめる。とはいえ、本気で怖がっているわけではない。その口元には慣れた風な微笑が浮かんでいる。
「……ったく、そんなんだから彼女さんに逃げられちゃうんですよ」
「あぁん?」
振り返った柴崎の文字通り眼前を、薄緑の光線が貫いた。細くも強い光を放つそれは、そのまま柴崎の眼光数センチ手前で数秒間継続的に照射され、その間、さすがの柴崎も硬直したまま身じろぎ一つできなかった。
「危ないじゃねぇか!」
「悟朗さんこそよそ見しないでくださいよ。俺のがチャージビームじゃなかったら、大怪我じゃすみませんでしたよ?」
「どころか失明しかけたわ!!」
チャージビームは、手動でのチャージによって威力や照射時間を増幅できる、レーザービームの派生武器だ。操作性が悪いので、風間はあまり使わない。
「まっ、結果オーライっしょ」
「……あとで殴る」
二人の担当は二番目に怪物の多い四階だった。とはいえ、殲滅するわけではない。セキュリティの都合上、全ての教室には鍵がかかっているからだ。先日の一件以来、夜間の警備員がいなくなってしまったため、一時的な解錠もできないのだという。全ては学校側(主にPTA)の意向だ。反感を買うので、政府も逆らえなかったらしい。
無論、窓や扉が破られている場合は中に侵入した怪物を必ず倒すよう本部からも所長からも念を押されている。これもやっぱり、『あんたたちがちゃんとしないから云々』と、反感を買うからだ。こちらはSTKにとって死活問題である。
そんな事情など、彼らには知る由もなかったが。
『敵三体、撃破』
振るわれた光の軌跡を掻き消すように突き破り、さらに二体の手々悪魔が突っ込んでくる。
風間が即席の弾幕で足止めし、それを撃破する。
『敵四体、接近』
前方からさらに四体。うち一体は危険度一の蝙蝠のようだったが、柴崎は大きく一歩踏み込みざま容赦なくなぎ払った。三度、紫の軌跡が色濃く残り、怪物たちに立ち塞がる。
『ヒヒヒッ!』
三つの短い断末魔の後、遅れて来た一体がどす黒い右腕を放つ。それは鞭のようにうねって床を掠めながら柴崎の足元をかいくぐると、鋭く弧を描いて風間に牙を剥いた。不意をつかれた風間だったが、そうと気付くころにはもう上下二本の黒腕は柴崎によって叩き切られていた。
『撃破。正面前方から依然推定十数体の怪物が接近中。推定危険度、一~三』
「くそっ、きりがない!!」
言いながら柴崎は右から左に豪快に切り上げ、飛来した四体の怪物を一掃。即座に横なぎに切り返し至近距離に迫る二体をぶった切る。そのさばきは一見荒々しくも、無駄のない軌跡を描いていた。ただ、区別している暇がなく、カラスやビニール袋、飛んできた紙の類なども、誤って斬ってしまっていた。
『――――カァァッ!!』
「っ、さばき切れなかった! 隼人、任せた!!」
「悟朗さんそれカラスです、傷つけないでくださいっ! また市長に怒鳴られますよ?」
「っるせぇな!! 今それどころじゃねぇんだよ!」
怒号を飛ばす柴崎に、風間は肩をすくめる。とはいえ、本気で怖がっているわけではない。その口元には慣れた風な微笑が浮かんでいる。
「……ったく、そんなんだから彼女さんに逃げられちゃうんですよ」
「あぁん?」
振り返った柴崎の文字通り眼前を、薄緑の光線が貫いた。細くも強い光を放つそれは、そのまま柴崎の眼光数センチ手前で数秒間継続的に照射され、その間、さすがの柴崎も硬直したまま身じろぎ一つできなかった。
「危ないじゃねぇか!」
「悟朗さんこそよそ見しないでくださいよ。俺のがチャージビームじゃなかったら、大怪我じゃすみませんでしたよ?」
「どころか失明しかけたわ!!」
チャージビームは、手動でのチャージによって威力や照射時間を増幅できる、レーザービームの派生武器だ。操作性が悪いので、風間はあまり使わない。
「まっ、結果オーライっしょ」
「……あとで殴る」
二人の担当は二番目に怪物の多い四階だった。とはいえ、殲滅するわけではない。セキュリティの都合上、全ての教室には鍵がかかっているからだ。先日の一件以来、夜間の警備員がいなくなってしまったため、一時的な解錠もできないのだという。全ては学校側(主にPTA)の意向だ。反感を買うので、政府も逆らえなかったらしい。
無論、窓や扉が破られている場合は中に侵入した怪物を必ず倒すよう本部からも所長からも念を押されている。これもやっぱり、『あんたたちがちゃんとしないから云々』と、反感を買うからだ。こちらはSTKにとって死活問題である。
そんな事情など、彼らには知る由もなかったが。
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