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十章

その一 帰宅

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「無事なようで何よりだが、君は一旦帰った方がいい」
 迷いのない足取りで颯爽と現れた所長は、閉口一番そう言った。
 ひょっとして短気なんだろうか。
「え?」
「君は二日も家を空けているんだろう?」
「あ、……あぁ、そういうことですか」
 扉の向こうからこちらを見ていた本道さん達も、安心したように溜め息をつく。
「所長、こちらから事前に連絡を入れておきましょうか?」
 所長のそれほど広いわけでもない肩口から、ぬっと黒髪の女性が現れ、危うく心臓が止まりかけた。よくよくみるとそれは、いつぞやの黒縁眼鏡くろぶちめがねの女性だった。今は赤色みたいだけど。
「いや、いい。下手に政府のものだなんて名乗って、余計に混乱させるのも忍びないからな」
「なるほど、それもそうですね。――――何か?」
 うっかり見つめすぎてしまったらしい。黒縁眼鏡の女性が棘のある口調できっと睨みつけてくる。
「いっ、いえ、その、……すいません」
 向き合うだけでも恐ろしすぎるその鋭さに、そう返すだけで精一杯だった。
「京子君、馴染みのない人を片っ端から敵対視するのは止めたまえ。悪い癖だよ?」
「あっ、は、はい。申し訳ありません。つい、いつもの人見知りが……」
 黒縁眼鏡の女性――――京子さんは眼鏡を指先でくいと持ち上げて真顔に戻り、一瞬だけ所長の横顔に視線を泳がせると、はっと何かに気付いたように何も無い床に視線を落とした。……分かりやすい人だな。
「何をにやついているんです?」
「京子君」
「すいません、また人見知りが……」
 絶対違うと思う。
「まぁとにかく、君はまだ正式にSTKのメンバーになったわけじゃない。家族及びそれに準ずる保護者の承諾を得た上でなければそれは許されないんだ。わかるね?」
「は、はい」
 気張って張り上げたはずの声は、予想に反して酷く頼りないものだった。
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