英雄たちのその後は?

しゃもん

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第二章

12.欺瞞と勘違い

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「アンジェ。どうしたんだ。」
 ものすごい勢いで扉を開けたアンジェは慌てて立ち上がったセドリックにそのままの勢いで抱き着いた。
「セドリック、セドリック。お願い。メグなんかを愛妾にしないで・・・お願いよ。」
「アンジェ。」
 何を思ったかセドリックはそのままアンジェをギュッと抱きしめた。

 メグは彼らの背後でアンジェの”なんか”呼びに青筋を立てた。
 ”なんかっ”てなに!
 一方、執務室にいた文官たちの間には”またか”という空気が漂っていた。

「セドリック。」
 抱きしめられたアンジェはうるんだ瞳でセドリックを見つめた。
 二人の顔が近づいてギャラリーがいるにもかかわらずくっついた。

「あっ・・・ああーセドリック。」
「うっ・・・アンジェ。」

 何とも言えないピンクな空気に傍観していたホソイからボソリと独り言が放たれた。
「なんだかここでことに及びそうですね。」

 ちょっと待て。
 この人数のギャラリーがいるのにここで・・・見ている人がいるのに始めちゃうの・・・。

 なんとも言えない音が二人から聞こえてきてホソイのつぶやきを現実にしていく。
 いやここでホソイの呟き通りにされたらここまで必死に片づけてきた仕事の続きが出来なくなって半分に減った書類の山が元通りになってしまう。

 そっ・・・そんなことは許せない。

 メグは意を決して二人に犯罪者を拘束するための拘束魔法をかけた。

「メグ酷いわ。いくらセドリックが好きだからってやっていいことと悪いことがあるのよ。知っているわよね。」
 アンジェから飛び出した問題発言に思わず沈黙の魔法を彼女にかけた。

「おいメグ。早くこの魔法を解け。」
「ここでいちゃつかないと約束できるなら解除しないでもないです。」
 本当は永遠に二人にこの魔法をかけ続けてやりたい。

「いいだろう。約束する。」
 メグは嫌々ながら二人にかけた拘束魔法を解除した。
「さあアンジェ場所をかけよう。」
 セドリックはメグをぎろりと睨みつけてからアンジェを連れて執務室を出て行った。

 なんなのあの態度。
 誰のために仕事を片付けてあげていると思っているんだ!
 メグはセドリックが出て行った扉を苦々しい顔で見てからセドリックの部下である文官たちに振り向いた。
「でっいつもあの二人はどのくらいで戻って来るの?」
「セドリック様は一度執務室をアンジェ様と出て行ったときは戻ってきたことがありません。」
「戻って来ない!こんなに執務机に書類が山積みなのに。」
 文官たちは全員無言で頷いた。

 メグは彼らの頷きに額にもう一本青筋を立てた。
 いいわ。
 セドリック。
 そっちがその気なら私にも考えがある。

「ホソイ。執務机に箱を用意して頂戴。」
 ホソイはすぐにメグの考えたことを察して部屋を出ると数分で木箱を抱えて戻って来た。
「さあ文官たち、やるわよ。」
 メグは彼らを巻き込んでセドリックがサインだけすればいいように書類の山を仕分けながら執務机に置かれた木箱に片付けた書類を積んでいった。

 日が落ちると照明をつけていても書類の文字も読めないくらい暗くなってきた。
「メグ様。」
「そうね。書類ももうほとんど片付いたから帰りましょうかホソイ。」
 メグはホソイに声をかけた。
「メグ様。待ってください。私を置いていかないでください。」
 トリノは紅茶セットを片付けながらもすぐに帰ろうとしているメグの背中に呼びかけた。
「トリノは自分の恋人に送ってもらいなさい。」

「えっ・・・でも・・・。」
 トリノのカップを拭いている手が思わず止まった。
「問題あるかしら?」
「いえ、まったく問題ありません。僕がトリノを送っていきます。」
「えっいいの!」
「もちろん。」
「ありがとう。」

 メグは二人の世界に入っているトリノたちをその場に残してセドリックの執務室をホソイを連れて出た。
 ホソイは黙ってメグの背後からついてきた。
「ホソイ。すべての書類を片付けるのにあとどのくらい必要かしら。」
「そうですね。一週間でしょうか。ただし我々が抜ければまた元通りになりますよ。」

 そうなのだ。
 二人が抜ければまたあの執務室に書類の山が築かれるだろう。
 そうなると王妃からまた何らかの妨害工作が養父を通して降ってくる可能性がある。
 そこを一週間のうちに解決しないと・・・。

 一番手っ取り早いのは人員補充。
 本当はホソイを押し込みたいけど男娼担当に変更するって約束しているし、ホソイの情報網を手放すのはこれから養父と対決することを前提にすると不利になりすぎる。
 となると後は今いる文官たちの中に男性ではなく女性でも補充してアンジェが余計なことを考えたり出来ないように牽制材料になりえる人物を・・・。

 うーん。
 そんな都合がいい人間いたかしら。
 メグはホソイを伴って乗って来た馬車で揺られる間中そのことを考えていた。
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