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61.王宮での表彰式

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 花子はなこは抵抗すらできずに今現在鏡の前に座っていた。

 時間は午後二時。
 まだ城での表彰式には四時間以上余裕があるはずなのにフィーア曰く。
「お嬢様。普段何もなされていませんのでお仕度には時間がかかります。」
 そう告げられお風呂に入れられ絞り洗い、もみ洗い、叩き洗いをされた。
 そして現在ただいまアイロンならぬ魔法で熱せられ死亡ならぬ脂肪を揉まれている。

 ぐえっ!
 ぎぇっ!
 ごっ!

 よくわからない悲鳴を上げること数時間。

 なんとか意識を飛ばさずにドレスを着るところまでたどり着いたのが出発一時間前だった。

「お嬢様。これからお化粧をしますのでぐれぐれもクレグレも顔をごしごしなどされませんようにお願いします。」
 フィーアの笑顔での注意に花子はなこはコクコクと頷いた。

 コンコン。

 出発五分前。
 花子はなこはフィーアに今にもこけそうなピンヒールのパンプスをはかされツヴァイが贈ってくれたドレスを着て、息も絶え絶えの状態でマリアの前に立っていた。

「まあさすがフィーアね。よく似合っているわ。まるで別人みたいよ。」
 そりゃそうでしょうねぇ。
 なんだか顔に仮面をかぶっている感じがするくらい塗りたくられた気がするもの。
 笑うと剥がれそうとちょっと呟くとそれをフィーアに聞かれ、淑女は大声では決して笑ってはいけません。ですのでくれぐれもクレグレも大声で笑わないようにと厳重注意された。
 フィーアの笑顔がこ・・・こわかった。
 花子はなこは面が変わるくらい塗りたくられたがなんとか笑顔をつくってマリアに挨拶した。

「では楽しんできなさい。」

 花子はなこは二人に見送られ表彰式が行われる王宮に向かった。
 会場までは護衛としてムツキとキサラギ、それに珍しくセバスまでが一緒に来ていた。
 単なる表彰式なのになんだか大袈裟だなぁとこの時はのんびりしていたがその後起こった事件でこの三人がいて本当によかったと花子はなこは痛感するのだった。

 会場では何回もセキュリティ検査をされてからやっと表彰式となる会場に到着した。
 到着するとツヴァイに乗物からエスコートされ、背後にはムツキ・キサラギが張り付いた状態で控室に向かった。

 控室に着くまでなんども四人全員が周囲に視線ならぬ何かの気配探索をしていてかなり空気が重かった。
 なんとか控室についたところで花子はなこは最後に控室に入って来たキサラギになんでこんなに警戒しなければならにのか問いただしていた。
「ねえキサラギ。なんでそんなに警戒しているの?」
 キサラギは言いよどみながらも明確な理由を説明できないようだった。
 キサラギ曰く王宮に着いた瞬間からなにやら空気が重いらしい。

 さらにセバスにも聞くが今度は逆に何も感じませんかと真顔で尋ねられた。

 花子はなこは訝しみながらも自分で周囲に”探索”という漢字を描き、さらに”たんさく”というひらがなを重ね掛けして入念に魔力を通してからそれを飛ばしてみたがそれには何も引っかからなかった。

 後でこの時に八百万やおよろず神社で祖母の大海おおみに貰った和紙に先ほどの文字を書いてから魔法を通して飛ばせば良かったと後悔したのは表彰式で起こった事件の後だった。

 表彰式は結局花子はなこが探索魔法で何も感知できなったことを四人に話してからすぐに始まった。

「とにかく会場に行きましょう花子はなこ様。」
 ツヴァイが開始時間になったので花子をエスコートして歩き出した。

 ”花子はなこ様が何も感じられないとはいえ警戒するに越したことはない。”
 セバスはツヴァイが後ろを振り向いた瞬間に目線でそれを伝えた。
 ツヴァイは無言で頷いた。
 花子はなこだけがこの時ノー天気に何も考えずに会場に向かった。

 会場に入るとしばらくしてから会場の中心にある垂れ幕が引き上げられ花子はなこが新入生歓迎会で見たことがある第一王子と単位取得のため出席したときに挨拶した王と王妃が会場に入って来た。

 彼らは前回見た時とは違ってなんでか圧倒的なオーラを放っていた。
 特に王妃は前回見た時とは違っていてものすごく若く見えた。
 異常に若くなった王妃を見てるうちに王妃の姿は若く美しいものからなんでか人形めいた作り物のような人間ではないものを見ているような変な違和感が感じられた。

 なんでこんな感じがするの?

 花子はなこが首を捻ってみているうちにすぐに下位の受賞者から順に呼ばれ、王からは賞金を大学の学長から特別単位が記された証書が手渡され始めた。

 すぐに受賞した全員に賞金と証書が手渡され会場が拍手で沸き上がった直後にそれは現れた。

 会場の中央に緑色の唐草模様が描かれた布に包まれた大きな箱が忽然とそこに姿を現した。

 冷気がその箱から流れ周囲を埋め尽くした。

 全員がその場で凍り付く中その唐草模様を描かれた布は自然にほどけて床に落ちると四隅に赤黒い色の文字で”封印”と書かれたお札が張られた木箱が現れた。

 木箱の蓋は”封印”と書かれたお札を外そうとガタゴトと一人でに上下に動いた。

 だんだん箱が動くうちに札が一枚一枚ひらひらと床に剥がれ落ちていく。
 最後の一枚がはがれる瞬間、ここにいるはずのない人の声が響き渡った。

「縛!」
 声とともに白に朱色の巫女服を着た日ノ本にある八百万やおよろず神社にいるはずの祖母の大海おおみが片手に先ほどと同じ”封印”のお札を持って会場に現れた。

「お・・・おばあ様!」
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