おばさんですが何か?

しゃもん

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08.やらかしました。

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 部隊は王都を抜けるまではゆっくりだったがそこを抜けると速度を増して全員が全速で走り出した。
 うそでしょう。
 レイは焦りながらも彼らに置いて行かれないように前世で見た競馬の騎手の真似をして鞍から体を持ち上げた。
 馬の速度が上がる。

「なんだそれは?」
 隣にいたアランがレイの乗り方を見て叫んだ。
 しまったぁ。
 こっちではこんな乗り方しないのか。
 レイが後悔しているとそれを見たアランがレイの乗り方を真似て同じようにすると軍馬の速度がグンと上がった。
「ほう、これは凄いな。」
 レイをまねたアランを見て後ろからついて来た彼らの部下も次々に同じようにしている。
 いいんだろうか。
 なんだがカッコイイ軍隊が安上がりなインディアンのようになってしまっている。
 まあもうやっちゃったし、うん。見なかったことにしよう。
 アラン率いる部隊はそれからその格好で走り通常の半分の時間で砦に到着した。
 砦に到着して砦の中の広場で馬を止めたレイにアランが乗っていた軍馬を寄せ、自分の馬に彼女を抱き寄せた。
 そしていきなり唇を奪われた。
「ちょ・・・人前でなに・・・。」

 しばらく馬上で貪られていると砦にいた老兵士がアランに声を掛けてきた。
「アラン様!」
 アランは老兵士を睨むとぐったりしているレイを抱えたまま軍馬を降りた。
「なんだ?」
「一応ここは前線なのでそう言うことは違う場所でなさって下さい。」
「状況は?」
「あまり芳しくありません。」
 老兵士はそういうとアランを砦の作戦本部が置いている部屋に案内した。
 レイはアランから離れようとしたが彼はレイの腰を抱えたままそこに向かった。
 その部屋にはいると中央には大きな丸テーブルが置かれ、その上にはこの辺一帯を描いた大きな地図が広げられていた。
 地図の上には白黒の駒が置かれ町らしきものや山々も描かれており、敵の本拠地と思われる堅牢な城が数か所あった。
「これだけの数なのになんで手こずっている?」
「いきなり離れた所から遠隔で攻撃魔法が来ますので中々苦戦しております。」

 これはまたなんとも言えないわね。
 レイはその地図を見て溜息を吐いていた。
 見ると確かに敵の数はそれほどとは思えないが堅牢な城の位置がお互いを庇い合うように配置されているため、遠距離で攻撃魔法をかけられれば、お互いの城をお互いが守るようになってしまう。
 うーん。
 私ならこうするかな。
 思わず私は黒い駒を動かしてしまった。
「おい、何をしている。」
 老兵士に後ろから怒鳴られ、思わずビクッと肩を竦めるがそれを見ていたアランが面白い顔そうにレイが置いた駒配置を見ると呟いた。
「ほう、これはなかなか面白い作戦だな。だがこいつらを全員囮として使うなら死んでしまうぞ。」
 レイはそのアランの言いぐさにムッとして言い返していた。
「それは彼らが放つ魔法が直撃すればですよね。」
「ほう、直撃させない方法でもあるのか?」
 前は魔剣があったが今はもうあの試合で砕いてしまったためない。
 どうやってあの遠距離攻撃を防ぐのか。
「これを見る限り彼らが打ってくる攻撃魔法は雷に限定されているんじゃないですか?」
「ああ、確かに攻撃は雷魔法だけだ。」
 老兵士は頷いた。
「なら方法はあります。」
「ほう、では見せてもらおうか。」
 レイはアランが神殿から送られて来た剣と兵士が持っている盾を貸してほしいとお願いした。
「いいだろう。それでどこでそれを証明する気だ。」
「広場で遣ります。」
 レイはそういうと用意された剣を広場の中央に立て、それの周囲に兵士たちが普段持つ盾を等間隔に置いた。
 そしてその盾のひとつを材料にしてレイは細長い鉄線を作るとそれを剣に結び付けた。

 砦の兵士とアランが見守る中、周囲の人間に離れてもらうとレイは雷の魔法を唱えた。
「カミナリ。」
 レイの言葉に広場に轟音が轟き、盾に当たったカミナリが青白い光に覆われたかと思うと次に剣に着けられている鉄線を伝って光が剣に集まりそれが青白く光った。
 全員が見守る中レイは特大のカミナリを立て続けに7発も唱えた。
 さすがにちょっと息切れがした。
 レイが雷を唱え終えると辺りはシーンと静まり返ってしまった。
「すごいですね。俺らでもこれほどの轟音は聞いたことがない。」
 口々に囁く彼らの声に逆にレイの方が驚いた。
 えっ、でも今彼らはカミナリの魔法攻撃をうけ立っていってなかった?
 レイが疑問符を浮かべていると隣に来たアランが珍しく細く説明をしてくれた。
「レイ。奴らもカミナリの魔法を使うがもっと規模が小さいものだよ。」
「えっ、そうなの?」
「ああ、レイの魔法は本物のカミナリと同じだ。そんなものは今まで見たことも聞いたこともない。」

 うそでしょう!
 また私は余計なことをやらかしちゃったの?
 周囲の注目にどうやらまたやらかしたことは間違いないようだ。

「さすが俺のレイだな。」
 レイが広場で項垂れていると背後からアランが抱き付いて来た。

 おい、こっちは落ち込んでいるのになんで君は抱き付いて来るの?
「それでこれをどう使うんだ?」
 背後から抱き付かれたまま広場の中央に置かれた剣をアランは指差した。

 そうだった。今の衝撃ですっかり忘れていた。
 レイはアランに離れてくれるように頼むと剣を置いてある中央に向かった。
 盾に括りつけた鉄線を魔法で断ち切ると中央に刺しておいた剣を持ってアランの所に戻るとそれを彼に手渡した。

「これをどうしろと?」
「それを頭上に上げてみて。」
 アランはレイに言われるまま剣を掲げた。

 レイはその瞬間、また雷の魔法を唱えるとそれはアラン目がけて吸い込まれて行った。
 周囲が白い光に包まれ轟音が鳴り響いた。

「「「アラン様!」」」
 周囲にいた砦の兵士たちがアランに駆け寄る。

 アランは唖然とした状態で突っ立っていた。

「アラン様、大丈夫ですか。」
 アランのすぐ傍にいた老兵士がレイを突き飛ばすように横から駆けつけた。
 レイは老兵士に突き飛ばされてどさりと地面に尻もちをつくとアランがやっと正気に戻った。
「おい、爺。俺の嫁に何をする。」
「アラン様、お怪我は?」
「けが?別に何ともないが?」
「何とも・・・何ともないと?」

 レイは立ち上がって尻についた砂を払いながら説明した。
「それは神殿で創られた魔力を吸収する剣なのよ。だから最初にカミナリの魔力をかなりの量吸い取らせれば次からは何もしなくても剣の周囲に来た雷は自然と剣に吸収される。」

「なるほどだから今レイが放った雷は剣に吸収されたのか。」
 レイは素直に頷いた。
「これは雷の魔法を逆に放つことも出来るのか?」
「さすがに今くらいの魔力量じゃ無理だけど。もっと多量に雷の魔力を吸収すれば可能性はあると思う。」
「そうか。」
 アランはニヤリとしてまた頭上に剣を掲げた。

「これでさっき言った作戦が使える訳だな。」
 レイはコホンと咳払いしながらも頷いた。
「さすが俺の嫁だ。」
 最近なんだかそのフレーズばかりだけどいい加減飽きない。
 レイは剣を嬉しそうに見つめるアランを胡乱な顔で見ていた。
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