上 下
17 / 20

17.東西妖魔とおやじたち

しおりを挟む
 俺たちが爺さんの屋敷に戻ってくると、その建物から見知った人物が現れた。

「おまえ・・・。」
 爺さんがあんぐりと口を開けて馬上で固まった。

「父さん!」
 ミヤも同じように固まっている。

 な・・・なんで、シンイチ叔父さんがここにいるんだ?

「まあ、さすがね。もう討伐出来たのね。」
 そんな発言をしたミヤの祖母をシンイチ叔父さんが抱き上げて、馬から降ろした。

「もちろんです、アイリス。」
 嬉しそうなシンイチ叔父の声に爺さんが我に返ると慌てて馬から降りた。

 後ろにいた俺には、爺さんからの殺気がシンイチ叔父に向かって飛んでいた。

「おい、なんでお前がここにいるんだ?」

 爺さんの声をマルッと無視したシンイチ叔父さんは、ミヤの祖母をそのままギュッと抱きしめた。
「お怪我がないようで安心しました。」

「おい。いい加減にアイリスを離せ、伸一しんいち。」
 何時までもくっつている二人に爺さんの眉間にブチッという文字が浮かんだ。

 ミヤの祖母がシンイチ叔父さんに両腕を離してくれるように声をかけると、彼は抱擁を解いて彼女の腰に手を回した。

 シンイチ叔父さん、相変わらずだなぁー。

 何とも言えない空気の中をミヤの父は溜息を吐くと、シンイチ叔父さんに声をかけてくれた。
「伸一、取り敢えず屋敷に入らないか?」
 ミヤの父は率先して歩き出した。

「わかったよ。相変わらず細かいなぁ、ノブは。」

「お前はほんと昔っからアイリスさん以外は、なにも見えてないよな。」
 ボソリとミヤの父からそんな呟きが聞こえた。

 全員で屋敷に入ると、そこにはさらに守備隊の隊長と副隊長がなんでか俺たちを待っていた。

「あなたたちも来ていたの。」
 ミヤの祖母の呟きにシンイチ叔父さんが敏感に反応した。

「アイリス、追い出しましょうか?」
 シンイチ叔父さん、いつもながら反応がすごいなぁ。

 俺は思わずシンイチ叔父さんの一途な行動を眺め、それに対して彼の行動を見事にスルーしているミヤの祖母を見てある意味感心した。

 ミヤの祖母はシンイチ叔父さんの声に答えることなく応接間にいる全員に座るように言うと、白い杖を出して目の前に食事とお茶を出してくれた。

「とりあえず食べながら状況を説明して・・・。」

「アイリス、東はもう妖魔討伐は終わっています。」
 シンイチ叔父さんがミヤの祖母の視線を自分に戻そうと彼女の話を遮ると、見えない尻尾をぶんぶん振って、褒めて褒めてと彼女を見ている。

「まあ、さすがシンイチね。それで西は?」
 彼女はニッコリ笑ってシンイチ叔父さんを褒めると、すぐにミヤの父に視線を向けた。

 視線を向けられたミヤの父は、シンイチ叔父さんに睨まれながらもなんとか東の妖魔退治を終えたと説明した。

「ミヤ。」

 ミヤが祖母の問いかけに黒い杖を出し、俺を見た。

 はいはい。

 俺が通訳すればいいんだろう。

<洞窟はここからすぐ近くの”魔の森”に現れる。>

「洞窟はここからすぐ近くの”魔の森”に現れるって。」

「お前、杖の声が聴こえるのか?」
 爺さんがなんでか大慌てで聞いてきたので、俺は素直に頷いた。

「いつからだ?」

「えっと、そうだな。東の妖魔討伐前には聞こえるようになってたよ。」
 隊長たちとミヤの両親がいるのでソーセージが絡んだ件の説明が出ないようにそう答えた。

 そんな俺の説明を聞いた爺さんは、なんでか何かを考え込んだ。

 なんだ急に?

 なんかあるのか?

「そうか。」
 爺さんはしばらくするとポソリとそれだけ言うと、また黙り込んでしまった。

「何かあるのか?」
 俺は急に不安になって爺さんを問いただそうとした。

 するとミヤの祖母が見かねて説明してくれた。

「黒い杖の声が聞こえるということは、杖と繋がっているっていうことなのよ。」
 俺が不可解な顔でミヤの祖母を見た。

 なんだその繋がっているっていうのは?

「そうね。一番わかりやすいのは・・・今まで杖がミヤだけの魔力を貰っていたのだけど、杖があなたと繋がったのであなたの魔力も貰えるようになったというのが一つあるわね。」

「あれ、でも俺。それほど腹減らないけど。」

 そうだ。

 ミヤほど食べたいとは思っていない。

 まっ確かに以前よりは食べるようになったが、ミヤの異常な食事量に比べると普通だ。

「それは、たぶん魔力量はミヤの方が多いからでしょうね。でも、ミヤも以前ほど食べなくなっているんじゃないかしら?」
 ミヤの祖母の質問に彼女が素直に頷いていた。

「そう言えば、そうかも。」
 ミヤが肉に噛り付きながらそんなことを言った。

 ぜんぜん説得力がないな、今のその発言。

「そのうち食事量も以前に戻るわよ。」
 ミヤの祖母がそういいながらもホッとしたようで、肩の力を抜いていた。

「良かったわね、ミヤ。」
 そこに大盛りのちらし寿司を持った黒髪の女性が部屋に入って来た。

「おかあさん!なんでここにいるの?」

「そりゃ、信夫さんがいるからよ。」
 ミヤの母はそう言うともって来たちらし寿司をテーブルに置くと、それをミヤの父によそってあげた。

「ありがとう、莉愛りあ。」
 ミヤの母は嬉しそうに夫の隣に座ると、甲斐甲斐しく世話をする。

 その周囲にだけ大量のハートが飛び交っていた。

「でっ・・・守備隊の方は、どんな状態なのかしら?」
 ミヤの祖母が義娘が持ってきたちらし寿司を食べながら守備隊長と副隊長に顔を向けた。

「洞窟が出現次第、討伐にすぐ出発出来るように準備は終わっています。」
 隊長と副隊長もちらし寿司をてんこ盛りにした皿を顔の前まで持ち上げるとスプーンを使ってかき込むように、それを食べた。

 途中”美味い、うまい。”と二人とも連発していた。

「よし。じゃ残りは洞窟にいる妖魔だけね。」

「お義母さん。西の妖魔討伐が終わったんですから”ちらし寿司”を食べたら、私と信夫さんは帰りますからね。」

「おい、莉愛。まだミヤがこっちにいるんだ、私は帰らないぞ。」

「信夫さんは明日から出張でしよ。仕事どうするんですか?」

「いや、それならミヤだっ・・・。」

「あの子たちは学生で今は夏休みがあるんですから問題ないでしょ。あなたはそうはいかないじゃありませんか。」

 ミヤの母はそこまで言うと、ミヤの祖母を振り向いた。

「お・義・母か・あさ・ん。」
 一瞬、ミヤの祖母の肩がビクリと跳ねた。

 俺もその時のミヤの母の笑顔を見てしまい、思わず恐怖で心臓がはねた。

 こ・・・怖い。

「わ・・・かっているわ。食べ終わったらすぐに家に戻してあげますから。」

「ならシンイチも・・・。」
 爺さんの話は隣から割り込んだシンイチ叔父さんの声に遮られた。

「俺は帰りませんよ、アイリス。」
 シンイチ叔父さんはミヤの両親に俺達の面倒は自分が見るからとそう言うと、ニッコリと爺さんとミヤの祖母を見た。

 爺さんはイラついた顔でミヤの祖母は半分諦めたような顔で了承していた。

 まっ、俺も爺さんと二人よりシンイチ叔父さんがいる方がいいから爺さんの目線を無視して、シンイチ叔父さんがこっちにいるのに賛成した。

 俺達はそれからすぐに食事を終え、ミヤの両親を見送った。

 その後は隊長たちと洞窟が出現した時の討伐隊と俺達の連携の仕方を打ち合わせると、彼らも早々と屋敷を後にした。

「これで後は洞窟の出現を待つだけだな。」
 爺さんが考え深げな眼でミヤの祖母が出してくれた酒に口を付けた。

「そうね。もうすぐ決着をつけられるわ。」
 ミヤの祖母も酒が入ったグラスを持って窓辺に行くと、いつの間にか登っていた月を見ながらそれに口をつけた。

「アイリス、冷えますよ。」
 窓辺から部屋に入ってくる風がまだ少し冷たい。

 シンイチ叔父さんは自分が羽織っていた上着を脱ぐと、それを彼女の肩に掛けた。

「ありがとう。」
 ミヤの祖母の笑顔にシンイチ叔父さんの顔が真っ赤になった。

 それをソファーで見ていた爺さんが酒をグイッと煽ると、自分も窓辺に歩いていって二人の間に割り込むと、彼女がかけていた上着をグイッと脱がすと、自分が着ていた上着を脱いでそれを彼女の肩に掛けた。

「おい、何するんだ!」
 シンイチ叔父さんの手が爺さんの肩を掴んだ。

「ああぁ。お前こそ父親に逆らうなんて、百万年早いわ。お子様はもう寝ろ!」
 爺さんがシンイチ叔父さんの手を払いのけた。

「俺がお子様なら、あんたは今にも死にそうなクソ爺ぃだろ。アイリスに近寄るなよ。」

「はぁあ、俺とアイリスはお前が生まれる前からの知り合いだ。お前になにか言われる筋合いはない。」

「何を言ってるんだクソ爺。アイリスを裏切ったあんたの出る幕はもうないんだよ。」

「裏切ってなぞいない。」

「裏切ってるだろ。」
 二人はお互いの襟首を掴んで睨み合った。

「じゃあなんで姉さんの後に俺が生まれたんだ?」

「そ・・・それは・・・。」
 爺さんが口ごもった。

 パッタン。

 今まで窓辺でお酒を飲んでいたミヤの祖母が二人を止めようとしていた手を引っ込めると、シンイチ叔父さんが生まれた理由ウンヌンの所で部屋から出て行ってしまった。

「「アイリス。」」
 爺さんとシンイチ叔父さんはお互いの掴んでいた手を離すと、二人とも出て行ったミヤの祖母を追うように居間からいなくなった。

「寝るか。」
 俺とミヤも居なくなった三人を追うように、その部屋を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

処理中です...