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第二章 下界

28.禍々しい剣と第二王子

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 ドーナンは何度も医師が来るまで第一王子を揺さぶったが目を覚ますことはなかった。

「どうなされた?」
 近衛兵に呼ばれて宮廷医師が第一王子の寝室にやってきた。
「さきほどから何度も呼んでいるんですが目を覚まさないのだ。」
 ドーナンがベッドから下がると入れ替わりに宮廷医師が第一王子の手を取ると脈を診た。
 次に瞼を開けてそこに光を当て瞳孔の様子を観察する。
 さらに意識のない第一王子の口を開けて宮廷医師が持ってきた検査器具を当てるとしばらくして何かの反応があった。

「どうだ?」
 ドーナンはいてもたってもいられなかったがグッと我慢して宮廷医師の診察結果を待った。
 宮廷医師はドーナンに話しかけられてからしばらく検査器具の結果を眺め、おもむろに診察結果を口にした。
「寝ておられる。」

「はっ?」
 あまりに意外なことを言われて、もう一度聞き返してしまった。
「だから寝ておられるだけだ。」
「どういうことだ?」
「理由はわからないが深い眠りについておられるようだ。」
「どうすれば目覚めるんだ?」
「これが自然に起こっているならば疲れが取れれば目覚めるはずだが・・・。」
「自然ではない場合とはどういう状態を指している。」
 宮廷医師は問いかけてきたドーナンを逆に見返した。
「私は医師であって魔術は専門外じゃ。」
 ドーナンはハッとすると近づいて第一王子に探索魔法をかけた。
 途端。
 何かの術式が浮かび上がった。
 しかし一度も見たことがないような非常に複雑なものだったのでドーナンでもお手上げの状態だった。
「くそっ。なんて複雑な術式なんだ。」
「だがそれを解呪しない限りは目覚めんよ。」
 昔からドーナンを良く知る医師は彼の肩を叩いた。
「分かっています。」
 ドーナンはその場で近衛兵の二人と宮廷医師に第一王子は呪いではなく病気で療養中だと言い含めると解呪に向けて全力で取り組み始めた。

 昨晩、剣に魅入られた第二王子は欲望の赴くまま第一王子の寝所に向かった。
 寝室の扉の前に第二王子が立ってもなぜか近衛兵には彼の姿が見えないようで無反応だった。
 第二王子はそれをいいことにそのまま扉を開けると第一王子の寝室に入った。
 そこでは美しい愛妾が彼の腕の中でスヤスヤと眠っていた。

 くそっ、いつも、いつも、こいつは美味いことばかりして・・・。
 おのれ・・・。

 彼の欲望に呼応して剣から黒い靄が立ち上り第一王子を包み込んだ。
 その異様な気配に腕の中で寝ていた愛妾が目を覚ました。
 途端、悲鳴をあげようと口を開いた。
 うざいぞ、お前。
 第二王子の思いに反応して愛妾も黒い靄に包まれ、ぐったりとベッドに倒れ伏した。

 ざまぁみろ。
 第二王子はぐったりとした愛妾をベッドから抱え上げると第一王子の寝室を後にした。

 どこに行く、主よ。
 黒い靄を纏わせた剣から声がかかった。
 第二王子は面倒くさそうに剣を見つめた。
 お前が将軍を殺せと命じたんじゃないのか?

 確かにそうだ。
 なら国境沿いの砦を落とせばいい。
 そうそればすぐに将軍がやってくるさ。
 なるほどさすが主だ。
 すばらしい。
 剣の気配がさらに禍々しくなった頃第二王子は自国の警護任務に就いている兵士が駐留する砦に向かった。
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