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第二章 下界

21.暇つぶし

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 7階にある最上級の部屋に着くとそこまで案内してくれた金髪の熟女も一緒に部屋の中に入ってきた。
 彼女はクリスの腕を取ると巨乳をこすりつけるようにして部屋の設備を説明し始めた。
「こちらがシャワーとトイレですわ。」
 あん。
 この人顔も体も最高!
 それにさっき見たあの金貨の袋・・・もうたまんない。
 彼女はさらにクリスの腕にしな垂れかかりながらズボンの前に手を這わそうとした。
 クリスは彼女の手をスルリとかわした。

「おい、あそこに見える建物は?」
 ヒューが南側に建っている建物を見てクリスにしつこく迫っている金髪の熟女に問いかけた。
 彼女はチラッと窓を見ると邪魔されて不愉快な声でそれが軍の幹部が使っている建物だと教えてくれた。
「将軍たちもあそこに住んでいるのか?」
 ヒューは邪魔されて自分を睨んでいる女にさらに問いかけた。
「たぶん?将軍も副将軍もあの建屋で一番いい部屋を使ってるんじゃないの? 流石に私たち庶民じゃどの部屋かまでは知らないわ。」
 まったくこの男ったら、さっきから質問ばかりね。
 もしかして私に気があるの?

 ヒューは急にこちらを熱い目で見て来た金髪の熟女を無視すると思考を窓の外に向けた。
 庶民が軍の幹部の行動を知っているわけがないか。
 だがこれでやっとメリルが住んでいる建物の近くまで来れたんだ。
 今はまだこの砦に戻っていないがそう遠くないうちにあの建屋に戻ってくるだろう。
 そうなればすぐにでも会いに行ける。

 ヒューは考え深げに建物を見つめた。

 その後ろではクリスが金髪の熟女に触られまくってぐったりしていた。

 そこに食事を持った茶髪の熟女が現れた。
「お食事をお持ちしました。」
 部屋の中に美味しい匂いが漂ってくる。

 ヒューは食事を傍にあったテーブルに置いてもらうと給仕をしたがる茶髪の熟女を部屋の外に追い出した。
 クリスも何とか腕にしがみ付いている金髪の熟女を引き剥がすとそのまま外に放り出した。

 ヒューはそれをニヤニヤしながら眺めていた。
「何がそんなにおかしいんですか?」
 クリスは椅子に座って食事にしようとしていたヒューを睨み付けた。
「そこそこ好みなのにいいのか?」
「どういう意味ですか?」
「意味はないが昔ならすぐにベッドに押し倒しているのにと思っただけだ。」
「いつの話ですか。ジェシカに会ってからそんなことしてませんよ。それにもう彼女が手の届く所に来たかと思うとそんな気は起きません。」

「そうだな。二人が戻ったら夜這いにでも行くか?」
「それいいですね。あれくらいの建物なら楽勝ですよ。」
 クリスは目の前にある建物を見てそう呟いた。

 二人はテーブルに置かれた食事をあっという間に平らげるとシャワーを浴びてベッドに横になった。

 翌朝。
 二人は一階の大衆食堂で早々と食事を済ませると剣を持って試合会場に向かった。
 早朝だけあってまだ人がまばらにしかいない。

 二人は剣を構えると向かい合った。
「魔法はどうします?」
「流石にここを壊すと二人に怒られるからな剣だけにしよう。」
「そうですね。ジェシカの怒った顔も見てみたいけど、それはまた今度にしますか。」
 クリスは模擬刀ではなく刃が潰されていない真剣を構えた。

 二人は合図もなく突然打ち合いを始めた。
 物凄い速さと剣戟の音に周囲を歩いていた人間が立ち止って恐々と彼らを見て行く。

 数十分も打ち合うといつの間にか周囲には人だかりが出来ていた。
 かなりな人だかりになった所で唐突に彼らは剣を鞘に納めた。
「まっこの辺で終わりにするか。」
「そうですね。肩慣らしとしてはちょうどいいんじゃないですか。」
「さて汗もかいたしシャワーを浴びよう。」
 二人は周囲に集まっている見物人をまるっと無視すると昨日から泊まっている宿に戻ていった。
 その一部始終を観客に混じってじっと見ていた男が唖然として呟いた。
「今ので肩慣らしってあいつら何者なの?」
 女と見紛うほどの美しい面差しをした男は心底不思議そうに首を振った。

 二人が7階でシャワーを浴びてチケット売り場に行くと昨日と同じおっさんがチケットを売りさばいていた。
「やあ旦那方。昨日はどうでしたかい。」
 チケット売り場のおっさんはいやらしい顔で聞いてきた。

 その様子から何を考えているかはまるわかりだが、めんどくさそうなのでここは無視した。
「今日の対戦は何時からだ?」
 ヒューの問いかけにチケット売り場のおっさんはむすっとしながら、これから30分後だと教えてくれた。
「そうか。じゃあこれで買えるだけのチケットを頼む。」
 チケット売り場のおっさんの手がピタッと止まった。
「で・・・でも今日は昨日以上に強い相手が出てきますよ。」
 おっさんは唖然としながらも一応二人に注意した。
 ヒューとクリスは心配そうなチケット売り場のおっさんの心理とは逆に心底嬉しそうな顔で答えた。
「それこそ嬉しい悲鳴だね。」
 そして二人は自分たちのチケットを買い占めるとそのまま模擬刀を手に試合会場に向かった。

 どうやら今日は昨日以上に強い奴と対戦できるらしい。
 ヒューもクリスも勇んで試合会場に入った。
 まだ朝も早いせいか見物人もまばらであまりいなかった。
 二人は午前中に何人もの対戦相手を潰すと一端昼食を摂るためにチケット売り場の傍の食堂に戻ってきた。

 昼近くなって食堂はやっと人でごった返すようになった。

 昨日二人を案内した金髪の熟女がクリスを見つけて嬉しそうにまた腕にしな垂れかかると空いてる席に案内してくれた。
「こっちが空いてるわ。」
 そして何も言わなくてもすぐに酒が出てきた。
 試合会場が暑かったのでちょうど喉が渇いていた二人は遠慮なくそれをごくごくと飲み干した。
 クリスが酒を飲み干してグラスを置いた途端、隣に現れたごつい手の男が掴みかってきた。
 クリスはそれをベッタリとくっついていた金髪の熟女を庇うように押し退けると自分に伸ばされた腕をガシッと掴んだ。

 クリス様、素敵!
 金髪の熟女はさらに熱い目でクリスを見つめた。

「おい。てめえ何すやがる。」
 手を掴まれた男が金髪の熟女がクリスを憧憬の目で見上げるのに歯ぎしりしながら怒鳴った。
「くそっ離せ!」
 ごつい男は大声で叫びながら自分の手を引き抜こうと、さらに力を込めた。
 しかし、男がいくら力を入れようとクリスから手を引き抜くことが出来なかった。

「おいいいか。外に出ろ!」
 クリスから掴まれた腕を離せないまま巨漢男はその場で喚いた。
 だが態勢が態勢だけになんだかまったく迫力がなかった。

 クリスはヒューをチラッと見ると念をおした。
「俺の分を食べないで下さいよ。」
「誰が食べるか。」
 ヒューはそう言って傍にいた金髪の熟女にもう一杯酒を頼む。

 クリスは腕を掴んだ男と一緒に食堂から出て行った。
「あのークリス様は大丈夫でしょうか?」
 金髪の熟女が心配そうにヒューに問いかけてきた。
「数分もすれば戻ってくるさ。」
 ヒューがそう言い放った数分後。
 ちょうどクリスが頼んだ食事を心配顔をした金髪の熟女が運んできた所に彼が戻ってきた。

「早かったな。」
 ヒューがクリスの食事と一緒に運ばれてきた酒を飲み干すとクリスが不機嫌な顔で呟いた。
「あんだけ盛大なセリフを吐いていたのにメチャクチャ弱いんですよ、あいつ。詐欺だぁ。俺の期待をかえせぇー。」
 クリスはヒューの隣で喚いた。
 ヒューは喚くクリスをうんざり顔で見ながら事実を指摘した。
「冷めるぞ食事。」
「そうですね。」
 クリスは自分を助けてくれてありがとうと言いながら迫ってくる金髪の熟女を疲れた顔で引き剥がすと食事に手を付けた。

 二人はそんな感じで将軍と副将軍が戻るまで当分そこで過ごすつもりだった。
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