上 下
1 / 40
第一章 天上界

01.反乱

しおりを挟む
 どこまでも続く青い空を濡れ羽色に輝く翼を広げて、一人の女騎士が飛んでいた。

 その隣には淡い茶色に輝く翼をもった女騎士が付き従っていた。
「お待ち下さい、メリル様。」

 メリルと呼ばれた女騎士は端正な顔をチラリと従っている女に向けると労わるような声をかける。
「ジェシカ、無理をするな。魔法力がキレて飛べなくなるぞ。お前はここから砦に戻れ。まだ間に合う。」

「いやです。メリル様が行かれるなら私も一緒に行きます。」
 メリルは仕方なくジェシカに手を差し出した。

「メリル様?」
「私が魔力で補助するからこの手を取れ。だが言っておくぞ。着いたらもう庇ってはやれない。」
 ジェシカは今にも泣きそうな顔をメリルに向けた。

 メリルはそんなジェシカに笑いかける。
「向こうに着いたら私の背中を守ってくれ。」

 メリルのその言葉にジェシカは嬉しそうな顔で答えた。
「もちろんです。」

 二人の女騎士はそのまま猛スピードで黒い森に向かった。


 事件は数時間前に起こった。

 王宮で警護に当たっていた部下の一人が”第三王女が反乱”の報を持って、守備隊に駈け込んできたのだ。
「大変です。王宮に第三王女が指揮する反乱軍が雪崩れ込んできました。」
 メリルは傍らの剣を取ると副隊長のジェシカに頷く。

 ジェシカは隊員を引き連れてメリルの後をついてきた。
「敵は王宮の南側より侵入。現在、王宮の南の守備隊と広間にて交戦中です。」

「ジェシカ、お前は北門より出て敵の背後に回れ。後のものは私に続けぇー。」
 メリルは隊の三分の一を引き付けて広間に向かった。

 第三王女の姿が見える。

 メリルは反乱兵を一太刀で斬り伏せながら王女に向かった。
「なんでこんな事を?」

 第三王女はメリルを見て剣を握り直すと、逆にメリルを説き伏せにかかる。
「メリル。私の配下になりなさい。そうすれば私はお前を今以上の地位につけてあげる。」
 第三王女はそう言いながらメリルに剣を振り下ろした。

「王女、私は今のままで十分です。」
 第三王女の剣を受けながらメリルは答えた。

「今のままで行くと、いつかあなたは私のようにアンに全てを奪われるわよ。よく考えなさい!」
 今のはどういう意味なんだろう。
 メリルはそう思ったがその考えは次の一言に塗りつぶされた。

「隊長、大変です。黒の森に竜が現れました。街に向かっています。」
 それは第三王女の反乱以上に危険な報告だった。

 メリルはイッキに魔力を膨らませて、王宮にいる反乱軍に魔力を放つと敵を一掃する。

 すぐに北門から回って、背後から反乱軍を制圧したジェシカと合流した。
「ジェシカ、ここの収拾はお前に任す。」

「メリル様はどちらに?」
「私は黒の森に現れた竜を何とかする。」

 ジェシカの目が丸くなった。
「なんで急に竜が現れるんですか?」

「理由はわからないが放っておくと街が全滅する。行くしかない。」
 メリルはそう言うと王宮を濡れ羽色に輝く翼を広げて、飛び立った。

「待って下さい、メリル様。私も行きます。後は頼む。」
 ジェシカは隣の部下に後始末を押し付けるとメリルの後を追った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!

水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。 シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。 緊張しながら迎えた謁見の日。 シエルから言われた。 「俺がお前を愛することはない」 ああ、そうですか。 結構です。 白い結婚大歓迎! 私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。 私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

処理中です...