421 / 559
雪の降らない日々
おとーさんと、いち
しおりを挟む
叔父と共に怪異討伐の仕事をした翌朝、雪風からメールがあった。どうやら昨日の一件を聞いて俺に会いたくなったらしい、祖父には既に話を通して車も用意してくれているようなので、俺は朝食を食べた後すぐに雪風が居る会社へ向かった。
「相変わらずの厳重さだな……」
地下深くに置かれた社長室と地上を繋いでいるだけのエレベーターに乗り、長い移動時間の暇を潰すように呟いた。
昨日、仕事のすり替えによって命を狙われたのは叔父なのだろうか。いや、叔父は一般の住宅街で普通に暮らしているのだから殺そうと思えばいつでも殺せるはず、自分のパソコンを使ってアクセスしていただろう祖父の命を狙ったのだろうか。
どちらにせよ雪風も狙われがちな身の上であることは間違いないのだから、知った当初は大袈裟とも思えた地下深くの社長室を非難する気はもうないな……なんて考えているうちに到着した。
「ゆっきかぜ~、ひーくん来ちゃったぞー……?」
扉を開けて満面の笑みを作ってみたものの、雪風は居ない。座面はひんやり冷たい黒革が張られたソファ、片付けられた上等な木製の作業机、電源が入っていないパソコン……俺は社長室に隣接した寝室に入った。
「……雪風?」
大きなベッドに座った雪風はボーッと虚空を見つめていたが、声をかけるとふにゃりと笑った。
「真尋ぉ、もう来たのか……早いな。ふわ……やばい、寝ぼけてた……」
下半身はまだ毛布にすっぽり包まれている。
「眠いのか? ちゃんと寝てるんだろうな。ったく、割とホワイト企業のくせに社長のお前だけブラックな勤務しやがって」
ベッドに腰掛けて頬を撫でると雪風は俺の手に擦り寄り、嬉しそうに微笑む。
「……クソ兄貴と仕事頑張ったんだってな」
「あぁ」
「怪我したんだって?」
「治してもらったよ」
すっかり目を覚ました様子の雪風は「そういう問題じゃない」と俺の額を指で弾いた。
「まぁ、今回は親父が詐欺に引っかかったのが悪かったっぽいからな。お前に無茶なことすんなとか言っても仕方ない。無茶しなきゃいけない状況だったんだろ? 頑張ったな、真尋」
主人である雪兎とは違い、雪風は対等な恋人だ。しかし縮めようのない歳の差が、義父と養子という関係性が、子供にするような褒め方を産む。
「……なぁ、今回命狙われたのっておじい様かな、雪凪じゃないよな」
「命狙うってほどの怪異じゃねぇだろ。クソ兄貴が結界真面目に作ったり、手巻きタバコ人数分持ってりゃどうにかなったはずだ。だからまぁ多分、嫌がらせだな。ジャブとも言う……かもな」
共に死線を超えて浅くなった気がしていた叔父との溝が深まった気がする。
「……そういえばさ、雪凪が追放されてるのって目が片方青いからなんだよな? 雪兎ちょっと目紫っぽいけど……若神子的には大丈夫なのか?」
「兄貴が家追い出されたのは金の使い込みとか麻薬作りとか俺への虐待とか単純に無能とかそういうのの積み重ねで、霊力がちょっと弱めなのはあんまり関係ねぇぞ。目がどうこうってのは会社を引っ張る力には関係ねぇからな、親父は最初兄貴に表家業を任せて俺は裏稼業専門にするつもりだったらしい」
叔父に同情したのが馬鹿らしくなってきた。
「そ、れ、よ、りぃ……そんな話しに来たんじゃないだろ真尋ぉ」
甘えるような声を出した雪風は毛布を蹴り飛ばし、スラリと長い生脚を晒した。どうやら下半身には下着以外の布をまとっていないらしい。
「今日は会議とかの仕事入れてねぇんだ。分かるだろ? 真尋ぉ」
「……あぁ」
くねくねと俺を誘った雪風の案外としっかりした肩を抱いて唇を重ねる。舌を絡めながら太腿を撫でると雪風の手は俺の股間をズボンの上からさすった。
「相変わらずの厳重さだな……」
地下深くに置かれた社長室と地上を繋いでいるだけのエレベーターに乗り、長い移動時間の暇を潰すように呟いた。
昨日、仕事のすり替えによって命を狙われたのは叔父なのだろうか。いや、叔父は一般の住宅街で普通に暮らしているのだから殺そうと思えばいつでも殺せるはず、自分のパソコンを使ってアクセスしていただろう祖父の命を狙ったのだろうか。
どちらにせよ雪風も狙われがちな身の上であることは間違いないのだから、知った当初は大袈裟とも思えた地下深くの社長室を非難する気はもうないな……なんて考えているうちに到着した。
「ゆっきかぜ~、ひーくん来ちゃったぞー……?」
扉を開けて満面の笑みを作ってみたものの、雪風は居ない。座面はひんやり冷たい黒革が張られたソファ、片付けられた上等な木製の作業机、電源が入っていないパソコン……俺は社長室に隣接した寝室に入った。
「……雪風?」
大きなベッドに座った雪風はボーッと虚空を見つめていたが、声をかけるとふにゃりと笑った。
「真尋ぉ、もう来たのか……早いな。ふわ……やばい、寝ぼけてた……」
下半身はまだ毛布にすっぽり包まれている。
「眠いのか? ちゃんと寝てるんだろうな。ったく、割とホワイト企業のくせに社長のお前だけブラックな勤務しやがって」
ベッドに腰掛けて頬を撫でると雪風は俺の手に擦り寄り、嬉しそうに微笑む。
「……クソ兄貴と仕事頑張ったんだってな」
「あぁ」
「怪我したんだって?」
「治してもらったよ」
すっかり目を覚ました様子の雪風は「そういう問題じゃない」と俺の額を指で弾いた。
「まぁ、今回は親父が詐欺に引っかかったのが悪かったっぽいからな。お前に無茶なことすんなとか言っても仕方ない。無茶しなきゃいけない状況だったんだろ? 頑張ったな、真尋」
主人である雪兎とは違い、雪風は対等な恋人だ。しかし縮めようのない歳の差が、義父と養子という関係性が、子供にするような褒め方を産む。
「……なぁ、今回命狙われたのっておじい様かな、雪凪じゃないよな」
「命狙うってほどの怪異じゃねぇだろ。クソ兄貴が結界真面目に作ったり、手巻きタバコ人数分持ってりゃどうにかなったはずだ。だからまぁ多分、嫌がらせだな。ジャブとも言う……かもな」
共に死線を超えて浅くなった気がしていた叔父との溝が深まった気がする。
「……そういえばさ、雪凪が追放されてるのって目が片方青いからなんだよな? 雪兎ちょっと目紫っぽいけど……若神子的には大丈夫なのか?」
「兄貴が家追い出されたのは金の使い込みとか麻薬作りとか俺への虐待とか単純に無能とかそういうのの積み重ねで、霊力がちょっと弱めなのはあんまり関係ねぇぞ。目がどうこうってのは会社を引っ張る力には関係ねぇからな、親父は最初兄貴に表家業を任せて俺は裏稼業専門にするつもりだったらしい」
叔父に同情したのが馬鹿らしくなってきた。
「そ、れ、よ、りぃ……そんな話しに来たんじゃないだろ真尋ぉ」
甘えるような声を出した雪風は毛布を蹴り飛ばし、スラリと長い生脚を晒した。どうやら下半身には下着以外の布をまとっていないらしい。
「今日は会議とかの仕事入れてねぇんだ。分かるだろ? 真尋ぉ」
「……あぁ」
くねくねと俺を誘った雪風の案外としっかりした肩を抱いて唇を重ねる。舌を絡めながら太腿を撫でると雪風の手は俺の股間をズボンの上からさすった。
0
お気に入りに追加
654
あなたにおすすめの小説
【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される
鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。
レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。
社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。
そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。
レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。
R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。
ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。
義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。
アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。
捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!!
承諾してしまった真名に
「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。
タタラン王国の悲劇 〜お国全員淫乱プロジェクトby魔国〜
かいじゅ
BL
初異世界BLです。
これまた催淫師や魔族たちによって、健全な方がどんどん堕ちます笑
相変わらず露骨なので、苦手な方は速やかに避難を…!
文量が少なめスタートですが、リハビリ用なのでご容赦ください。
【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで
あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。
連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。
ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。
IF(7話)は本編からの派生。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる