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お盆

おはかまいり、さん

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謎の儀式が終わると雪兎は俺の手を引いて雪風達に続き、広い畳張りの部屋に連れて行った。部屋に全員が入り終わるまで終始無言で、異様な雰囲気が続いていた。

「なんでお前に運ばれなきゃならないんだ」

「流石に畳に車椅子はダメだろ」

最初に言葉を発したのは祖父だ。曽祖父の恋人である秋夜に抱えられ、不愉快そうに顔を顰めている。

「お父さんがいい?」

曽祖父が腕を広げると舌打ちをして顔を逸らした。見た目の若さのせいで反抗期の子供と歳の離れた兄に見えるが、六十代と八十代の親子である。脳がバグる。

「おい雪風、飯持ってこい」

今気付いたが、ここには使用人は来ていないようだ。車で待っているのだろうか、一旦帰ったのだろうか。

「なんで俺が……」

「雪兎はまだ子供だし、雪也はここに来るのは初めてだ。となるとお前が一番歳下だろ」

「ここで食事するんですか?」

「一晩泊まるんだ。雪風から聞いてないのか? 説明しておけと言ったろ」

用事を言い付けられたり叱られたりで雪風はすっかり臍を曲げてしまった。しかし祖父の命令を聞く気はあるようで、部屋を出ようと襖を開けた。

「雪風、俺も行くよ」

「あー、いいいい。お前はここで親父とユキの我儘聞いてやれ」

襖がピシャリと閉じると雪兎は俺を見上げて言った。

「……僕ワガママ言わないよね?」

「ええ、ユキ様。我儘というのは自分の都合だけを考える身勝手な様を意味する言葉ですから。ユキ様の都合は最優先事項、ユキ様の勝手はこの世の道理。ユキ様の辞書に我儘という言葉は存在しません」

「…………うん」

「ドン引きしないでください。ユキ様は人のことを考えてくださる優しいいい子ですから、我儘なんてありえませんよ」

屈んで見上げながら言うと雪兎は柔らかい微笑みを見せた。

「雪也、座布団頼む。そこの押し入れの下の段だ」

「はい!」

今この場に居ない雪風も含め、全員分の座布団を用意した。祖父のものは座椅子だ。

「ユキ様、座布団は何段積みます?」

「一枚でいいよ……」

しばらく待つと雪風が襖を足で開けた。その両手は見た目からして豪華な重箱で塞がっている。昨日のうちに運び込んでおいたものらしい。

「ったく、ここも冷暗所みたいなもんなんだから押し入れにでも突っ込んどけばいいのに」

「雪風、お疲れ様」

「ユキぃ……! どうしたんだよ珍しいなぁ」

受け取った重箱を机に広げるのは俺の仕事だ。しかしどうにも何事にも集中出来ない、奇妙で不気味な状況のせいだろうか。

「真尋、ちょっと」

食事にしようかというタイミングで雪風に声をかけられ、部屋から連れ出された。あまり食欲がなかったのでちょうどいい。

「何?」

「ゃ、その……説明忘れててごめんな」

「別にいいけど……何かするのか?」

「いや、ここで一晩過ごしたら終わりだ。ここには別に変なもんも来ねぇと思う」

「……墓参りは?」

墓に手を合わせるどころか墓を見てすらいない。

「ん、あぁ……若神子一族の墓はあの裏庭だ。一般的な火葬よりも高音で長時間焼いて、骨を砕いて粉にしてあそこに撒く。いつからかなのかもなんでそんなことしてんのかも知らねぇけど、昔っからそうらしい」

「そう……なん、だ」

墓石を想像していたので不思議な感覚だが、土着の信仰や宗教と思えば別に忌避感はない。

「…………俺もいつか、ここに?」

「……いや、若神子の血が入ってねぇヤツは別。裏庭に普通に埋葬される」

「そっか……残念だな」

俺は雪風とも雪兎とも一緒に眠れないのか。そう意識してしまうと寂しさが込み上げてきた。

「縁切って苗字を捨てた雪凪ですら、死ねばここに撒かれる。面倒臭ぇし気持ち悪ぃ、意味分かんねぇ習わしだよな」

「……そんな言い方やめろよ、御先祖様が居るんだろ」

「真尋ぉ、俺が死んだらこんなとこに撒かずにさ、お前どうにかしてくれよ。元気なら食ってくれ。お前も死にそうなら一緒に海にでも飛び込んでくれよ」

「………………考えとく」

雪風は風習や慣習を嫌うタイプなのだろう。雪風が今言った望みをその時の俺に叶えられるかどうかは分からないが、記憶には残しておこう。
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