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お盆

おかえりなさい、じゅうご

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キッチンの掃除を終えて、麦茶を一杯飲んで小休止。夕飯の時間までにはまだまだある、従弟の寝顔でも拝むか、雪兎に電話でもかけてみるか──なんて考えながらとりあえず従弟の部屋へ戻った。

「ただいまー……っと」

小声で挨拶しつつ部屋に入ると、すすり泣く声が聞こえてきた。

「國行……? 國行、どうしたんだ?」

従弟が頭から毛布を被って泣いている。毛布を剥がすのはもう少し様子を見てからだと判断し、まず声をかける。

「…………にいちゃん? にいちゃんっ……!」

毛布を跳ね除けた従弟は俺に抱きついてわんわんと泣き始める。泣きながら呟いた聞き取りにくい言葉を繋げて考えてみたところ、目が覚めた時に俺が居なかったから黙って去ってしまったのだと思って悲しかった……といった具合だった。

「ごめんごめん、ちょっと掃除してたんだよ」

「……置いてかないで」

「置いてってない置いてってない。今日はお兄ちゃんがご飯作ってやろうと思ってな、その準備してたんだ」

「…………にいちゃんが?」

この家に引き取られていた頃、俺は一人では何も出来なくなっていた。部屋の隅に蹲って、食事も着替えも自発的には行わなかった。そんな俺が元気に振る舞っているのは不思議なのだろう、従弟は目をぱちくりさせている。

「ふふっ……國行、お前可愛いなぁー、しんけんえらしい! えらしいわぁ!」

俺と同じ三白眼なのに可愛すぎるのは子供だからなのか? 頬擦りをしてやると子供特有の柔らかくすべすべとした頬の感触が伝わり、俺は声にならない声を上げた。

「はぁあー……! えらしい子ぉ……俺ん國行しんけんえらしい……」

普通の小学生男子なら過剰なスキンシップを嫌って暴言を吐いたり逃げ出したりするだろうに、従弟は大人しくスキンシップを受け入れている。

「……にいちゃん」

「ん?」

「…………にいちゃん、初めて会った時から、ずっと……おれのこと守ってくれた」

「お兄ちゃんはムカつくと脊椎で動いちゃうだけだぞ」

「……にいちゃん、だいすき」

表情筋の動きが鈍い従弟の精一杯の微笑みは、子供らしくはなかったがとても可愛らしいものだった。

「國行ぃ! お兄ちゃん超嬉しいぞ~!」

「…………にいちゃんと一緒に暮らせるの、うれしかった」

俺の両親が死んだ後のことか。人が死んでいるのに嬉しいだなんて、やはり俺がこの家に引き取られた理由はよく理解していないんだな。

「……でも、にいちゃん元気なくて、動かなくて……心配だった。ちょっと動くようになってきたら、おとーさんが売って…………悲しかった。おかーさんと一緒で、もう二度とにいちゃんには会えないって思ってた」

嬉しさを表現したいのだとは思うが、怪我をしている手でしがみつくのは心配で、ついついシャツを掴む手を剥がしてしまう。

「…………おれのすきな人、みんないなくなる……でも、にいちゃん元気になって、帰ってきてくれた……にいちゃん」

小学生の子供にこんなことを言わせるなんて間違っている。そうは思っても、間違いを正す方法は思い付かない。

「………………おかえりなさい、にいちゃん」

「ただいま……ふふっ、何回言うんだよ、それ」

小さな背中を撫でてふと思う。従弟の着ている服はヨレヨレで毛玉だらけだ、きっと成長が遅いのをいいことに叔父が新しい服を買っていないのだろう……と。

「なぁ國行、明日は学校ないよな?」

「……うん。登校日、しばらくない」

「じゃあさ國行、明日お兄ちゃんと買い物行こうぜ。服とか色々買ってやるよ、欲しいもんあったら何でも言いな」

「…………うん」

従弟は小指を顔の前に突き出してきた。求めを察し、指切りをしてやる。

「……にーちゃん、またここ住むの?」

「いや、盆休みもらってお前の様子見に来ただけだ。またすぐ帰ることになるな」

表情に乏しい子だが、残念そうな顔をしていると俺には分かる。別に悪いことをした訳ではないはずなのに罪悪感が膨らんだ。

「…………いつまで居るの?」

「んー……要相談だな。明日までは確実に居るぞ。じゃ、お兄ちゃんご飯作ってくるから」

従弟を下ろしてキッチンに向かうとぽてぽてと後を着いてきた。キッチンに到着すると立ち止まった俺の足に抱きつき、俺の顔を真っ直ぐに見上げてくる。

「國行……お兄ちゃん包丁持ったり火使ったりして危ないから、そこダメだぞ」

素直に頷いた従弟は俺の背後に回り、俺の尻に顔をうずめた。

「國行ぃ……」

以前はここまで甘えん坊じゃなかったのになとため息をつきながら腰にしがみつく従弟の手に手を重ね、軽く撫でた。
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