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夏休み

はだかえぷろん、じゅう

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フランスパンをパン切り包丁で切る、柔らかい石を切っているような独特の感触が楽しい。
刺身包丁で鮭を切る、名刀で罪人の首を刎ねるように抵抗なく切れて楽しい。
野菜に取り掛かったところでポンと機械音。

「……撮らないでって言ったじゃないですか」

「だってー、裸エプロンのポチが料理してるなんてレアなんだもん」

「言いつけてくださるなら、いつでもしますよ」

「スマホでもダメ?」

デジカメには拒否反応を示してしまったけれど、スマホなら何ともない。なるほど、今までカメラを起因としたフラッシュバックに気付けなかった原因はこれか。

「構いませんよ」

スマホは平気だと分かれば調理中に記憶がぐちゃぐちゃになる心配はない。何を覚えていて何を忘れていて、どのタイミングで思い出しては忘れているのか、自分では全く分からない。怖い。

「手際いいね」

「そうですか? ありがとうございます」

パンを焼いて、ソースを作って、カルパッチョの盛り付けをして、ソースをかける。焼けたパンを皿に並べ、温めたオリーブオイルを皿に注ぐ。
思考は料理を効率的にする程度でいい。

「完成しましたよ」

「……本見てなかったね、カルパッチョ知らないんじゃなかったの?」

「さっき読んだんだから覚えてますよ」

動画撮影を終えた雪兎にも皿運びを手伝ってもらい、二人でダイニングでの食事を始めた。

「……お尻、素肌のまま椅子に座るって……なかなか、ですね」

「冷たい?」

「それもありますし、普段と違う感じが……全裸ならまだしも、裸エプロンなんて初めてですから」

床に四つん這いでないのも珍しい。そう言ったら四つん這いにさせられそうだから、気付けなかったフリをしておこう。初めての雪兎への手料理だ、彼の顔は真正面から見ていたい。

「見てる分には最高だよ」

ドSアルビノ美少年の裸エプロンならまだしも、筋肉質な褐色の男の裸エプロンを喜ぶなんて、やはり雪兎の趣味は変わっている。

「……あの、美味しいですか?」

雪兎は何も言わずにもぐもぐと頬を膨らませていた。催促するのは嫌だったが、味を早く聞かないと不安で自分の食事の味が分からなかった。

「ん? うん、美味しいよ。ポチってば料理上手いね」

「…………ありがとうございます!」

俺はホッと胸を撫で下ろし、お褒めの言葉への礼を叫んだ。ようやく料理の味が分かった。

「パンも野菜も魚も、僕の口にぴったりのサイズだよ。どんなシェフでも普通はこんな小さく切らないよ? 僕のサイズにしてくれたの? それとも偶然?」

「故意ですね、ユキ様のお口のサイズは舌で覚えていますから簡単です」

「ふふふっ……そっか、いっぱいちゅーしてるもんね。覚えてくれてるのも、気遣いも嬉しいなぁ。晩御飯も作ってもらおうかなー?」

「ユキ様ったら……夕飯はフライなんていかがですか?」

裸エプロンのまま揚げ物をして跳ねた油に痛めつけられたい欲求が抑え切れず、また提案してみる。
しかし雪兎が自分以外が俺に痛みを与えるなんて許すわけもなく、雪兎のために作るのだから雪兎に痛めつけられているのと同じだという俺の意見にも聞く耳を持たず、夕飯の献立は宙に浮いたままとなった。
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