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夏休み

ゆうかい? きゅう

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目を覚ますと身体はさっぱりとしていた。目隠しも拘束も外されており、身体の節々が痛い以外に不調はない。

「……ひゔっ!?」

起き上がろうとすると後孔に挿入されている異物に気付いた。硬いそれは短いが歪で、フックのように前立腺をえぐっている。

「……っ、ぅ……あ? 尻尾……?」

尻に手をやるとふさささとした毛に触れた。快感に耐えながら起き上がってみれば、黒い犬の尾が後孔に挿入された玩具から生えている。

「ん、頭……首輪、も……」

頭の異物感に手を向かわせればイヌミミ付きのカチューシャが、首の圧迫感に気をやれば首輪があった。それ以外に俺の身体に着けられたものはない。

「…………犬、だ。ポチだ……俺…………ここどこ?」

邸宅ほどではないが、大きなベッドだ。天蓋もある。それなりに広い室内には本棚や机、高級そうなパソコンなどなど──

「俺、さっきまで……何…………あっ、ユキ様!」

ベッドの上に放置されていた鞭を見て雪兎だろう人物に犯され、三発の中出しの後に首を絞められて気を失ったことを思い出した。

「ユキ様、ユキ様……? 居ない……?」

首輪に紐は付いていない。ベッドから降りて部屋を探索しようとするが、フックのような玩具は足を動かす度に前立腺にくい込む。

「……っ、ん……ぅあっ、ぁ……はぁっ……」

きゅうきゅうと締め付けてしまって尻尾飾りが揺れ、太腿の裏がくすぐったい。雪兎探しには不適応だが、雪兎が挿入したかもしれないものを抜く発想は俺にはない。

「ユキ様、ユキ様ぁ……ユキ様、どこ……? ユキ様、ユキ様ぁっ! 居ないんですか、ユキ様! ユキ様ぁ……」

腸壁に残った掘削の余韻は雪兎に抱かれたことを証明してくれているけれど、彼の姿を見ていない。誘拐犯は声帯と陰茎が雪兎と同じだけの他人という選択肢は消えない。
雪風と雪凪は声は同じだ、俺の本能的なものを抜きにすれば髪と虹彩の色でしか判別出来ない。俺の本能的なものがさっき俺を抱いたのは雪兎だと告げているが、本能なんて信用出来ない。

「ユキ様じゃ……なかった? そんな、そんなのやだ、ちがう、ユキ様、あれはユキ様だ……」

──雪風と違って雪兎に兄弟なんていない。
──じゃあなんで雪兎が見つからないの?
二つの言葉が浮かんで俺はその場に座り込んだ。

「はーっ、さっぱりした……あ、ポチ起きた? おはよう」

首にタオルをかけた部屋着の雪兎が戻ってきた。

「あれ、泣いてるの? なんで?」

「ゆき、さま……? ゆきさま、ユキさま、ユキ様、ユキ様ぁあっ!」

「わ……どうしたの?」

細い身体に腕を回し、ふにっ……と柔らかい腹に頭を擦り付ける。

「こわかったんですっ、ユキ様いないからっ、一人でこわかったぁっ……! ユキ様、ユキ様じゃないのかもって、絶対ユキ様だと思ってたけどでもっ、顔見てなかったから絶対じゃなくて、ユキ様、ユキ様、ユキ様っ」

「落ち着いて、ポチ」

「……はい」

「うん、いいこいいこ。一人にしてごめんね。寂しかったね。僕もずーっと一人で寂しかったよ……」

細い腕は緩く頭に絡み、わしゃわしゃと撫で回してくれる。犬にするようなその撫で方が嬉しい。

「……ポチ、ここがどこかも分かんないし、どうして僕と会えてるかも分かってないよね?」

「はい……」

「でも、僕に会えたの嬉しいんだね。前足で器用に抱きついてきて……ふふ、可愛い」

拳を緩く握って犬らしくする。しかし、久しぶりの雪兎を抱き締める腕までは犬らしい形にはしたくなかった。

「……全部、説明してあげるね」

「いえ、必要ありません」

「え……? どうして?」

「ご主人様を煩わせるわけにはいきません。俺はユキ様に会えただけで嬉しいです。ユキ様が思うままに愛玩してくだされば幸せです」

雪兎の目を真っ直ぐに見上げて忠誠心を示し、これは喜んでもらえるなと内心ガッツポーズ。そんな俺に与えられたのは頬への平手打ちだった。

「……君さ、今……僕が煩わしく思うかどうかを勝手に決めたよね? 飼い主の感情をペットが決めていいのかな」

困惑する俺を見下げる雪兎の顔は心底愉しげで、俺の忠誠心は喜んでもらえたのだと嬉しく思い、笑顔を返してもう一発の平手打ちをもらった。
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