上 下
144 / 559
使用人体験

うらのおしごと、じゅうよん

しおりを挟む
怪異関連の仕事をするらしい日の前日、立てなくなるまでヤった日の翌日、つまり今日。雪風はノートパソコンを弄っていた。

「……雪風、仕事か?」

「ぉん、裏のお仕事を明日に変えたからな、色んなとこに連絡しなきゃなんねぇ」

「ごめん……ワガママ言って。あのさ、俺が再来月は都合悪いってどういう意味だ? 俺は毎日暇だろ?」

一応、使用人達に並ぶ程度の身体能力や格闘能力を身につけるため、訓練はしている。料理の修行、お菓子作りの修行も並行している。本当に暇というわけでもないが、それらは俺の機嫌で変更可能な予定だ。

「そりゃ再来月はお前──ぁ、いや、なんでもない」

「え……何、何かあんの? 八月……だよな、ギリ六月だもんな今。八月に何やるんだ、俺」

「い、いやっ、何もない」

雪風は分かりやすく狼狽え、目を逸らした。ルビーよりも赤赤として美しい瞳に見つめられる壁に嫉妬し、彼の視線を手で塞ぐ。

「俺を見ろ」

「……っ、真尋ぉ……そんな怖い顔すんなよ」

「…………怖かったか、悪いな、そういう顔なんだ」

きっと目だ、この三白眼が全て悪い。俺の強面の原因を閉ざし、瞼の裏に雪風を描く。そうすると指の長い美しい手に頬を撫でられた。

「……サプライズ的なもんあるのか?」

「はは、すげぇなお前……俺とお揃いの目持ってんのか?」

八月に何かあるのは間違いない。それが俺にとっていいものだと雪風が思っているのもほぼ確実。再来月という言い方からして一日二日の話ではなく、一週間以上に渡るもの──旅行とかかな?

「楽しみに待ってる、それでいいんだろ?」

「あぁ、本当はそれすら悟られちゃダメなんだけどな……ははっ、ダメだなぁ俺」

「…………なぁ、雪風。今日の昼飯、俺が作っていいか? 仕事するなら一人のがいいだろうし……俺、飯作ってくるよ」

「真尋の手料理食えんの? ラッキー、頼むぜ。出来たら呼んでくれ、それまでに終わらせてやる!」

仕事へのやる気を出した雪風に手を振って部屋を出る。雪風を前にして自然と上がっていた口角が下がり、勝手にため息が出る。

「………………はぁ」

忙しくてなかなか会えない雪風がせっかく家に居るのに、一秒足りとも離れたくないのに、俺はなんでキッチンに向かってるんだ?
俺と一緒に居るのにノートパソコンばかり見ているのが嫌だったからだ。傍に居ない時よりも、傍に居るのに見てくれない方が孤独感が強い。

「雪風……俺、お前が思ってるような奴じゃない……クソ面倒臭いクソガキだ」

仕事と私どっちが大事なの! なんて本気で騒げる奴が羨ましい。そんなこと言える自信も厚かましさも何もない、ただ勝手に落ち込んで拗ねることしか出来ない。

「…………幸せなのにな」

満ち足りた衣食住に美しい恋人、全て揃っているのに寂しがるなんて贅沢だ。そう自分を蔑んで、そっとキッチンに入る。

「坊ちゃん、どうされました? 今日は当主様と一緒じゃ……?」

「……雪風に飯作ってやりたいんです」

「それは素晴らしい。坊ちゃんの料理の腕はかなり上達しましたからね、当主様もお喜びになりますよ」

料理担当の使用人は他とは違い、スーツは着ていない。コック風の白い服だ。

「では、私は手を出しませんので」

「えぇ……見守ってくれますか?」

「はい、頑張ってください」

サングラス越しの視線に背を向け、まず冷蔵庫を開けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

タイは若いうちに行け

フロイライン
BL
修学旅行でタイを訪れた高校生の酒井翔太は、信じられないような災難に巻き込まれ、絶望の淵に叩き落とされる…

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

調教専門学校の奴隷…

ノノ
恋愛
調教師を育てるこの学校で、教材の奴隷として売られ、調教師訓練生徒に調教されていくお話

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

処理中です...