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使用人体験
うらのおしごと、じゅうよん
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怪異関連の仕事をするらしい日の前日、立てなくなるまでヤった日の翌日、つまり今日。雪風はノートパソコンを弄っていた。
「……雪風、仕事か?」
「ぉん、裏のお仕事を明日に変えたからな、色んなとこに連絡しなきゃなんねぇ」
「ごめん……ワガママ言って。あのさ、俺が再来月は都合悪いってどういう意味だ? 俺は毎日暇だろ?」
一応、使用人達に並ぶ程度の身体能力や格闘能力を身につけるため、訓練はしている。料理の修行、お菓子作りの修行も並行している。本当に暇というわけでもないが、それらは俺の機嫌で変更可能な予定だ。
「そりゃ再来月はお前──ぁ、いや、なんでもない」
「え……何、何かあんの? 八月……だよな、ギリ六月だもんな今。八月に何やるんだ、俺」
「い、いやっ、何もない」
雪風は分かりやすく狼狽え、目を逸らした。ルビーよりも赤赤として美しい瞳に見つめられる壁に嫉妬し、彼の視線を手で塞ぐ。
「俺を見ろ」
「……っ、真尋ぉ……そんな怖い顔すんなよ」
「…………怖かったか、悪いな、そういう顔なんだ」
きっと目だ、この三白眼が全て悪い。俺の強面の原因を閉ざし、瞼の裏に雪風を描く。そうすると指の長い美しい手に頬を撫でられた。
「……サプライズ的なもんあるのか?」
「はは、すげぇなお前……俺とお揃いの目持ってんのか?」
八月に何かあるのは間違いない。それが俺にとっていいものだと雪風が思っているのもほぼ確実。再来月という言い方からして一日二日の話ではなく、一週間以上に渡るもの──旅行とかかな?
「楽しみに待ってる、それでいいんだろ?」
「あぁ、本当はそれすら悟られちゃダメなんだけどな……ははっ、ダメだなぁ俺」
「…………なぁ、雪風。今日の昼飯、俺が作っていいか? 仕事するなら一人のがいいだろうし……俺、飯作ってくるよ」
「真尋の手料理食えんの? ラッキー、頼むぜ。出来たら呼んでくれ、それまでに終わらせてやる!」
仕事へのやる気を出した雪風に手を振って部屋を出る。雪風を前にして自然と上がっていた口角が下がり、勝手にため息が出る。
「………………はぁ」
忙しくてなかなか会えない雪風がせっかく家に居るのに、一秒足りとも離れたくないのに、俺はなんでキッチンに向かってるんだ?
俺と一緒に居るのにノートパソコンばかり見ているのが嫌だったからだ。傍に居ない時よりも、傍に居るのに見てくれない方が孤独感が強い。
「雪風……俺、お前が思ってるような奴じゃない……クソ面倒臭いクソガキだ」
仕事と私どっちが大事なの! なんて本気で騒げる奴が羨ましい。そんなこと言える自信も厚かましさも何もない、ただ勝手に落ち込んで拗ねることしか出来ない。
「…………幸せなのにな」
満ち足りた衣食住に美しい恋人、全て揃っているのに寂しがるなんて贅沢だ。そう自分を蔑んで、そっとキッチンに入る。
「坊ちゃん、どうされました? 今日は当主様と一緒じゃ……?」
「……雪風に飯作ってやりたいんです」
「それは素晴らしい。坊ちゃんの料理の腕はかなり上達しましたからね、当主様もお喜びになりますよ」
料理担当の使用人は他とは違い、スーツは着ていない。コック風の白い服だ。
「では、私は手を出しませんので」
「えぇ……見守ってくれますか?」
「はい、頑張ってください」
サングラス越しの視線に背を向け、まず冷蔵庫を開けた。
「……雪風、仕事か?」
「ぉん、裏のお仕事を明日に変えたからな、色んなとこに連絡しなきゃなんねぇ」
「ごめん……ワガママ言って。あのさ、俺が再来月は都合悪いってどういう意味だ? 俺は毎日暇だろ?」
一応、使用人達に並ぶ程度の身体能力や格闘能力を身につけるため、訓練はしている。料理の修行、お菓子作りの修行も並行している。本当に暇というわけでもないが、それらは俺の機嫌で変更可能な予定だ。
「そりゃ再来月はお前──ぁ、いや、なんでもない」
「え……何、何かあんの? 八月……だよな、ギリ六月だもんな今。八月に何やるんだ、俺」
「い、いやっ、何もない」
雪風は分かりやすく狼狽え、目を逸らした。ルビーよりも赤赤として美しい瞳に見つめられる壁に嫉妬し、彼の視線を手で塞ぐ。
「俺を見ろ」
「……っ、真尋ぉ……そんな怖い顔すんなよ」
「…………怖かったか、悪いな、そういう顔なんだ」
きっと目だ、この三白眼が全て悪い。俺の強面の原因を閉ざし、瞼の裏に雪風を描く。そうすると指の長い美しい手に頬を撫でられた。
「……サプライズ的なもんあるのか?」
「はは、すげぇなお前……俺とお揃いの目持ってんのか?」
八月に何かあるのは間違いない。それが俺にとっていいものだと雪風が思っているのもほぼ確実。再来月という言い方からして一日二日の話ではなく、一週間以上に渡るもの──旅行とかかな?
「楽しみに待ってる、それでいいんだろ?」
「あぁ、本当はそれすら悟られちゃダメなんだけどな……ははっ、ダメだなぁ俺」
「…………なぁ、雪風。今日の昼飯、俺が作っていいか? 仕事するなら一人のがいいだろうし……俺、飯作ってくるよ」
「真尋の手料理食えんの? ラッキー、頼むぜ。出来たら呼んでくれ、それまでに終わらせてやる!」
仕事へのやる気を出した雪風に手を振って部屋を出る。雪風を前にして自然と上がっていた口角が下がり、勝手にため息が出る。
「………………はぁ」
忙しくてなかなか会えない雪風がせっかく家に居るのに、一秒足りとも離れたくないのに、俺はなんでキッチンに向かってるんだ?
俺と一緒に居るのにノートパソコンばかり見ているのが嫌だったからだ。傍に居ない時よりも、傍に居るのに見てくれない方が孤独感が強い。
「雪風……俺、お前が思ってるような奴じゃない……クソ面倒臭いクソガキだ」
仕事と私どっちが大事なの! なんて本気で騒げる奴が羨ましい。そんなこと言える自信も厚かましさも何もない、ただ勝手に落ち込んで拗ねることしか出来ない。
「…………幸せなのにな」
満ち足りた衣食住に美しい恋人、全て揃っているのに寂しがるなんて贅沢だ。そう自分を蔑んで、そっとキッチンに入る。
「坊ちゃん、どうされました? 今日は当主様と一緒じゃ……?」
「……雪風に飯作ってやりたいんです」
「それは素晴らしい。坊ちゃんの料理の腕はかなり上達しましたからね、当主様もお喜びになりますよ」
料理担当の使用人は他とは違い、スーツは着ていない。コック風の白い服だ。
「では、私は手を出しませんので」
「えぇ……見守ってくれますか?」
「はい、頑張ってください」
サングラス越しの視線に背を向け、まず冷蔵庫を開けた。
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