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使用人体験
てんらんかい、ご
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祖父から明かされた突拍子のない真実に納得がいかないまま、ふわふわとした頭のまま、人気のない電車に乗り込む。
「おい、俺のスマホどこだ?」
「あぁ、多分鞄に……どうぞ」
ボストンバッグに入っていたスマホを祖父に渡し、出来の悪い頭で先程の祖父の話を反芻する。
「……本業、その……霊的なお仕事って、どんなことですか?」
「ホラー好きなら分かるだろ」
「幽霊退治……?」
「幽霊程度、相手にしねぇよ。人間がいなくなって落ちぶれた田舎の土地神、三桁年物の呪物、最近鬱陶しいのが都市伝説だな」
「都市伝説? 大半は作り話じゃないんですか? 作ったってソースもありますよね」
「あぁ、だが創作だって言わずに面白半分で広まって都市伝説として完成しちまうと、その話を知ってる人間の念的なモノで怪異が出来上がっちまう」
近頃のホラー作品でたまに聞く設定だ。
「……じゃあおじい様的には都市伝説とかムカつくんですか?」
「んぃや、そうでもない。産まれたての怪異は弱い、でも有名だと勢いがいいからうちに依頼が来る。楽して儲けられる」
「…………なるほど。じゃあそんなに危険な仕事じゃないんですね、よかった……雪兎も雪風も怪我したりしませんよね」
「そうだな……」
祖父は胸を撫で下ろす俺から目線を逸らした。それが気になって、不安になって問い詰める。
「親父がヒーリング系の力持ってるから、親父が生きてる間は大丈夫だろ」
「……怪我はするんですね」
「まずしねぇよ、そんなにヤバいのはそうそういない」
まず、そうそう、どちらも不安な言葉だ。例外の存在の裏付けなんて欲しくなかった。
「三、いや四年……いやもう少し前だったか、雪風と二人で仕事した時…………おい、ちょっと俺の背中見てみろ」
隣に座っている祖父を抱えて膝に移し、言われるがままに服をめくって背中を見る。腰辺りに大きな引っ掻き傷がある、熊でもこんなに大きいかどうか分からない。
「……これが一番大きな傷だな。親父が治しきれなかった分だ」
「…………まさか、脊椎……」
「そう。俺の半身不随は労災。ある怪異を鎮めてた時に攻撃されて……普段なら避けられたんだが、突っ立ってた雪風を突き飛ばすのを優先したから避けきれなくてな。背中えぐられた」
「そんな……」
「親父もじいさんもこんな怪我しなかった。千年に一度のバケモンだ。雪兎や雪風はこんなモン相手にすることはないだろうよ」
千年に一度というのはただの比喩、本当に千年周期に現れるわけじゃない。連続して現れることだってあるだろう、雪兎と雪風が明日も無事である保証なんてどこにもない。
「……す、すいません。ちょっと電話かけていいですか」
「他に乗客もいねぇし、別にいいだろ」
祖父を膝から下ろし、何となく立ち上がって自分のスマホを耳に当てる。しばらくすると雪風と繋がった。
「雪風っ? 雪風、よかった……大丈夫か?」
『真尋? どうしたんだよ、大丈夫って……何が? 地震でもあったか?』
「いや、あの……雪風、今何してる?」
『仕事だけど』
ついさっき見た祖父の背中の傷が脳裏に浮かぶ。
「……どんな、仕事?」
『秋のレジャー向け虫除けスプレーの……』
「分かった。明日は? 何の仕事するんだ?」
『明日? 会議だな。花粉症治療の……』
内容を詳しく聞いても理解出来ない。製薬会社の仕事しかないと分かればそれでいい。
「よし、明後日は? 何するんだ」
『明後日は休み。どうしたんだよ急に』
「分かった……明後日だな、明後日、話がある」
『なんだよ改まって……何、照れていい感じの話? 楽しみに待ってる。じゃ、そろそろ切らねぇと。ばいばい真尋ぉ、愛してる』
ふにゃんとした笑顔が瞼の裏に浮かぶ。あの笑顔が翳る可能性がある仕事なんてして欲しくない。
「……本業の仕事なんか三ヶ月に一回あれば多いようなもんだぞ」
「そう……ですか」
「そっちの仕事だって分かったらどうするんだ? やめてくれって泣くのか?」
「ついて行って盾になります。厚みはある方だし、それなりに素早く動けますから……肉壁としての才能はあると思いません?」
祖父は深いため息をつき、顔を背けた。
「お前……それで雪風が喜ぶとでも思ってんのか、この独善的なクソガキが」
「喜ばせようなんて思ってません、怪我して欲しくないだけです。雪風が怪我するくらいなら雪風を泣かせた方がマシです」
「…………っ、の……クソガキ」
祖父はそれから電車を降りるまで一言も話さず、目線も合わせてくれなかった。けれど俺は俺が間違えたとは思っていない。
「おい、俺のスマホどこだ?」
「あぁ、多分鞄に……どうぞ」
ボストンバッグに入っていたスマホを祖父に渡し、出来の悪い頭で先程の祖父の話を反芻する。
「……本業、その……霊的なお仕事って、どんなことですか?」
「ホラー好きなら分かるだろ」
「幽霊退治……?」
「幽霊程度、相手にしねぇよ。人間がいなくなって落ちぶれた田舎の土地神、三桁年物の呪物、最近鬱陶しいのが都市伝説だな」
「都市伝説? 大半は作り話じゃないんですか? 作ったってソースもありますよね」
「あぁ、だが創作だって言わずに面白半分で広まって都市伝説として完成しちまうと、その話を知ってる人間の念的なモノで怪異が出来上がっちまう」
近頃のホラー作品でたまに聞く設定だ。
「……じゃあおじい様的には都市伝説とかムカつくんですか?」
「んぃや、そうでもない。産まれたての怪異は弱い、でも有名だと勢いがいいからうちに依頼が来る。楽して儲けられる」
「…………なるほど。じゃあそんなに危険な仕事じゃないんですね、よかった……雪兎も雪風も怪我したりしませんよね」
「そうだな……」
祖父は胸を撫で下ろす俺から目線を逸らした。それが気になって、不安になって問い詰める。
「親父がヒーリング系の力持ってるから、親父が生きてる間は大丈夫だろ」
「……怪我はするんですね」
「まずしねぇよ、そんなにヤバいのはそうそういない」
まず、そうそう、どちらも不安な言葉だ。例外の存在の裏付けなんて欲しくなかった。
「三、いや四年……いやもう少し前だったか、雪風と二人で仕事した時…………おい、ちょっと俺の背中見てみろ」
隣に座っている祖父を抱えて膝に移し、言われるがままに服をめくって背中を見る。腰辺りに大きな引っ掻き傷がある、熊でもこんなに大きいかどうか分からない。
「……これが一番大きな傷だな。親父が治しきれなかった分だ」
「…………まさか、脊椎……」
「そう。俺の半身不随は労災。ある怪異を鎮めてた時に攻撃されて……普段なら避けられたんだが、突っ立ってた雪風を突き飛ばすのを優先したから避けきれなくてな。背中えぐられた」
「そんな……」
「親父もじいさんもこんな怪我しなかった。千年に一度のバケモンだ。雪兎や雪風はこんなモン相手にすることはないだろうよ」
千年に一度というのはただの比喩、本当に千年周期に現れるわけじゃない。連続して現れることだってあるだろう、雪兎と雪風が明日も無事である保証なんてどこにもない。
「……す、すいません。ちょっと電話かけていいですか」
「他に乗客もいねぇし、別にいいだろ」
祖父を膝から下ろし、何となく立ち上がって自分のスマホを耳に当てる。しばらくすると雪風と繋がった。
「雪風っ? 雪風、よかった……大丈夫か?」
『真尋? どうしたんだよ、大丈夫って……何が? 地震でもあったか?』
「いや、あの……雪風、今何してる?」
『仕事だけど』
ついさっき見た祖父の背中の傷が脳裏に浮かぶ。
「……どんな、仕事?」
『秋のレジャー向け虫除けスプレーの……』
「分かった。明日は? 何の仕事するんだ?」
『明日? 会議だな。花粉症治療の……』
内容を詳しく聞いても理解出来ない。製薬会社の仕事しかないと分かればそれでいい。
「よし、明後日は? 何するんだ」
『明後日は休み。どうしたんだよ急に』
「分かった……明後日だな、明後日、話がある」
『なんだよ改まって……何、照れていい感じの話? 楽しみに待ってる。じゃ、そろそろ切らねぇと。ばいばい真尋ぉ、愛してる』
ふにゃんとした笑顔が瞼の裏に浮かぶ。あの笑顔が翳る可能性がある仕事なんてして欲しくない。
「……本業の仕事なんか三ヶ月に一回あれば多いようなもんだぞ」
「そう……ですか」
「そっちの仕事だって分かったらどうするんだ? やめてくれって泣くのか?」
「ついて行って盾になります。厚みはある方だし、それなりに素早く動けますから……肉壁としての才能はあると思いません?」
祖父は深いため息をつき、顔を背けた。
「お前……それで雪風が喜ぶとでも思ってんのか、この独善的なクソガキが」
「喜ばせようなんて思ってません、怪我して欲しくないだけです。雪風が怪我するくらいなら雪風を泣かせた方がマシです」
「…………っ、の……クソガキ」
祖父はそれから電車を降りるまで一言も話さず、目線も合わせてくれなかった。けれど俺は俺が間違えたとは思っていない。
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