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使用人体験

たんじょうびのしたじゅんび、に

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祖父は赤い瞳を煌めかせて俺の質問を待っている。雪兎よりも幼く見える不思議な祖父に対子供用の笑みを返し、質問を口にした。

「息子にプレゼントもらうなら何がいいですか?」

まるく幼い瞳を見開き、軽く首を傾げる。六十代の男の仕草には似つかわしくないが見た目は子供なので問題ない。

「雪風、そろそろ誕生日じゃないですか。でも大抵のもの買えるでしょ? 物欲はなさそうですし」

代わりに性欲がすごいけど。

「雪兎も何贈ればいいか迷ってるみたいなんですよね」

「……今まで何もしてこなかったのに、今年はどうしたんだ」

「大学でちょっと考えるとこあったんでしょ、世間とのズレってやつを実感したんですよ」

誕生日はケーキとプレゼントで祝う、それが多数派だ。

「おじい様、何が欲しいですか?」

「……ガキに物をねだるほど落ちぶれていない」

「気持ちを込めた物が一番、なんてよく聞きますけど……気持ちを込めろって、その人のためにどこまで出来るか示せって意味でしょ? 高い物買うか怪我するか、それくらいしか……」

「随分ひねくれてるな。普通の人間なら手作りとかに気持ちが込められてるって思うもんだ」

「あぁ……金や痛みじゃなくて、時間と手間の消費なんですね。なるほど」

やはりどれだけのものを失ったかで示すしかないのだろうか。

「…………おじい様、雪風が何欲しがるか分かりません?」

「……何やっても喜ぶさ。庭で拾った石を後生大事に持ってるジジイも居るんだからな。大切なのはお前が真剣に悩むこと。アクセや服なら流行りものじゃなく雪風に似合うと思ったもの……みたいな、な。お前、料理習ってるならお前がパーティの飯作ってやったらどうだ?」

「俺が作るよりコックさんが作った方が美味しいと思いますけど」

「人間は味覚より思い込みの方が強い、味よりも誰が作ったかが大事なんだよ。一定以上のクオリティなら区別なんてつかないだろ」

「まぁ……分かる気はします。雪風、食事にあんまりこだわりありませんしね、そうします」

今日からは家庭料理じゃなくご馳走の作り方を教えてもらわないとな。

「ありがとうございます、色々整理がつきました。あ、おじい様は誕生日いつなんです? 何か欲しいものありますか?」

「……俺は七夕生まれだ。欲しいものは特にないし、次の誕生日まで生きてられるかも分からん」

まだ六十代のくせに随分と弱気だな。俺は顔を合わせたことはないが曽祖父もまだ健在だというのに。

「だから、今寄越せ」

「何も持ってませんよ。何かお願いを聞けばいいんですね?」

「察しがいいな」

祖父は子供が抱っこをねだるように手を伸ばした。

「膝に乗せろ」

「はい」

祖父を膝に乗せ、右手を背もたれにさせて幼い顔を見つめた。祖父は座り心地を確かめるように尻の横に手をついて俺の太腿を押し、俺の胸に頭を預ける。

「……昔、よく親父の膝に乗ってたんだ」

当主を継ぐ前の息子には会わないという家訓があるらしいから、成人後の話だろうか? 見た目は幼いから違和感はないが。

「親父は痩せてたし、座り心地は最悪なはずなんだが……何故か、居心地がよかった。お前は座り心地もいいな、硬いと思っていたが案外柔らかい」

「力入れてなきゃ筋肉も柔らかいんですよ」

「あぁ、そうらしいな。特に、この、胸が、いいな……」

祖父は俺の胸に頭をぶつけ、ぽよんぽよんと弾ませながら途切れ途切れに言葉を紡いだ。

「……おじい様、人の体温は苦手なんじゃないんですか?」

「あぁ、だが、お前の体温にはいい加減慣れてきた。家族のくらい平気にならなきゃな」

意外なことに可愛らしさの出てきた祖父は俺の太腿に手をついたまま俺を見上げ、にっこりと微笑む。

「お前は俺の大事な孫っ……!?」

祖父はずるっと手を滑らせ、小さな手で俺の股間を押さえてしまった。

「んっ……」

「悪い。ちょっと滑って…………待て、お前」

「い、いやぁ、この服すべりやすいですよねっ」

「死ねこの変態がぁっ!」

「あ、危ないですよっ! 暴れないでください! 離します、ベッドに寝かせますからぁ!」

つい勃起してしまっていた俺はベッドどころか部屋からも追い出されてしまった。別に祖父に手を出そうと思って膨らませた訳じゃないのに……まぁ、収穫はあったからいいとしよう。
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