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変わらない関係

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魔神王と魔王が帰った後の砂浜は脱力感に包まれていた。俺にはよく分からなかったが、強い魔力を感じて緊張していたらしい。

「なんかこう、魔力がズンッてくるんですよ……」

「へー……よいっ、しょっと」

「……何してるんです? 兄さん」

「見て分からないか? ネメスィとカタラにひざまくらしてやってんの」

並んで倒れているネメスィとカタラの頭を引っ張り、無理矢理自分の太腿に乗せた。頭二つは邪魔だし重たいが、砂粒の絡んだ金髪と白髪の手触りは面白いし見た目もいい。

「カタラ、灰色の髪してたのになぁ……すっかり真っ白だ」

「魔力の質で色が変わるなんて珍しい体質してますよね」

「魔神王さんも髪変色したとか言ってたし、カタラはあの人の劣化版みたいな感じらしいから、カタラも髪めちゃくちゃ伸びるかもな」

人間の髪の伸びには限界があると聞いたことがある。何年放置してもどれだけ手入れしても、どこぞの童話のように塔のてっぺんから地面に届くまで伸びたりはしないのだ。

「魔神王さんは人間辞めてるし、カタラもこのままいけば強さ的な意味で人間辞める感じだし……魔神王さんみたいに引きずるくらい伸びたら面白いよな。シャル、カタラの髪が伸びたら二人で三つ編みやってやろうぜ」

「いいですね、ヘアアレンジを勉強しておきます」

「俺も髪型変えようかな~、アホ毛はあるけど基本ストレートだし、シャルみたいにくるくるのくせっ毛ちょっと憧れるんだよな」

くりんと巻いた紫の髪に触れ、その巻き具合を確かめつつ楽しむ。背格好も顔もよく似ているのに髪質だけは全く違う、不思議だ。

「……やっぱみんな髪の触り心地違うなぁ。シャルが一番ふわふわしてる、カタラはサラサラで、ネメスィはパチパチするんだ」

「パチパチ……? 触ってみていいですか?」

まだ意識が戻らないネメスィの金髪に手ぐしを通し、シャルにもやらせる。手が少し痺れるような感覚がシャルにもあっただろうか。

「……すごい。パチパチしましたね」

「静電気なんだろうな。おかげでほら、ツノとか作れるぜ」

「おぉ……固まりやすいんですね、面白い……」

「楽しそうな話をしているね。私やアルマの髪の感想も聞かせて欲しいな」

査定士が俺の隣に屈み、アルマに手招きをする。誘われたアルマは何故か躊躇いながらも砂浜に腰を下ろした。

「おじさんの髪は細いかな、でもシャルみたいにふわふわしてない……あとなんか手ぐしするの不安かも」

「あはは……歳のせいかな、髪が痩せていて抜けやすそうなんだね? 不老不死になっても若返りはしないみたいだからねぇ、こればっかりは……」

「海藻食べると髪にいいって聞くよ」

「そうなのかい? サクは物知りだねぇ」

シャルと二人で査定士の髪を撫で、梳いてみた。遥か歳上の彼の頭に触れるのは少し遠慮してしまったが、シャルは割と遠慮していなかったように見えた。年功序列は前世の価値観なのだろうか。

「アルマ、次アルマー……アルマなんか居心地悪そうだけど、どうしたの?」

髪に触れる位置に来て欲しいと手を振り、ふとアルマの様子の変化に気付く。

「あぁ、いや……くだらないことなんだがな。サクもシャルも可愛いだろう、華やかで……俺が混じっていいのかと……少しな」

「女性が盛り上がっているところを横目で気にしてる冴えない男みたいなことだね」

「おじさん容赦ないなぁ。アルマはカッコイイしすっごく冴えてるよ」

「いいから頭下げてください」

シャルに肩を掴まれて引っ張られ、アルマは困ったように笑いながら背を曲げてくれた。近くに降りてきた大きな頭に手を伸ばし、赤い髪を指に絡める。

「わ、なんでしょう……鹿の体毛のようですね」

「アルマは髪までしっかりしてるな。やっぱ十人十色で面白いなぁ」

「……そういうサク、自分の髪はどうなんだ?」

アルマの大きな手が頭を包み、僅かに恐怖を抱く。

「俺は……つるりと撫で心地のいい、綺麗な髪だと思うよ」

もう片方の手がシャルの頭を撫で、シャルと少し怖いようで瞳を震わせた。

「うん、シャルの方が柔らかいな。サクの方が芯がしっかりしてる」

大きな手が離れると無意識のうちに安堵し、大きな息をついてしまう。

「シャルぅ、他にも違うとこないか探してみようぜ。見た目では他にないし……肌の滑らかさとか、歌の上手さとか? 他は……」

「ぅ、ん……」

「あっ、起きた。なんかシャル達の時より遅かったなぁ……」

ネメスィとカタラがようやく目を覚ました。仰向けに寝転がっていた彼らはまず爽やかな晴天に目が眩み、同時に腕で目を隠した。

「おはよ、二人とも」

「サク……? あぁ、寝心地がいいはずだな」

「頭だけ最高の感触……うわ、全身砂だらけ」

立ち上がった二人は共に砂を払う。砂を被らないよう俺達も立ち上がり、シャルは俺と査定士の腕に片方ずつ腕を絡めた。

「二人とも、なんか寝てる時間長かったぞ」

「そうなのか……そら見ろ、現実時間に影響が出ていたぞ。お前が駄々をこねずにさっさと名前を書いていれば、サクの足の負担が軽く済んだんだ」

「いや痺れてもないし別に俺の足はどうでもいいけど」

婚姻の呪は愛を誓って互いの血を飲むまでが準備、本当に大事なのはその後に見る夢の中で大木に名前を彫ること。二人の名前を彫ったらハートで囲むのだ。それをカタラが嫌がっていたらしい。

「だって、あんなガキっぽいの……そもそもお前と俺は夫婦って感じじゃねぇし! でもとりあえずサクには謝る、ごめん」

「俺は別にどうともないってば」

カタラは俺に対しては誠実で正直だ、時折カッコつけたりもするけれど、基本的に俺には素直だ。なのにネメスィにだけ反発したり、素直じゃなかったり……ガキっぽいのはどこの誰だ。

「……叔父上は?」

「帰った」

結婚祝いのパイを作っていることは秘密にしておこう。

「魔神王様が帰った途端、潜っていた子供達も遊び始めたね」

「え、あれ魔神王さんのせいだったんだ。なんか静かだと思ってたけど」

「あの人怖かったですもん……」

元気に遊ぶドラゴン達とは正反対に、シャルはまだ恐怖疲れを引きずって査定士に甘えている。微笑ましいが、嫉妬もしてしまう。

「そうか、帰ったのか……ん?」

ネメスィはいつの間にかポケットに入っていたらしい丸っこい石を見つけた。人目で人工だと分かる綺麗な穴が空いており、紐を通せばネックレスになりそうだ。

「よかったなネメスィ、石もらえたじゃん」

「叔父上……! 二度と、二度と破壊させません……」

「いやネメスィ、もうちょい頻繁に呼んだ方が喜ぶと思うな……俺は」

敬愛する人にもらったものを壊したくない気持ちも分かるが、電話をかけるくらいの気持ちで割ってよさそうなものなのだし。魔神王にネメスィの勘違いを教えた方がよかったかな?

「しかし、ネメスィが嫁か……嫌だな」

「何言ってる、嫁はお前だ」

「はぁ!? 俺の方が男らしいだろ!」

また喧嘩が始まった。彼らのこれはなくならないんだろうな。

「……シャルー、お兄ちゃんにも甘えてくれよ」

暴力的なじゃれ合いを見ているとシャルにウザ絡みをしたくなった。
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