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巨大な可愛い子供達

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純白の鱗を生やした優雅なドラゴン、俺とカタラの子であるその子に優しく握られ、両肩を脱臼した。

「きゅ……? きゅっ!? ママ……? 痛イ?」

俺の顔が苦痛に歪んでいるのを見てドラゴンは不安そうな鳴き声を上げる。俺は慌てて笑顔を作り、ドラゴンをなだめた。

「大丈夫だ、心配するな。入れ方は分かってるから……ほらっ! 入った。痛てて……はは、大丈夫大丈夫、お母さん何ともないぞ」

「きゅうぅ……ごめんなサイ」

「大丈夫だってば。気にすんな。ミスくらい誰にでもある」

まぁ、ドラゴンの些細なミスは死亡事故に繋がるのだが。

「すぐに謝れるお前はいい子だよ。誘拐犯に狙われちまう、誘拐犯はいい子が好きだからな」

「きゅっ……! きょわい……好かれタク、ない」

「あぁ、だからここで大人しく隠れておくんだぞ」

「きゅ……ママも、いーこ」

「ママは大人だってば。大丈夫。お前の父さんが守ってくれるしな」

父親の──カタラの話題を出すとドラゴンは安心したのか俺を床に下ろした。子供に信頼されているらしいカタラを微笑ましく思う。

「じゃあ、ばいばい」

「きゅーん……バイバイ、ママぁ」

寂しげな仔犬のような声で見送られ、胸の痛みを覚えながら次の部屋へ。ドラゴンの部屋は一つ一つが大きいから隣室でもかなりの距離がある。

「小人になった気分だ……自分と同サイズのネズミとか虫とか、やば過ぎだよなー」

ファンタジー世界だから小人にならなくても同サイズの連中は居るのかな、なんて過去に襲われた巨大蜘蛛を思い出す。

「……怖。早く行こ」

寒気に急かされて小走りで部屋に入る。内装はどの部屋も同じはずなのに妙にキラキラと輝いているような──あぁそうか、金色のドラゴンが居るからだ。

「にぅう……? ママ……? ママ!? ママぁ!」

猫のような鳴き声を上げ、鱗のない身体をぷるぷると震わせてやってくるドラゴン。俺とネメスィの子供で、その身体はスライム状、角さえも柔らかい。

「久しぶりだな。今まで会えなくてごめんな、実は──」

誘拐犯の言い訳を試してみる。

「にぃ……ゆうかいはん? にぅぅ……」

信じているのかいないのか分かりにくい反応だ。やはり巨大なドラゴンを誘拐する者をか弱いインキュバスの俺が捕まえようとしているなんて話、信じられないのかな。

「にぃ……少し、話しやすいようにする」

ドラゴンは尻尾の先を黒く変えて溶かし、俺そっくりの肉人形を作り出す。この疑似餌のようなモノの方が人間の言葉を発音しやすいらしい。

「ドラゴンの誘拐犯は多分、角や牙、鱗を狙っていると思う。だから……俺は大丈夫。兄弟達は隠したまま、俺は囮になってそいつを捕まえる」

「俺の声こんなんかなぁ……ぁ、いや、待て、ダメだ囮なんて、危ない」

言い訳自体は信じてくれたのか。賢いんだかバカなんだか、いや、素直だと言おう。

「お前は確かに強いし囮にもなれるだろう。でもお前は俺の子供だ、子供を利用するなんて絶対ダメだ。分かってくれ、可愛い我が子を少しでも痛い思いや怖い思いから遠ざけたいんだよ」

「…………ママ。でも……そうだ、パパ。パパにドラゴンに変身してもらって、囮にすればいい」

「あぁ、そうだな、その作戦は利用させてもらうよ、ありがとう」

自分と同じ姿のそれを抱き締めるのは抵抗があったが、我が子なのだと自分に言い聞かせて強く抱き締めた。もちろん本体の頭の方も撫で、大人しくしているよう言いつけて部屋を出た。

「アイツはこの部屋出られるんだよなぁ……注意しねぇと」

スライム状の彼は自分の一部を切り離すことも出来るので、振り返ったり、腕や足を軽く振ったり……俺に引っ付いて脱走を企てていないか十分に注意した。

「よし、大丈夫だな……おーい、おはよぉー、お母さんだぞー?」

最後はアルマとの子である赤いドラゴンの部屋。一軒家サイズの他の子達に比べても大きな彼にはこの部屋すら窮屈そうだ。

「めぅぅ……まま? ままぁ……! ままだぁ、みぃぃ……」

赤いドラゴンは身を横たえたままズリズリと這いずるように俺の目の前までやってきた。俺がすっぽりハマりそうな鼻の穴からの息が熱い。

「みぃいん……まぅ、めぁうぅ……」

鼻先に手を置くと仔猫のような鳴き声を上げながら擦り寄ってきた。

「ままぁ……お腹、すイタ」

「えぇ? 朝ごはん食べてすぐじゃないのか? 食いしん坊だなぁ」

言いながら思い返す。赤いドラゴンがこんなにも正直に空腹を訴えたことがあっただろうかと。彼はこれまで常に控えめだった、それが素直になるということは結構な危機だということだ。

「ままぁ……ごはん、欲しイよぉ……お腹すいタ。お肉、食べタイよ……」

「……どういうことだ。飯もらってないのか!?」

「みぃい……? ごはん、ソコから入ってクル……でも、足りナイ……おなかすいた。ままぁ……お腹、すいたぁ……」

まさかホテルはこの子にも他の子と同じ量の飯しかやっていないのか? この子は他の子との体の大きさの比率以上によく食べるんだぞ。

「えっと…………そうだ、痛っ……!」

俺はドラゴンの顔の鱗でわざと手のひらを切りつけた。

「みぃっ……!? まま? ままぁ……ごメンなさい……ままっ、まま大丈夫? ままぁ……」

「口開けろ」

「めぅ……? まぁー……」

俺が何十人と寝転べそうな舌の上に血を垂らす。もう片方の手で腕を絞るようにして血を押し出す。

「……っ、く……」

ボタボタと舌の上に数百ミリの血を零したところで傷が塞がってしまった。量は微妙だが、魔力はそれなりのはずだ……どうだ?

「みゅうぅ……おいしかっタ。今のなぁに? ままぁ……まま、おテテ大丈夫?」

「あぁ、平気だ。腹は膨れたか?」

「みぅう、ちょっト!」

ドラゴンは寝転ぶのをやめて起き上がった。腹が減って座ることもままならないほどだったのか……

「お母さんすぐに飯持ってきてやるからな、ちょっと待ってろよ」

「みぅ! いってらっシャいままぁ」

元気に手を振る赤いドラゴンに背を向け、ドラゴン棟のバックヤードまで走る。退屈そうに待っているシャルと時計を見つめているホテル職員が居た。

「あっ、兄さん!」

「おかえりなさいませお客様……っ!? お客様、檻は!」

「シャルどけ! お兄ちゃんドロップキックかますぞ!」

両手を広げて俺を迎えていたシャルは慌ててその場に屈む。俺はそんなシャルの肩に手をついて跳び、浮遊に魔力を使うよう意識しながら職員の胸に着地した。

「檻はあっさり壊れた! 何が超頑丈だバカ!」

「そ、そんなバカな……今までドラゴンがあれを壊したことは……というかどうして突然蹴るんですか! 訴えますよ!?」

「るっせぇ訴えるのはこっちだ虐待魔! よくも俺の子にひもじい思いさせやがって……! シャル、こいつ一週間はまともな飯食えないようにしてやろうぜ! 食道ボッコボコに荒らしてやる! 粥で虚しく過ごすんだな!」

「落ち着いてください兄さん……何があったのか僕に詳しく説明してください」

職員の上から降り、バックヤードの出入口を背にしてシャルに詳しい事情を説明した。

「……なるほど、魔力を半実体化させて胃の内壁を引っ掻き回す程度で構いませんか?」

「やっちゃえ!」

「ま、待ってください! 私は食事の担当じゃありません! ここでドラゴン達が暴れないか見張っているだけでっ、ほとんど仕事はなくて!」

「じゃあ飯の量決めたヤツと偉いヤツ呼んでこいや!」

「兄さん、人間は排泄せずには生きられないそうなので排泄孔もズタズタにしましょう。後は呼吸に何か責め苦を……肺をちょっと焼くというのはどうでしょう!」

「ノリノリだな、お兄ちゃん流石に引くわ。しばらく大人しくしててくれ、また必要になるかもしれないからな……」

俺達の物騒な会話が効いたのか職員はあっさりと責任者を呼びに行った。社会経験の乏しいインキュバス二人だけでは心もとないので、俺達も仲間を呼びに行った。
かくして、ドラゴン棟のバックヤードにて静かで小さな戦いが始まるに至ったのだった。
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