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ドラゴンの飼い方なんて本はない
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ドラゴン達を寝床に四匹集めてみる。やはりシャルの子である紫のドラゴンは怒りっぽく、少しでも気に入らないことがあれば蛇が威嚇するような鳴き声を上げて牙を剥く。
「……ごめんなさい」
「いやいやシャルは悪くないよ。でも、まぁ……うん、すぐに尻尾で叩くのはよくないな。ちょっと離しておいた方がいいかもな」
俺とシャルの子は尾びれがハート型になっており、尾びれのない他のドラゴンに比べて何かを叩きやすい。
「おいで……もう、兄さんに迷惑かけちゃダメでしょう? 悪い尻尾はちぎっちゃいますよ」
「シャルー、ダメだぞー?」
子供相手だろうとやりかねないのがシャルだ、念のために注意しておかなければ。
「……これ、腹減ってるんじゃないか?」
ドラゴン達はみな毛布や他のドラゴン、自分の尾などを噛んでいる。
「カタラ、ドラゴンが何食うか知ってるか?」
「カタラさん流石にドラゴンのことは知らないなー、魔神王様の甥っ子様で勇者様なネメスィなら知ってるんじゃないか?」
若干の嫌味を込めた青い視線がネメスィを射抜く。俺もカタラにならって視線を向ける。
「ドラゴンは多種多様だ、種によって食べ物も変わる。水棲なら魚や貝を食う。鉱物食の竜は頭がいい。土を食う竜は怠け者。草食の竜は攻撃的だ」
「つまりこの子達の飯は何を用意すれば?」
「…………インキュバスの血を引いてるんだから精液でもかければいいんじゃないか」
思わず枕を投げつけてしまった。
「分からないなら分からないって正直に言えよな」
カタラに頬をつつかれるネメスィは不機嫌そうな表情だ。
「おじさん、おじさんは魔物にも詳しいですよね?」
紫のドラゴンを肩に乗せたままシャルが査定士の腕に絡みつく。ニットの感触が気に入っているのか以前よりも身体を擦り付けているように見える。
「ネメスィの言う通り、ドラゴンは住む場所によって生態が変わるからね……ひとまとめにドラゴンと決めてしまっていいのかと分類学の者は日々悩んでいるんだよ」
「分からんないんですか?」
「そうだね。でも、何を食べるかは口を見れば分かるんだよ。尖っていれば肉、臼型なら草、それが基本で……口を開けてもらえるかな?」
シャルは紫のドラゴンを鷲掴み、無理矢理口を開けさせて査定士に見せた。ドラゴンはバタバタと暴れてシャルの手を引っ掻いているが、皮膚が裂けてもシャルは顔色一つ変えなかった。
「鋭い牙をしているから肉食だと思うけれど、まだまだ歯が柔らかいから噛み切れないだろうね。噛む力も弱いし、咀嚼もしないだろう。おそらく鳥のように親がペースト状にしたものを食べさせるんだろうね」
「なるほど……では兄さん、どうぞ」
シャルは俺に紐で縛られたハムを差し出す。
「……いや、ミンチにすればいいじゃん」
「いやいやサク、母体の唾液が混ざるのも重要なんだよ。自然と人肌になるしね」
「そうですよ兄さん、一旦試してください。食べなかったら僕がいただきますから」
「シャルぅ……それは流石にどうかと思う」
嫌がってはみたのだが押し切られ、切り分けたハムを口に入れた。人間なら美味しかっただろうが、インキュバスの舌はハムの味など感じ取れない。
「……まずいのか? 腐ってるのか?」
味のしない物を噛み続けるのは不味いものを食べるより嫌だ。眉をひそめていたからかカタラが心配そうに見つめてくる。
「ん……味が、しなくて」
「あー、そっか……インキュバスって体液以外は味感じないんだっけ。肉汁とかもダメか」
「体液から生命力を得ているので、豚に直接噛み付けば味が分かると思います。もしくは切り分けたてを生でなら」
「絵面……」
塊がなくなり、どろどろになったハムを──ハムだったものを器に吐き出す。
「これ食わせるの普通に嫌なんだけど」
「前から思っていたけれど、サクは感覚が文化的な人間寄りだよね。だからインキュバスなのに恥じらいがあって可愛らしいけれど、こういう時には不向きかな」
前世では王都よりも発展した街に住んでいたからな、衛生や倫理に細かくなってしまうのは仕方ない。
「さぁ、兄さんが作ってくださったご飯ですよ」
シャルは躊躇なくドラゴンを器の横に置いた。ドラゴンは器の中の流動食の匂いを嗅ぎ、引き返してシャルの腕によじ登った。
「食わねぇじゃん!」
「仕方ありませんね……僕がいただきます」
「待て待て弟! 他の子は食うかもだろ。つーか消化できないくせに食おうとすんな」
「それだけドロっとした物なら消化しなくても問題ありませんから返してください」
「シャル……いくらでもキスしてやるからやめろ」
カタラの腕にしがみついていたシャルが素早く俺の膝の上に座る。向かい合うように座って頭羽を揺らすシャルの要求は声に出されなくても分かる。
「後でな、何食うのか分かってからだ」
ぱたりと垂れたシャルの頭羽も気になるが、今はドラゴン達だ。カタラの子は食べなかった、俺の子も食べない。
「ネメスィ、お前の子にこれやってみてくれ」
「……こいつ何でも食うぞ。見てろ」
ネメスィは酒の空き瓶を金色のドラゴンに押し付ける。スライムのような体のドラゴンの中に瓶がめり込み、ドラゴンの体が少し膨らむ。金色の体内が透けて見える、瓶がジュワジュワと溶けていく。
「…………触れる時は体内に指が入らないよう気を付けるべきだな」
言いながらネメスィはドラゴンの腹部をペンで突く。むにっと沈み、つぷんと体内に入り、溶かされた。
「……これお前も出来んの?」
「やろうと思えば。こいつは加減をまだ覚えてない、消化液を吐くかもしれん。離しておいた方がいいな」
瓶やペンを溶かすような消化液を吐くかもしれないドラゴンをネメスィは頭の上に乗せた。ドラゴンはゲップらしき音を出し、唾液を垂らしながらネメスィの頭の上で眠り始める。
「腹いっぱいみたいだな、可愛い……熱っ!?」
唾液を拭うために口元に触れたカタラは指に痛みを訴えた。
「言っただろ、消化液を吐くと」
「……ネメスィ平気?」
「頭部だけ細胞を変えてある、問題ない」
「流石、万能細胞の塊……カタラ、平気?」
「ぁー、うん、まぁ……お前はああいうことするなよ?」
純白のドラゴンをすくい上げたカタラは癒しを求めるように彼を撫でる。
「誰も食わねぇな、サクのペースト。ってか旦那は一人で何してるんだ?」
「あぁ……なんか、小さいのに触るの怖いからいつ孵るかの見張り役してるって」
アルマは一人でベッド脇に座って赤い卵を見つめている。ベッドの端に顎を乗せた彼の表情はどこか拗ねているようにも見える。
「あの赤いのはまだ孵らないんだな」
「無精卵じゃないのか?」
「ちゃんと調べた、確かに中に居るよ、死んでもない。中でのんびりしてるんだろ」
他の卵は割れたのに赤い卵だけは成長を続けていて、既に割れた卵よりも二回りは大きい。アルマ似だと言うべきかな。
「……とにかく、早く何食べるか分からないとまずい。生まれたばっかなのに何日も食わせなかったら死んじゃうかも……」
「兄さん! 僕の子は僕の血を飲みましたよ。親の嗜好に似るんじゃないでしょうか」
「分かったのはすごいけど何で飲ませたんだよ!」
「飲ませたというか……えっと」
シャルは指の間に頭を突っ込んで噛み付いているドラゴンを見せた。
「……歯が柔らかくてもインキュバスの薄い皮膚は破れたみたいです」
「俺の子も血飲むのかなぁ……カタラ、お前も好物あげてみてくれよ」
「あぁ、今パン食ってるぞ」
純白のドラゴンは机の上にぽてっと座り、前足でパンをむしって少しずつ口に運んでいる。
「上品っ……! カタラに似てないな」
「俺も上品だろ」
「親の好物食べるんだな、分かってよかった…………ネメスィ瓶食ってたのか?」
「……見たことがあるか?」
となると俺の子は精液を好むことになるのか? 嫌だな、他に何か食べないか試さなければ。
「よっ……と、アールーマっ、卵どぉ?」
すっかりドラゴンの世話に夢中になった集団から離れ、ベッドに寝転がって卵を見つめるアルマの視線に割り込む。
「静かだ。どうしてこの子だけ遅いんだろう……」
少し孵るのが遅れているだけでアルマは酷く不安そうにしている。
「アルマに似て体が大きい子なんだよ。でも、俺のお腹の中で大きくなったら俺が苦しいから、小さいまま出てきて外で成長してるんだ。産まれる前から俺のこと気遣ってくれた、アルマ似の優しい子だよ」
「…………そうだな、孵らないなんてないよな」
「うん! あのさ、アルマ……他の子達は何食べるか分かったんだけど、この子だけまだなんだ。一緒に考えてくれないか?」
黒いドラゴンを寝床に乗せてアルマの目の前へ。アルマは自分が怖くないか心配して動かなくなってしまったが、ドラゴンは羽を揺らして上機嫌そうだ。
「ふふ……この人がパパだよ、パーパ。おっきくて優しい、最高の旦那様なんだ」
「サク……」
「ぴゃー、ぴゃー?」
俺の褒め言葉とパパと聞こえなくもない鳴き声でアルマはようやく笑顔を見せてくれた。このところアルマを落ち込ませてしまってばかりだったし、俺が消えてしまう前にちゃんとメンタルケアしてやらなければ。
「アルマ、そっち行っていい?」
「ん……? あぁ、どうするんだ?」
俺はベッドから降りてアルマの膝の上に座った。この特等席に腰を下ろしたのは何だか久しぶりな気がする。
「サク……サク、何なのか分からないが……何かがこみ上げてくる。サク……」
太い腕が俺を抱き締める。肋骨が軋んでも、腹が潰されて息苦しくなっても、もう大丈夫。何も怖くない。
「……長い間ごめんね、アルマ。我慢してくれてありがと。赤ちゃん達が全員寝たら……俺のこと好きにしていいよ」
尻に食い込む巨根の気配に腹を疼かせながらアルマを見上げる。
「サク…………なぁ、サク。サクはドラゴンによって母性本能を植え付けられたと考えていたんだったな、赤子には卵の時ほどの防衛反応が出ないのが証拠だと……なら、サク。赤子を育てるための体になっていたりするんじゃないか?」
熱い吐息が頭羽にかかる。大きな手が俺の胸を覆う。
「ぁっ……」
「……ちゃんと出るように夫の俺がほぐしてやるからな」
「ぁ、んっ……ゃ、アルマぁっ……むり、何も出ないぃ……」
機能しないはずの乳腺を刺激するような指の動きに甘えた声が漏れる。毛布を噛んでいる我が子の目の前で喘いでしまう。
「ぁ、はっ……ぁんっ……ゃ、あっ、みちゃ、だめっ……」
俺を見つめるつぶらな瞳から逃れるには頼りない自身の両手で顔を隠した。
「……ごめんなさい」
「いやいやシャルは悪くないよ。でも、まぁ……うん、すぐに尻尾で叩くのはよくないな。ちょっと離しておいた方がいいかもな」
俺とシャルの子は尾びれがハート型になっており、尾びれのない他のドラゴンに比べて何かを叩きやすい。
「おいで……もう、兄さんに迷惑かけちゃダメでしょう? 悪い尻尾はちぎっちゃいますよ」
「シャルー、ダメだぞー?」
子供相手だろうとやりかねないのがシャルだ、念のために注意しておかなければ。
「……これ、腹減ってるんじゃないか?」
ドラゴン達はみな毛布や他のドラゴン、自分の尾などを噛んでいる。
「カタラ、ドラゴンが何食うか知ってるか?」
「カタラさん流石にドラゴンのことは知らないなー、魔神王様の甥っ子様で勇者様なネメスィなら知ってるんじゃないか?」
若干の嫌味を込めた青い視線がネメスィを射抜く。俺もカタラにならって視線を向ける。
「ドラゴンは多種多様だ、種によって食べ物も変わる。水棲なら魚や貝を食う。鉱物食の竜は頭がいい。土を食う竜は怠け者。草食の竜は攻撃的だ」
「つまりこの子達の飯は何を用意すれば?」
「…………インキュバスの血を引いてるんだから精液でもかければいいんじゃないか」
思わず枕を投げつけてしまった。
「分からないなら分からないって正直に言えよな」
カタラに頬をつつかれるネメスィは不機嫌そうな表情だ。
「おじさん、おじさんは魔物にも詳しいですよね?」
紫のドラゴンを肩に乗せたままシャルが査定士の腕に絡みつく。ニットの感触が気に入っているのか以前よりも身体を擦り付けているように見える。
「ネメスィの言う通り、ドラゴンは住む場所によって生態が変わるからね……ひとまとめにドラゴンと決めてしまっていいのかと分類学の者は日々悩んでいるんだよ」
「分からんないんですか?」
「そうだね。でも、何を食べるかは口を見れば分かるんだよ。尖っていれば肉、臼型なら草、それが基本で……口を開けてもらえるかな?」
シャルは紫のドラゴンを鷲掴み、無理矢理口を開けさせて査定士に見せた。ドラゴンはバタバタと暴れてシャルの手を引っ掻いているが、皮膚が裂けてもシャルは顔色一つ変えなかった。
「鋭い牙をしているから肉食だと思うけれど、まだまだ歯が柔らかいから噛み切れないだろうね。噛む力も弱いし、咀嚼もしないだろう。おそらく鳥のように親がペースト状にしたものを食べさせるんだろうね」
「なるほど……では兄さん、どうぞ」
シャルは俺に紐で縛られたハムを差し出す。
「……いや、ミンチにすればいいじゃん」
「いやいやサク、母体の唾液が混ざるのも重要なんだよ。自然と人肌になるしね」
「そうですよ兄さん、一旦試してください。食べなかったら僕がいただきますから」
「シャルぅ……それは流石にどうかと思う」
嫌がってはみたのだが押し切られ、切り分けたハムを口に入れた。人間なら美味しかっただろうが、インキュバスの舌はハムの味など感じ取れない。
「……まずいのか? 腐ってるのか?」
味のしない物を噛み続けるのは不味いものを食べるより嫌だ。眉をひそめていたからかカタラが心配そうに見つめてくる。
「ん……味が、しなくて」
「あー、そっか……インキュバスって体液以外は味感じないんだっけ。肉汁とかもダメか」
「体液から生命力を得ているので、豚に直接噛み付けば味が分かると思います。もしくは切り分けたてを生でなら」
「絵面……」
塊がなくなり、どろどろになったハムを──ハムだったものを器に吐き出す。
「これ食わせるの普通に嫌なんだけど」
「前から思っていたけれど、サクは感覚が文化的な人間寄りだよね。だからインキュバスなのに恥じらいがあって可愛らしいけれど、こういう時には不向きかな」
前世では王都よりも発展した街に住んでいたからな、衛生や倫理に細かくなってしまうのは仕方ない。
「さぁ、兄さんが作ってくださったご飯ですよ」
シャルは躊躇なくドラゴンを器の横に置いた。ドラゴンは器の中の流動食の匂いを嗅ぎ、引き返してシャルの腕によじ登った。
「食わねぇじゃん!」
「仕方ありませんね……僕がいただきます」
「待て待て弟! 他の子は食うかもだろ。つーか消化できないくせに食おうとすんな」
「それだけドロっとした物なら消化しなくても問題ありませんから返してください」
「シャル……いくらでもキスしてやるからやめろ」
カタラの腕にしがみついていたシャルが素早く俺の膝の上に座る。向かい合うように座って頭羽を揺らすシャルの要求は声に出されなくても分かる。
「後でな、何食うのか分かってからだ」
ぱたりと垂れたシャルの頭羽も気になるが、今はドラゴン達だ。カタラの子は食べなかった、俺の子も食べない。
「ネメスィ、お前の子にこれやってみてくれ」
「……こいつ何でも食うぞ。見てろ」
ネメスィは酒の空き瓶を金色のドラゴンに押し付ける。スライムのような体のドラゴンの中に瓶がめり込み、ドラゴンの体が少し膨らむ。金色の体内が透けて見える、瓶がジュワジュワと溶けていく。
「…………触れる時は体内に指が入らないよう気を付けるべきだな」
言いながらネメスィはドラゴンの腹部をペンで突く。むにっと沈み、つぷんと体内に入り、溶かされた。
「……これお前も出来んの?」
「やろうと思えば。こいつは加減をまだ覚えてない、消化液を吐くかもしれん。離しておいた方がいいな」
瓶やペンを溶かすような消化液を吐くかもしれないドラゴンをネメスィは頭の上に乗せた。ドラゴンはゲップらしき音を出し、唾液を垂らしながらネメスィの頭の上で眠り始める。
「腹いっぱいみたいだな、可愛い……熱っ!?」
唾液を拭うために口元に触れたカタラは指に痛みを訴えた。
「言っただろ、消化液を吐くと」
「……ネメスィ平気?」
「頭部だけ細胞を変えてある、問題ない」
「流石、万能細胞の塊……カタラ、平気?」
「ぁー、うん、まぁ……お前はああいうことするなよ?」
純白のドラゴンをすくい上げたカタラは癒しを求めるように彼を撫でる。
「誰も食わねぇな、サクのペースト。ってか旦那は一人で何してるんだ?」
「あぁ……なんか、小さいのに触るの怖いからいつ孵るかの見張り役してるって」
アルマは一人でベッド脇に座って赤い卵を見つめている。ベッドの端に顎を乗せた彼の表情はどこか拗ねているようにも見える。
「あの赤いのはまだ孵らないんだな」
「無精卵じゃないのか?」
「ちゃんと調べた、確かに中に居るよ、死んでもない。中でのんびりしてるんだろ」
他の卵は割れたのに赤い卵だけは成長を続けていて、既に割れた卵よりも二回りは大きい。アルマ似だと言うべきかな。
「……とにかく、早く何食べるか分からないとまずい。生まれたばっかなのに何日も食わせなかったら死んじゃうかも……」
「兄さん! 僕の子は僕の血を飲みましたよ。親の嗜好に似るんじゃないでしょうか」
「分かったのはすごいけど何で飲ませたんだよ!」
「飲ませたというか……えっと」
シャルは指の間に頭を突っ込んで噛み付いているドラゴンを見せた。
「……歯が柔らかくてもインキュバスの薄い皮膚は破れたみたいです」
「俺の子も血飲むのかなぁ……カタラ、お前も好物あげてみてくれよ」
「あぁ、今パン食ってるぞ」
純白のドラゴンは机の上にぽてっと座り、前足でパンをむしって少しずつ口に運んでいる。
「上品っ……! カタラに似てないな」
「俺も上品だろ」
「親の好物食べるんだな、分かってよかった…………ネメスィ瓶食ってたのか?」
「……見たことがあるか?」
となると俺の子は精液を好むことになるのか? 嫌だな、他に何か食べないか試さなければ。
「よっ……と、アールーマっ、卵どぉ?」
すっかりドラゴンの世話に夢中になった集団から離れ、ベッドに寝転がって卵を見つめるアルマの視線に割り込む。
「静かだ。どうしてこの子だけ遅いんだろう……」
少し孵るのが遅れているだけでアルマは酷く不安そうにしている。
「アルマに似て体が大きい子なんだよ。でも、俺のお腹の中で大きくなったら俺が苦しいから、小さいまま出てきて外で成長してるんだ。産まれる前から俺のこと気遣ってくれた、アルマ似の優しい子だよ」
「…………そうだな、孵らないなんてないよな」
「うん! あのさ、アルマ……他の子達は何食べるか分かったんだけど、この子だけまだなんだ。一緒に考えてくれないか?」
黒いドラゴンを寝床に乗せてアルマの目の前へ。アルマは自分が怖くないか心配して動かなくなってしまったが、ドラゴンは羽を揺らして上機嫌そうだ。
「ふふ……この人がパパだよ、パーパ。おっきくて優しい、最高の旦那様なんだ」
「サク……」
「ぴゃー、ぴゃー?」
俺の褒め言葉とパパと聞こえなくもない鳴き声でアルマはようやく笑顔を見せてくれた。このところアルマを落ち込ませてしまってばかりだったし、俺が消えてしまう前にちゃんとメンタルケアしてやらなければ。
「アルマ、そっち行っていい?」
「ん……? あぁ、どうするんだ?」
俺はベッドから降りてアルマの膝の上に座った。この特等席に腰を下ろしたのは何だか久しぶりな気がする。
「サク……サク、何なのか分からないが……何かがこみ上げてくる。サク……」
太い腕が俺を抱き締める。肋骨が軋んでも、腹が潰されて息苦しくなっても、もう大丈夫。何も怖くない。
「……長い間ごめんね、アルマ。我慢してくれてありがと。赤ちゃん達が全員寝たら……俺のこと好きにしていいよ」
尻に食い込む巨根の気配に腹を疼かせながらアルマを見上げる。
「サク…………なぁ、サク。サクはドラゴンによって母性本能を植え付けられたと考えていたんだったな、赤子には卵の時ほどの防衛反応が出ないのが証拠だと……なら、サク。赤子を育てるための体になっていたりするんじゃないか?」
熱い吐息が頭羽にかかる。大きな手が俺の胸を覆う。
「ぁっ……」
「……ちゃんと出るように夫の俺がほぐしてやるからな」
「ぁ、んっ……ゃ、アルマぁっ……むり、何も出ないぃ……」
機能しないはずの乳腺を刺激するような指の動きに甘えた声が漏れる。毛布を噛んでいる我が子の目の前で喘いでしまう。
「ぁ、はっ……ぁんっ……ゃ、あっ、みちゃ、だめっ……」
俺を見つめるつぶらな瞳から逃れるには頼りない自身の両手で顔を隠した。
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