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父親に似て液体感強め

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額に触れる冷たい感触に目を覚ます。起き上がると額に置かれていた手拭いが落ちる、濡れていて冷たい。

「にぁ」

腕に金色のドラゴンがまとわりつく。俺やシャルに似たドラゴン達と違い、硬くない。鱗がない、本当に羽と角の生えたトカゲのようだ。角に触れてみるとこちらも柔らかく、指で弾くとぷるんと揺れた。

「にやぁあ……」

面白くなって角をぷるぷるさせて遊ぶと不満そうな鳴き声を上げて頭を振った。嫌だったらしい、悪いことをした。

「ごめんな」

「にぃ……」

謝罪として背を撫でてやる。今世の魔物としてのスライムではなく、前世でのガシャポンなどで手に入ったスライムのような感触だ。どう違うかって? 魔物のスライムはちょっとシャバシャバしてるんだ、生き物だからなのか粘性や硬度はある程度自由のようで、普段は片栗粉を溶かした水みたいな感触であることが多い。

「…………いや、お前……誰だ?」

枕元の卵置き場を確認すると銀粉をまぶしたような煌めく白い卵が割れており、表面がザラついた赤い卵はそのままだった。卵置き場の横、ドラゴン達の寝床を見ると純白の鱗に銀の角を持つ美しいドラゴンが増えていた。

「カタラのが孵って、アルマのはまだで……ネメスィ、のは」

起きる前、いや、意識を失う前──そうだ、俺が失神したのは卵が割れたショックのせいだった。ネメスィは自分の卵を割ったんだ。

「ネメスィっ……ネメスィは……!」

ベッドから降りようとするとベッド脇に座って驚いた顔をしているネメスィと目が合った。

「……おはよう、サク。ぼーっとしたり急に動いたり忙しないな、お前は」

ドラゴンに構ったり考え込んだり、そして今ベッドを降りようとしたり、そんな俺の動きを笑うネメスィの胸ぐらを掴み、頬に思い切り拳を叩き込んだ。

「……っ!? いったぁ……」

「サク!? おいサクどうした! 何しやがったネメスィ!」

少し離れた場所に居たカタラが走ってくる。

「俺が殴られたんだ」

「はぁ? サクぅ……思いっきりやっちゃダメだろ、お前はインキュバスなんだ、脆いんだよ。皮や肉に伸縮性はあっても骨はダメだ、ヒビ入ったんじゃねぇか? 魔力は足りてるから早く治せ」

手の痛みが次第に引いていく。人を殴って骨にヒビが入るなんて、なんて脆い体なんだ。

「……なんで殴られたんだよお前、サクそんな暴力的なやつじゃないだろ」

「知らん」

「ネメスィが俺の卵割ったんだ! 俺の赤ちゃん死んじゃったぁ……この人殺し!」

「落ち着け落ち着け、卵はネメスィが割ったんじゃない。中の子が自分で割ったんだ、振動があったのがきっかけかもしれないけど酷いタイミングだったよな」

カタラは金色のぷるぷるしたドラゴンを両手ですくい、俺の膝の上に乗せる。

「にぃ、にぃあ」

猫のように鳴く小さなドラゴン、その体色の金はネメスィの瞳の色によく似ていた。

「え……? で、もっ、でも、卵の中から……どろどろって、黒いの……」

「あぁ、俺似だな」

ネメスィは自身の手を溶かして黒い粘着質な液体に変える、それは卵から零れたものによく似ていた。

「サクがぶっ倒れた後、黒いのがスライムみたいに動いてドラゴンの形になったんだよ」

「サクが寝ている間に金色になるよう教えた」

「いや、頭の上に乗せたら勝手に色変わったんだろ。ビビると周りの色に染まるみたいだな」

そんなカメレオンみたいな理由で金色になっているのか。

「…………無事、だったんだ」

金のドラゴンは俺の膝からネメスィの膝へと飛び移る。ちゃんと懐いているらしい。

「ぁ……ネ、ネメスィ……ごめん、本当にごめんっ! 人殺しなんて、俺……焦っちゃって、殴ったりして、本当にごめんっ……俺のこと殴っていいから許して」

「…………俺は今まで大量の魔物を殺してきた。何も間違っていない」

「ネメスィ、それは……人間のためだったんだろ?」

表情の硬いネメスィの顔は自嘲の笑みを作る。

「自分の縄張りをうろついていただけの魔物、自分の子を奪われたから取り返そうとした魔物、ただ人間の家の近くに来てしまっただけの子供の魔物、見た目が怖い草食性の魔物…………全て人間のために殺した、人間の安心のためにな」

「ネメスィは……殺した魔物のことよく覚えてるんだよな、それだけでもすごいよ。殺さなくてもよかったかもしれないけど、人間なんてそんなもんだし、人間は罪悪感なんてあんまり抱かないからさ、ネメスィはまだマシなんだよ」

自分でも思う、励まし方が下手だと。

「…………出会い方が違えば俺はお前を殺していたかもしれない。お前の弟も、夫も、出会い方さえ違えば」

「出会い方が重要なんだよ。今は俺ともシャルともアルマとも仲良いし、無闇に魔物殺したりしたないだろ?」

「……ありがとう」

下手な微笑みを見せたネメスィの手には金のドラゴンが噛み付いている、まるでネメスィが魔物にとって安全な者だと示すように。

「…………話まとまったか? 俺の卵も孵ったんだけど、その話していい?」

「ぁ、うん、もちろん……」

話題はドラゴン達の寝床で眠る白いドラゴンへと移る。

「こいつこいつ」

「……めちゃくちゃ綺麗だな、ため息出るよ」

銀に輝く二本の角、純白の鱗、長く伸びた尾、優雅にたたまれた翼、上品に丸まった寝姿、一瞬の隙なく美しい。

「腹見せて寝てる俺の子とは大違いだよ」

「可愛いじゃん」

「可愛いけどさ……なんか、焼かれてるみたい」

前世で見たアニメに登場したイモリの串焼き、アレにそっくりだ。そう思うのは手足を広げてひっくり返っているせいだろうか。そんな俺の子の腹を枕にしてシャルの子が眠っているのがまた可愛い。

「ん……? お? 起きるんじゃないか?」

白いドラゴンは尾を伸ばし、四本の足でしっかりと立ち上がり、背を反らせて口を開けた。伸びと欠伸だろうに美しいとはどういうことだ。

「うわっ……目めちゃくちゃ綺麗」

ぱっちり開いた瞳は穏やかな海のような煌めく青色、深海のような瞳のカタラの子と言って疑う隙がない。

「はぁー……すごいな、美人だ……お父さん似だな」

「なんだよそれ、カタラさんが美人ってか?」

おふざけ混じりに笑うカタラの目を見つめ、特に何も考えずに頷く。

「カタラは美人だろ? 中性的な美少年って感じじゃん」

「…………へへ」

頬を赤らめて視線を逸らし、分かりやすく照れる──

「……いや俺少年って歳じゃねぇよ!?」

──そして照れ隠しのように大声を出す。その声に反応してか眠っていた二匹のドラゴンも目を覚ます。

「ぴぅ……? ぴーゃあ!」

「……しゃーっ!」

「ぴっ……ぴぅぅ……」

機嫌よく鳴いて紫のドラゴンに怒られ、縮こまる黒いドラゴン……弱すぎる、俺に似たのだろうか。

「きゅう……きゅ?」

縮こまる黒いドラゴンに寄り添い、額を舐める白いドラゴン。

「紳士……! 流石カタラの子だな、カタラも紳士……そうでもないかな」

「カタラさんは紳士だろ!」

「たまに品ないけど、優しさだけで言えば最高に紳士だよ」

「……そ、そぉ? まぁ、カタラさんだからな~」

ドラゴン達はみんな見た目だけでなく性格も親に似ているのかもしれない。シャルの子が怒りっぽいのだけは違うかな、アルマの子はどんな性格だろう。

「…………こいつら全員俺の子なんだよな。あははっ……なんだろ、なんか、いいなぁ」

部屋から脱出するために自身を犠牲にしなければならないことなんて、今だけは忘れていられる。子供とは素晴らしいものだ。
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