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産卵の後は抱卵

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四個目と五個目の卵は二つ続けて胃から出た。連続する感覚、卵同士が擦れ合う不快な音に腸壁が快感を覚える。

「ぁ、あぁあっ……! や、あ、だめっ、一つずつ来てよっ……」

「サク? サク、どうした」

「お義兄さん、お腹見てください。膨らみが二つ、ぼこぼこって……移動してる。二つ一緒に出ようとしてるんです」

一つ通して腸壁は油断する。しかしすぐに次が来て、油断した腸壁を膨らまされる快感に襲われる。

「ぁんっ、ぁ、あぁんっ! や、ぁんっ……おかぁさん、イかせないでよぉっ……いい子だから、一つずつゆっくり……ィっ、ぁああっ!」

四個目の卵が前立腺を押し潰し、後孔から転び出る。圧迫から解放されたかと思えば五個目の卵がごりっと前立腺を押し込み、射精も出来ないのに腰を浮かせてしまう。

「イくっ! ぁ……待って、今イっ……た、ぁああっ! ぁ、はぁっ……はぁっ……」

五個目の卵は四個目の卵と当たり、カチッと子気味いい音を立てる。絶頂したばかりの身体を無理矢理起こし、すぐに二つの卵を拾ってヒビが入っていないか確かめる。

「…………よかった、大丈夫だ……ごめんね、当てちゃって。びっくりしたよね」

鶏が産むような白い卵に、艶のある黒い卵。二つをシャルが作ってくれた卵置き場に置く。毛布を丸めただけの鳥の巣のようなそれに、卵が五つ並んでいる。

「それで全部か? サク、頑張ったな」

大きな手が背後から迫ってきたのに気付き、慌てて尻尾で叩いた。しかしシャルのように魔力でコーティングする術を知らない俺は、敏感な性感帯を自ら叩きつけることになり、脊椎を雷に打たれたような快楽のお返しをもらった。

「イっ……! く……ぅっ……ふぅ、ふぅっ……」

「サク? 大丈夫か?」

「ぁ、さっ、触らないで!」

二メートル半を超える巨体が危険な外敵に思えて、卵達に覆いかぶさりながら叫ぶ。

「……サク?」

「え? ぁ……アルマ? アルマっ? ご、ごめ……違う、違うのアルマぁっ、違うっ! 俺の、俺の意思じゃなくてぇっ、身体が勝手に……!」

きょとんとしたアルマの顔に警戒心が解け、すぐに抱きついて泣きながら弁解する。

「あ、あぁ……大丈夫、大丈夫だよ。サクのせいじゃない。力で無理矢理孕ませるような最低なドラゴンのせいだ、サクはそんな卵を必死に守ろうとして偉いよ」

大きな腕は俺を優しく抱き締めてくれる。大きな手は力加減に気を遣いながら俺を撫でてくれる。俺にも卵にも危害を加えたりなんてしない。知っているはずなのに、先程はとても怖かった。

「はぁーっ……やっと終わったか。サク、痛覚返すぜ。はぁ……ったく、死ぬかと思った」

「カタラ……」

「なんでお前は俺ばっか気にしてんだよ、サクについとけって言ったのに。サークっ、卵見せてくれ」

産卵中、俺の痛みを消してくれていたカタラが何故か気まずそうなネメスィと共にやってくる。アルマの膝に座ったまま毛布で包んだ卵を膝に乗せ、みんなに卵を見せる。

「おー、これまたバリエーション豊かだな」

「同じ種類のドラゴンの卵は同じ見た目のはずだが」

「例外もあるんだろ。証拠がここにあるんだからさ、論や説より確かだろ?」

「まぁな……カタラ、お前身体は平気なのか?」

「何が? なんともないぞ」

ネメスィは先程からずっとカタラのことを気にしているようだ。しかしカタラは元気そうだし、ネメスィのことを鬱陶しがるような仕草も見せている。

「先輩にも見せたい……先輩?」

『なんだ? 俺ならここから見てるぞ』

先輩はアルマの肩越しに俺達を上から見ていた、ベッドの上に立っているらしい。

「そこに居たんですか。しょっちゅう見えないとこ行きますね……」

「兄さん? 先輩さん居ましたか?」

「上見てみろよ」

細長い卵をよく見るとハートのような模様がある。丸っこい卵にも薄らとハート模様がある。微かな模様をみんなに見せるとみんな笑みを零した。

「間違いなく、サクの卵だな」

「お前の羽にそっくり」

ネメスィは俺の頭羽を掴み、カタラは腰羽を指した。

「ハート柄の卵かぁ……ふふ、可愛らしいね」

「こっちのはちょっと紫っぽくありませんか? 細長い方はハート黒っぽく見えますけど」

シャルの言う通り、細長い卵のハートは黒く、丸っこい卵のハートは紫色に見える。しかしハート柄自体が微かな模様のため、判別は非常に難しい。

「うーん……言われてみれば?」

「じゃあこれは僕と兄さんの愛の結晶ということでよろしいでしょうか」

「な訳ねぇだろ」

すかさずカタラが冷静な言葉を投げ、シャルに睨まれる。

「…………でも、この卵達、君達の特徴に合っていないかい?」

穏やかな空気は査定士の一言で一変する。

「え? いや、そんな……でも、確かに」

ハート柄の卵二つ、しかも黒と紫。赤くザラついた大きな卵。真っ黒い卵に真っ白い卵。

「待て、ドラゴンと交尾したのはサクだけだ。サクがドラゴンの卵の生成を可能にさせられたんだ、俺達が混じるなんてありえない」

「……ドラゴンと交尾した後は、俺達とした。サクがドラゴンの子を孕みたいなんて思うわけない! 俺達とした時に思っちまって、その時に出来たなら……混じってもおかしくない」

「カタラ、お前は黙ってろ。ドラゴンの生態なんて何も知らないくせに中途半端な魔力知識を突っ込むな」

「…………んっだよ偉そうに! 叔父が魔神王だか何だか知らねぇけどなぁ! お前が偉い訳じゃないんだからな!?」

「ドラゴンについては俺の方が知識がある、状況に対応できる知識を持つ者が偉そうで何が悪い。そもそも! 俺は勇者でお前はその所有物、お前と俺は初めから対等じゃない」

カタラがネメスィの胸ぐらを掴む。ネメスィは当然抵抗し、二人がふらついて倒れ込んでくる。

「ぁ、やだっ、卵……!」

俺は咄嗟に卵を庇ったが、倒れてきた二人はアルマが腕を突き出して止めてくれた。

「……サク、大丈夫。サクと卵は俺が守ってみせる、夫の俺がな」

「…………随分トゲのある言い方するじゃねぇか旦那」

「苛立っているからって誰彼構わず噛み付くのはやめたらどうだ」

カタラは黙り込み、青い瞳を不愉快そうに歪ませる。よく見ると彼の顔色は悪い、いつも悪いから気付かなかったがいつもより悪い。

「カタラ……? 顔色、悪いよ?」

「……るっせぇ」

「カ、カタラ……?」

「ぁ……いや、平気だ、カタラさんは大丈夫だぞーサクー」

朗らかな微笑みもいつものようなキレがない。心配しているとネメスィがカタラを突き飛ばし、ベッドに転がした。

「ネメスィっ!? 何してるんだよ!」

「……カタラはさっきお前の痛覚を奪っていたせいで弱ってるんだ。鋭くさせるならまだしも、奪うなんて大技……魔力消費が多過ぎる」

カタラはネメスィを睨んでいるが、起き上がる気力もないようだ。ネメスィはそんなカタラの腹を撫でる。

「………………弟に催淫でもやらせればよかったんだ、それで十分に痛みは誤魔化せたはずだ。お前が代理になることなかっただろう」

ネメスィはどこか悲しげに呟くとカタラの顔を撫で、瞼を閉じさせた。

「……もう寝ろ」

「…………お節介焼きめ」

ほどなくしてカタラは静かな寝息を立て始める。

「しかし、何だ……ありえないとは思うが、もし卵が俺達の特徴を引き継いでいるとしたら、俺のはその黒いのか? 本性を引き出すとは性格が悪い、金色がよかったな」

カタラとの一件をはぐらかすように、珍しいおどけた口調。
鶏が産むような白い卵をよく見ると、銀粉を巻いたような輝きがあった。
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