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ようやく一時的に解放される

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仕事部屋に居るだろう査定士を探したが彼は仕事机には居らず、ソファで小物の鑑定をしていた。骨董品か何かだろう、手袋をして眼鏡をかけて真剣な顔をしている。

「……おや、サク。どうかしたのかい? 君の旦那様は部屋に戻っているはずだよ」

「シャル、どうかなって……」

シャルは査定士の太腿を枕にしてソファで眠っている。柔らかそうな毛布に包まり、顔だけを出した姿は愛らしい。

「この通りぐっすりだよ」

「……あなたには随分懐いてるよな、シャル」

「そんな顔しなくてもイタズラはしていないよ、だからこそ懐いてくれているんだしね」

鑑定品を机に置き、手袋と眼鏡を外す。皺が目立つ血管が浮いた手で頬を撫でられたシャルはぷるぷると頭羽を揺らした。

「シャルに俺以外の人とも仲良くするようにって言ったんだ。シャルには辛いことかもしれないから気にしてたんだけど……」

「……そうだね、この子は君以外と接するのは苦手だ。特に感情の言語化が苦手らしくてね、私と接する時はいつも何も言わないんだよ」

「何も言わない……?」

それでも膝枕をするほど仲良くなれるものなのか? 俺の考えが表情で伝わったのだろう、査定士は俺に向かいのソファに座るよう促した。

「シャルにいつもどうしてるんだ? カタラとかネメスィとかとも仲良くして欲しくて、シャルと仲良くするコツ教えたら向こうから歩み寄ってくれるかなって」

「お兄ちゃんだね、サク」

「……茶化さないでくれ」

「あぁ、ごめんね。茶化したつもりはないんだよ、ただ微笑ましくて」

頭羽を垂らして眠っているシャルを数秒見つめてから俺に視線を戻し、査定士はゆっくりと話し始めた。

「まず、シャルと接する時は可能な限り軽装になる。ポケットに入っている物を全て見せて、手のひらを広げて何も持っていないことを示す」

シャルは観光地の鹿か何かか?

「敵意の有無の確認として夢を見せてくることがあるから、眠らされても大丈夫なよう、椅子だとかに咄嗟に座れる位置でやるのもコツだ」

「……警戒心強いんだな」

「そうだね。だからシャルに触れるまで手はシャルの視界から外してはいけない。素早く動くのもダメだ。会話は苦手だから一方的に話すか、無言で撫でるのがいい。撫でる位置には好みがあるから慎重にね」

査定士は覚え書き用だろう紙を一枚出し、そこに棒人間を描いて羽を四枚と尻尾を一本生やした。

「まず、尻尾、腰周り、胸元、目鼻口は絶対ダメだ。君の目の前でない限り、言葉で確認してからでない限り、殺されても文句は言えない」

今言った箇所を黒色のペンで塗り潰す。

「足は嫌い、手も嫌い、頭は好き、羽はどうでもいい、顎の下は好き、喉は気分による、鎖骨は嫌い、お腹も嫌い、背中は好き……」

赤いペンで嫌いな部分を塗り、どうでもいい部分は白いまま、シャルの早見表が出来上がった。

「……ちなみに、シャルは咄嗟に殺せない相手と接するのをとても嫌がるから、どちらにせよ強い彼らには近寄りたがらないよ」

野生動物らしさを感じてしまうけれど、野生と言えば野生なので仕方ないとも思う。

「難しいかな……」

「一緒に過ごしていればそのうち慣れるよ」

「だといいけど」

席を立ってシャルの前に屈み、幼い寝顔に触れる。親指の腹で唇を撫でるとシャルはうっすらと目を開け、微笑んだ。

「にぃさん、にーさん、にぃさん……兄さん、おはようございます」

「おはよう、もう昼過ぎだぞ」

シャルが起き上がると査定士は仕事道具などを片付け、また戻ってきた。座る前に手のひらをシャルの方へ向けていたのも、シャルが横目で査定士を見ていたのも、査定士の話を聞かなければ気付けないほど自然な動きだった。

「兄さん、隣に座ってください」

無邪気に微笑むシャルは俺以外の者には──懐いている査定士にさえ──強い警戒心を抱いている。シャルが無警戒で甘えるのは俺だけ、たまらない優越感だ。

「ごめんな、寂しくなかったか?」

「とても寂しかったです……兄さん」

「でも俺以外と仲良くしてたんだな、お願い聞いてくれててお兄ちゃん嬉しいぞ」

頬を撫でながら唇を撫で、鼻筋をなぞり、閉じた瞼に優しく触れる。

「……兄さん?」

もう片方の目を開けて不思議そうにするだけで、嫌がる素振りは見せない。胸元に手を移して尻尾同士を絡めるとほんのりと頬を赤らめた。

「兄さん……」

査定士曰く「絶対ダメ」なところは、俺にしか触らせたくないのだろう。そう考えてほくそ笑みながら胸から脇腹を通って腰を撫で、柔らかく小さな尻を鷲掴みにした。

「いいですよ、兄さん……好きなようにしてください」

きっと殴っても嫌がったり泣いたりするだけで反撃はしてこないのだろうと思うと、生唾を呑み込んだ。

「シャル、俺さっきまでアルマに抱かれててさ……おなかいっぱいなんだよ、だからさ……その、そろそろ射精させてくれないか?」

「兄さん、射精を禁止しているのは射精の快感を忘れるためでもあるんですよ? 精液を出しちゃお腹が空きますよね、お腹を空かせる行為を好んでいては危険でしょう? 特に兄さんは快楽に弱い……旦那さんが居たって他の男と寝るんですからね」

「…………インキュバスなんだからしょうがないじゃん」

シャルにも査定士にも聞こえない声で呟き、シャルの手を掴んで足の間に引っ張る。

「……シャル、快楽に弱くて結婚しても他の男と寝てばっかりの淫乱な俺は嫌い?」

「いえ、もちろん大好きですよ」

「なら俺のお願い聞いてくれないか?」

「兄さん……もう、ずるい人ですね」

太腿に挟んだシャルの手に微かな光が灯る。その光はすぐに消え、俺の体に何か変わったことも起こらなかった。

「これで射精禁止の術は解けましたけど、床とかに適当に零すのはやめてくださいね。ちゃんと器に出して、後で飲むんですよ」

「……自分で自分の飲むのやだな」

「じゃあ僕に渡してください」

「直接とかさ、かかったもの舐められるとかさ、それならまだいいけど……器に出したもん飲ませるとか、そういうプレイじゃん」

シャルは「そういうプレイに何か問題が?」とでも言いたげな瞳で俺を見つめる。

「いいねぇそれ。兄の精液をコップから飲む弟……とてもイイ」

査定士は乗り気だし……なんなんだこの人。

「それで、兄さん。記念すべき久しぶりの精液はどうやって出したいんですか?」

「へっ? ぁ……いや、特に考えてないけど」

射精したいとは考えてもどう射精したいかを考える奴はそうそう居ないと思う。

「また私が口でしてあげようか?」

「あ、おじさんずるーい……僕も兄さんが望むなら兄さんに喉を犯されたって構いませんよ?」

「ふふ、口淫にはそれなりに自信があるけれどインキュバスに勝つ自信はないかな」

「兄さん、どっちの口にします? 僕のおすすめは僕です」

査定士には少し前にされた。またいつかしてもらいたいと思っていたが、シャルの口を試したい気もしている。弟にしゃぶらせる背徳感への期待も大きい。

「それじゃ、シャル……頼めるか?」

「やったぁ。兄さん、僕を選んでくれて嬉しいです、大好きですよ、兄さん」

ペラペラと純粋で病んだ愛を伝えてくる口、薄桃色の唇が可愛らしいそれは小さい。

「兄さんは座っていてくださいね。あ、立って腰を振って僕の喉を犯したいですか?」

「いや、可愛い弟にそんなこと出来ないって」

小さな口に入るよう、細い首を痛めないよう、性器は小さくしなければ。インキュバスは性器の大きさを操れる、俺は不得意だがシャルのために頑張らなければ。

「前は出せるようにしていないので、ここを外して、脱がして……」

ジーンズを脱がされ、性器が露出する。

「わ……! おっきくしてますね、兄さん」

小さくなれ、小さくなれ、そう心の中で何度も唱えているのに俺の陰茎は膨らんでいく。勃起という意味ではない、大きさが変わっていく。

「…………ごめん」

小さな口に入り切らずに苦戦しているところが見たい、そんな深層心理が反映されてしまっているのだろう。恥ずかしい限りだ。
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