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きゃんぷ、きゅう
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大荷物を抱えた叔父がやってくる。俺の視線を追った涼斗が叔父に気付き、俺に肉切り鋏を渡して走っていく。
「凪さん! 凪さん……そんなに大荷物だったんですか、ごめんなさい、僕も行くべきでした」
「いえいえ、全然手伝おうとしない使用人と、どこぞの犬が悪いんですよ」
使用人は叔父を徹底的に無視し、話しかけられれば侮蔑的な態度をとる。家出をした彼は部外者だからと割り切っているのだろう、誰も彼も仕事が出来るタイプだ。
「さ、涼斗さん。俺もうお腹ぺこぺこです。何か作ってください」
「バーベキューで何作るってんだよ、食いてぇならてめぇで焼けクズ」
「君に話しかけたつもりはないよ、犬なんとかさん」
睨み合う俺達をよそに涼斗は叔父が持ってきた荷物を漁り、手際良く調理を始めた。
「とりあえずアヒージョ作りますね、凪さん。雪也君、スキレットを取ってもらえますか?」
「……何語ですか?」
「ダメですよ涼斗さん、この犬は人間の言葉を覚えたてなんですから」
涼斗にも雪兎にも見えない位置で叔父のふくらはぎを思い切り蹴りつけた。
「ほらよりょーちゃん、ニンニク刻んどく?」
「あ、お願いします」
雪風は荷物の中からフライパンを取り出した。続けてニンニクを刻み始め、辺りにニンニク臭が漂う。
「……風? 涼斗さんが欲しいのはスキレットだよ、フライパンじゃない。それと勝手にニンニク触らないでよ、臭いんだけど」
「スキレットはフライパンだ。アヒージョ作るんならニンニク必須だろ。引っ込んでろ阿呆兄貴」
「えっ嘘……なんで名前違うの。えっ、アヒージョってニンニクいるの……?」
俺に散々言っておいて何も分かってなかったのかよ。
「人に嫌味言う前に知識つけたらどうですか?」
「言ってやるな真尋、仕事も家事も何一つしねぇニートなんだから仕方ねぇだろ」
「…………脱いだものを洗濯機に入れるくらいして欲しいです」
「そ、揃いも揃って俺を責めないでよ……! せめて涼斗さんは俺の味方であってくださいよ!」
反応も表情も雪風に少し似ている。兄弟だからだろう、腹立たしい。似ても似つかないくらいに顔を腫れさせてやりたいが、涼斗が包丁を持っている今は大人しくしていた方がいいだろう。
「叔父さん久しぶりぃー、お手伝いしないならこっち来てよ、食べる専門しよー」
背の低い雪兎と車椅子の祖父は火元に近付くのは危ないので食べる専門だ。パラソルを立てた日陰で優雅に食事を楽しんでいる。
「雪兎君……! ありがとう、君は父親に似ずいい子だね。でも顔はとても似ていて愛らしいよ」
不審者を雪兎に近付けてしまった。今すぐ取り押さえなければ──
「本当、昔の雪風にそっくり。可愛いねぇ……食べ頃……ふふ」
「おいカス、それ以上俺の孫に近付いたら撃つぞ」
──その必要はなさそうだ。祖父は実銃を構えている。
「おじいちゃん何してるの!」
「ふん、モデルガンだ。驚いたか? 来いよ、積もる話もあるだろ?」
祖父は銃を懐に戻す振りをして服の下に隠し、銃口を叔父に向けたままにこやかに話している。
「……ゆ、雪兎君、学校とかどんな感じ?」
俺が雪兎に食べさせるために丁寧に焼いていた肉を掠めとった叔父は恐る恐る日陰に入り、銃を気にしながら当たり障りのない話を始めた。
「いい匂い……それがアヒージョってやつですか?」
雪兎は祖父が守ってくれそうだし、俺は調理の手伝いをしよう。
「はい、大まかに説明すればオリーブオイルとニンニクで煮込んだものです。完成はまだですよ」
「涼斗さん料理お上手なんですね」
「凪さんには僕以外の人間が作った料理なんて食べさせられませんし……本音を言えば僕が育てた野菜や僕が育てた魚や動物だけを食べさせたいんですが、それは出来ませんし……できるだけ触れた人間が少なくて済むよう、直売所で買うようにしています」
この人サラッと異常者っぽさを出してくるから心臓に悪いんだよなぁ。雪風に癒しを求めよう。
「えっと……雪風、料理できたんだな」
「俺は器用だからな。味噌汁もニンニク刻むのも初挑戦だったがなんとかなってるぜ」
味噌汁は確かに美味かった。涼斗が何も言っていないということはニンニクの刻み方も合っていたのだろう。本当に器用なんだな。
「…………あの、涼斗さん、叔父さんって普段家で何してるんですか?」
「それを聞いてどうするんですか? 凪さんを狙っているなら今度こそ」
「いえ、涼斗さん負担かけられてないのか心配で。もし大変そうなら今日くらいゆっくりしてもらいたいです」
「……いい子ですね、ありがとうございます。凪さんは暇潰しと食事と睡眠とセックスしかしませんよ」
なんでそんな奴を好きでいられるんだ? いや、待てよ……暇潰しと食事と睡眠とセックス? 俺、同じ生活スタイルじゃないか?
「雪也君はああいう大人になってはいけませんよ。何をやっても許されるのは凪さんが美人だからなんですからね」
反面教師になるというのは叔父の唯一の長所かもしれない。
「凪さん! 凪さん……そんなに大荷物だったんですか、ごめんなさい、僕も行くべきでした」
「いえいえ、全然手伝おうとしない使用人と、どこぞの犬が悪いんですよ」
使用人は叔父を徹底的に無視し、話しかけられれば侮蔑的な態度をとる。家出をした彼は部外者だからと割り切っているのだろう、誰も彼も仕事が出来るタイプだ。
「さ、涼斗さん。俺もうお腹ぺこぺこです。何か作ってください」
「バーベキューで何作るってんだよ、食いてぇならてめぇで焼けクズ」
「君に話しかけたつもりはないよ、犬なんとかさん」
睨み合う俺達をよそに涼斗は叔父が持ってきた荷物を漁り、手際良く調理を始めた。
「とりあえずアヒージョ作りますね、凪さん。雪也君、スキレットを取ってもらえますか?」
「……何語ですか?」
「ダメですよ涼斗さん、この犬は人間の言葉を覚えたてなんですから」
涼斗にも雪兎にも見えない位置で叔父のふくらはぎを思い切り蹴りつけた。
「ほらよりょーちゃん、ニンニク刻んどく?」
「あ、お願いします」
雪風は荷物の中からフライパンを取り出した。続けてニンニクを刻み始め、辺りにニンニク臭が漂う。
「……風? 涼斗さんが欲しいのはスキレットだよ、フライパンじゃない。それと勝手にニンニク触らないでよ、臭いんだけど」
「スキレットはフライパンだ。アヒージョ作るんならニンニク必須だろ。引っ込んでろ阿呆兄貴」
「えっ嘘……なんで名前違うの。えっ、アヒージョってニンニクいるの……?」
俺に散々言っておいて何も分かってなかったのかよ。
「人に嫌味言う前に知識つけたらどうですか?」
「言ってやるな真尋、仕事も家事も何一つしねぇニートなんだから仕方ねぇだろ」
「…………脱いだものを洗濯機に入れるくらいして欲しいです」
「そ、揃いも揃って俺を責めないでよ……! せめて涼斗さんは俺の味方であってくださいよ!」
反応も表情も雪風に少し似ている。兄弟だからだろう、腹立たしい。似ても似つかないくらいに顔を腫れさせてやりたいが、涼斗が包丁を持っている今は大人しくしていた方がいいだろう。
「叔父さん久しぶりぃー、お手伝いしないならこっち来てよ、食べる専門しよー」
背の低い雪兎と車椅子の祖父は火元に近付くのは危ないので食べる専門だ。パラソルを立てた日陰で優雅に食事を楽しんでいる。
「雪兎君……! ありがとう、君は父親に似ずいい子だね。でも顔はとても似ていて愛らしいよ」
不審者を雪兎に近付けてしまった。今すぐ取り押さえなければ──
「本当、昔の雪風にそっくり。可愛いねぇ……食べ頃……ふふ」
「おいカス、それ以上俺の孫に近付いたら撃つぞ」
──その必要はなさそうだ。祖父は実銃を構えている。
「おじいちゃん何してるの!」
「ふん、モデルガンだ。驚いたか? 来いよ、積もる話もあるだろ?」
祖父は銃を懐に戻す振りをして服の下に隠し、銃口を叔父に向けたままにこやかに話している。
「……ゆ、雪兎君、学校とかどんな感じ?」
俺が雪兎に食べさせるために丁寧に焼いていた肉を掠めとった叔父は恐る恐る日陰に入り、銃を気にしながら当たり障りのない話を始めた。
「いい匂い……それがアヒージョってやつですか?」
雪兎は祖父が守ってくれそうだし、俺は調理の手伝いをしよう。
「はい、大まかに説明すればオリーブオイルとニンニクで煮込んだものです。完成はまだですよ」
「涼斗さん料理お上手なんですね」
「凪さんには僕以外の人間が作った料理なんて食べさせられませんし……本音を言えば僕が育てた野菜や僕が育てた魚や動物だけを食べさせたいんですが、それは出来ませんし……できるだけ触れた人間が少なくて済むよう、直売所で買うようにしています」
この人サラッと異常者っぽさを出してくるから心臓に悪いんだよなぁ。雪風に癒しを求めよう。
「えっと……雪風、料理できたんだな」
「俺は器用だからな。味噌汁もニンニク刻むのも初挑戦だったがなんとかなってるぜ」
味噌汁は確かに美味かった。涼斗が何も言っていないということはニンニクの刻み方も合っていたのだろう。本当に器用なんだな。
「…………あの、涼斗さん、叔父さんって普段家で何してるんですか?」
「それを聞いてどうするんですか? 凪さんを狙っているなら今度こそ」
「いえ、涼斗さん負担かけられてないのか心配で。もし大変そうなら今日くらいゆっくりしてもらいたいです」
「……いい子ですね、ありがとうございます。凪さんは暇潰しと食事と睡眠とセックスしかしませんよ」
なんでそんな奴を好きでいられるんだ? いや、待てよ……暇潰しと食事と睡眠とセックス? 俺、同じ生活スタイルじゃないか?
「雪也君はああいう大人になってはいけませんよ。何をやっても許されるのは凪さんが美人だからなんですからね」
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