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きゃんぷ、ろく

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雪兎が腹が減ったと言い出したのでゲームを切り上げ、散らかしたカード類を片付けていく。幾つも開けて片付けずに次のゲームに移っていたから混ざってしまって大変だった。

「ユキ、真尋、先に行って準備しとけ。俺は親父を車椅子に乗せなきゃなんねぇ」

「自力で乗れる」

「這いずり回っちゃ親父の嫌いな埃まみれになるぞ? 遠慮すんなってー」

雪風は祖父を軽々抱えて使用人が用意していた車椅子の方へ運んだ。雪兎に手を引かれるがままに外に出れば肉の焼ける匂いが鼻に届く、使用人が準備をしてくれているのだろうかと煙と匂いの元へ走る。

「……誰?」

肉を焼いていた細身の男を見て雪兎が首を傾げる。彼は長い前髪で目を隠している上、マスクをしていて顔がよく見えない。

「あ、こんにちは。雪也君、雪兎君、焼けてますよ」

「涼斗さん? えっと……どうしてここに」

「凪さんが突然キャンプに行こうと言い出して……」

「…………ポチとおじいちゃん殴った人?」

叔父の恋人だと認識した雪兎は俺の背後に隠れる。涼斗は俺の前に屈み、雪兎と視線を合わせた。

「はい……ごめんなさい。あの時はどうかしていたんです。僕、思い込むと突拍子もないことしてしまう悪癖があって……ごめんなさい、許してくれませんか?」

「…………いいよ。ポチ治ったし、おじいちゃんも手治ったし……許してあげる」

骨折した手がそんなに早く治るものだろうかとは思うが、実際祖父は右手を普通に使っていた。

「叔父さんはいないの?」

「もうすぐ来ると思います。車からお肉とかを取ってきてくれてるんですよ」

「……涼斗さん、ユキ様お願いできますか? おじい様の車椅子、ロッジの段差を下ろすの大変だと思うので手伝ってきます」

「分かりました。雪兎君、お皿とお箸です。好きな物取って食べてくださいね」

精神面が不安定ではあるが、基本的には温和らしい。その不安定さも叔父が原因だろう、叔父は諸悪の根源だ。
俺はロッジではなく駐車場に向かい、煙草らしき何かを吸っている叔父を見つけた。

「……死ねっ!」

見つからないよう後ろから忍び寄り、思い切り背中を蹴り飛ばしてやった。

「いったぁ……何? あ、犬なんとかさん……いきなり蹴るなんて相変わらず躾のなっていない犬だね」

起き上がった叔父は何も持っていない指を口元に持っていき、驚いて地面に這いつくばった。

「ちょっと君が蹴ったせいでどっか飛んでっちゃったじゃん! あれ一本いくらすると思ってるんだよこのバカ犬!」

「知らねぇよ! お前荷物取りに来たんじゃねぇのかよ! 何吸ってんだよ!」

「ギリギリ合法的なものだよ! それでも涼斗さんに見つかると泣かれかねないからこっそり吸ってたのに……あぁもう探して! 拾われてもまずいから!」

本当に合法なのだろうか。

「……あった! ふぅ……よかった」

煙草もどきを見つけた叔父は火が消えているそれをポケットに突っ込み、俺の足を踏んで睨みつけてきた。その瞳は赤と青のオッドアイ、髪は銀色だが顔だけは雪風と瓜二つで見とれてしまう。それがまた腹立たしい。

「お前なんでここ来てんの?」

「何人かの使用人の弱味握ってるからね、君達が旅行することくらい分かるよ」

「……なんで来たんだよ」

叔父の足は俺の爪先をぐりぐりと踏んでいる。痛いし不快だが、何もせずに余裕ぶった笑みを睨み続ける。

「血は繋がってるんだし、家族団欒に入れて欲しくてね。涼斗さんはともかく俺は暇だったし」

「雪風と雪兎に近付いたらその綺麗な顔網に叩きつけてやるからな」

踏まれていない方の足で、俺の足を踏んでいない方の叔父の足を踏みつける。叔父は一瞬眉をひそめたが、すぐに腹の立つ笑顔に戻った。

「綺麗? ふふ、ありがとう。君に口説かれたって涼斗さんに自慢しないとね」

「俺も涼斗さんにお前がヤバいクスリやってたって言わねぇとな」

「合法だって言ってるだろ?」

「後々非合法になりそうな予感がするけどなぁ」

勢いよく額をぶつけあってゴッという音を鳴らし、変わらず俺を睨んでいる叔父の涙目を睨み返す。

「硬い頭してるね、そりゃ殴られても平気なわけだ。脳みそ小さそうだね」

「お前は脳みそデカくてもツルツルなんだろうな」

「調子に乗るなよこの脳みそ三グラム」

「じゃあお前はIQ3だな」

それのどっちが賢いのかは俺も叔父もよく分かっていない。

「いい加減にしてくれないかハムスター野郎、俺は君みたいなのに構う暇ないんだよ」

「おいおいおい暇すぎてこんなとこまで来たんだろ? 甥っ子に構ってくれよサボテンおじさん」

きっと雪風と祖父はもう雪兎と合流したのだろう。そう思いつつも俺は叔父と罵りあい、雪兎が来るまで弱い頭突きを繰り返していた。
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