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きゃんぷ、に
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緩やかではあるが川には流れがあり、岩場も多い。何かあってからでは遅いので泳ぐ雪兎の手をずっと掴んでいる。バタ足をして楽しそうだ。
「ポチ、手離してみて」
「危ないのでダメです」
「大丈夫だよー! 僕泳げるから!」
首を横に振っていると雪兎はぷくっと頬を膨らませた。
「おや怖い、テトロドトキシン君のお出ましですか?」
「フグっぽいならフグっぽいって言ってよバカぁ!」
川底に立った雪兎は俺の手を振り払い、俺の胸をぽこぽこと叩く。頭を撫でてやると頬を膨らませたまま大人しくなった。
「もしも流されたら大変ですから、ね?」
「僕泳げるよ、流されたりしない」
俺も大丈夫だろうとは思うけれど、油断は禁物だ。プールで溺れたなら俺が助けられるけれど、川で溺れたなら俺は助けられないかもしれない。
「ユキ様にもしものことがあったら俺、悲しくてどうにかなっちゃいますよ。心配なんです、分かってくれませんか?」
「……ポチは僕を信用してないの?」
「ユキ様が泳ぎがお上手だろうというのは分かります、今度プールだとかで見せてください。浅いですし、岩も多いですし、この川はユキ様の泳ぎには役不足ですよ」
「……分かった」
頬の膨らみもなくなって俺に抱き着いてくる。可愛らしい主人の頭を撫でると雪兎は俺の手を掴み、不満そうな顔をした。
「ポチの手、直接がいいな」
「俺もそう思ってますよ。お昼ご飯の時にでも脱ぎましょうか」
「うん、いっぱい撫でてね。今は泳ごっ、もっと奥行こうよ」
「ダメですよ、危ないですって」
雪兎がいくら俺を押しても俺は動かない。けれどそれでは雪兎はまた機嫌を損ねるかと、一歩くらい下がってやろうと足を浮かせた。
「……っ!?」
体重のかけ方を変えたせいか踏んでいた大きめの石がぐらつき、俺は大きな水飛沫を上げて転んでしまった。
「ポチ!? ポチ、ポチ大丈夫!?」
慌てた雪兎に腕を引っ張られたが、ここは座り込んでも肩から上は出るような浅瀬だ。
「ごめんねポチ、転ぶと思ってなかったんだ。大丈夫? ごめんね、どこか打ってない? 大丈夫?」
相当焦っているようだ、悪いことをしてしまったかな。
「俺は大丈夫ですよ、ありがとうございます。ユキ様、力が強くなりましたね」
「そうかなぁ……ポチが今みたいに転んじゃったら危ないし、浅瀬で遊ぼっか」
納得してくれたなら良かった。雪兎はそのまま浅瀬に留まり、俺に手を引かれての泳ぎにも満足している。
「ポチ、ポチが泳いでみてよ。僕が手繋いであげるから」
「俺? まぁいいですけど……」
役割を交代し、雪兎に手を引かれて軽いバタ足をする。
「えへへー、水の中なら僕でもポチ引っ張れるね」
重たい俺を引っ張ることが出来てご満悦のようだ。歳相応の無邪気な微笑みを見せる雪兎を褒めていると意地の悪い声が聞こえてきた。
「なんだ犬、お前泳げないのか? どんなに鈍臭い犬でも水に放り込めば犬かきくらいするものだがな」
川辺の方を見れば車椅子に乗った子供……じゃなくて、祖父が居た。相変わらず見た目が幼い。
「おじいちゃん! おじいちゃんどうしたの? おじいちゃん来た! おじいちゃん!」
「わっ、ちょっとユキ様……」
祖父の姿にはしゃいだ雪兎は俺の手を離して川から上がり、祖父の前で飛び跳ねた。
「おじいちゃんも泳ごうよ! ほら来て、僕が手引っ張ってあげるから!」
「は!? ちょっ……ま、待て! そんな雑菌だらけの水に入れるか! 手を引っ張るな!」
はしゃぎ過ぎたあまり祖父の声が聞こえなくなっているらしい。そろそろ止めなければ。
歳不相応のはしゃぎ方をする雪兎を止めるため、俺も川を上がった。
「ポチ、手離してみて」
「危ないのでダメです」
「大丈夫だよー! 僕泳げるから!」
首を横に振っていると雪兎はぷくっと頬を膨らませた。
「おや怖い、テトロドトキシン君のお出ましですか?」
「フグっぽいならフグっぽいって言ってよバカぁ!」
川底に立った雪兎は俺の手を振り払い、俺の胸をぽこぽこと叩く。頭を撫でてやると頬を膨らませたまま大人しくなった。
「もしも流されたら大変ですから、ね?」
「僕泳げるよ、流されたりしない」
俺も大丈夫だろうとは思うけれど、油断は禁物だ。プールで溺れたなら俺が助けられるけれど、川で溺れたなら俺は助けられないかもしれない。
「ユキ様にもしものことがあったら俺、悲しくてどうにかなっちゃいますよ。心配なんです、分かってくれませんか?」
「……ポチは僕を信用してないの?」
「ユキ様が泳ぎがお上手だろうというのは分かります、今度プールだとかで見せてください。浅いですし、岩も多いですし、この川はユキ様の泳ぎには役不足ですよ」
「……分かった」
頬の膨らみもなくなって俺に抱き着いてくる。可愛らしい主人の頭を撫でると雪兎は俺の手を掴み、不満そうな顔をした。
「ポチの手、直接がいいな」
「俺もそう思ってますよ。お昼ご飯の時にでも脱ぎましょうか」
「うん、いっぱい撫でてね。今は泳ごっ、もっと奥行こうよ」
「ダメですよ、危ないですって」
雪兎がいくら俺を押しても俺は動かない。けれどそれでは雪兎はまた機嫌を損ねるかと、一歩くらい下がってやろうと足を浮かせた。
「……っ!?」
体重のかけ方を変えたせいか踏んでいた大きめの石がぐらつき、俺は大きな水飛沫を上げて転んでしまった。
「ポチ!? ポチ、ポチ大丈夫!?」
慌てた雪兎に腕を引っ張られたが、ここは座り込んでも肩から上は出るような浅瀬だ。
「ごめんねポチ、転ぶと思ってなかったんだ。大丈夫? ごめんね、どこか打ってない? 大丈夫?」
相当焦っているようだ、悪いことをしてしまったかな。
「俺は大丈夫ですよ、ありがとうございます。ユキ様、力が強くなりましたね」
「そうかなぁ……ポチが今みたいに転んじゃったら危ないし、浅瀬で遊ぼっか」
納得してくれたなら良かった。雪兎はそのまま浅瀬に留まり、俺に手を引かれての泳ぎにも満足している。
「ポチ、ポチが泳いでみてよ。僕が手繋いであげるから」
「俺? まぁいいですけど……」
役割を交代し、雪兎に手を引かれて軽いバタ足をする。
「えへへー、水の中なら僕でもポチ引っ張れるね」
重たい俺を引っ張ることが出来てご満悦のようだ。歳相応の無邪気な微笑みを見せる雪兎を褒めていると意地の悪い声が聞こえてきた。
「なんだ犬、お前泳げないのか? どんなに鈍臭い犬でも水に放り込めば犬かきくらいするものだがな」
川辺の方を見れば車椅子に乗った子供……じゃなくて、祖父が居た。相変わらず見た目が幼い。
「おじいちゃん! おじいちゃんどうしたの? おじいちゃん来た! おじいちゃん!」
「わっ、ちょっとユキ様……」
祖父の姿にはしゃいだ雪兎は俺の手を離して川から上がり、祖父の前で飛び跳ねた。
「おじいちゃんも泳ごうよ! ほら来て、僕が手引っ張ってあげるから!」
「は!? ちょっ……ま、待て! そんな雑菌だらけの水に入れるか! 手を引っ張るな!」
はしゃぎ過ぎたあまり祖父の声が聞こえなくなっているらしい。そろそろ止めなければ。
歳不相応のはしゃぎ方をする雪兎を止めるため、俺も川を上がった。
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