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ふたまた、じゅういち

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真っ白い髪、真っ白い肌、それらを汚した白濁液に、ぱちくりしている赤紫の瞳。

「…………え?」

雪兎は顔に精液をかけられたことを数秒間認識出来なかった。顔を洗うようにそっと手で拭い、白い手には目立たないだろう白濁液を眺める。

「……ポチ」

「く、くぅん……」

「ポチ」

「…………申し訳ございませんでした」

赤紫の瞳はキッと俺を睨む。怒られると察した俺は気まずさに縮こまるが、お仕置きを期待した愚息は射精を終えたばかりだというのにもう膨らんだ。

「はぁ……別にいいよ、寸止めが上手くいかなかったのは僕の不手際だからね。飼い犬の射精タイミングも操れないなんて、飼い主失格だよ」

よく分からない落ち込み方をしている。怒られなかったのは嬉しいが、お仕置きは欲しい。

「あ、じゃあ許していただける感じですか?」

「……僕そもそもポチには怒ってないよ。顔洗ってくる」

「舐めましょうか?」

「…………気分乗らない」

シャワー室に向かい、十数分して戻ってきた雪兎は床に落ちていた制服のズボンを拾って寝室を出ていった。

「えっちょユキ様!」

慌てて追いかけ、仕事中の雪風の机の前で捕まえる。犬耳カチューシャに犬尻尾バットジュエル、肉球付きの手袋と靴下、それらだけを着けてほぼ全裸の俺を見てなのか雪風が飲んでいたコーヒーを吹き出した。

『社長!? 社長、どうしたんですか!』

部下の声が聞こえる。やばい、真剣に雪兎と話したいのに俺まで笑いがこみ上げてきた。

「待ってくださいよユキ様、どこ行くんですか?」

「部屋帰る、離して」

「俺も一緒に行っていいですよね?」

「……遊んであげないよ。それでもいいなら来なよ」

気分屋にも程がある。まぁ、まだ子供だ、仕方ない。

「もちろん構いませんよ、俺はユキ様と遊びたいだけじゃありません。ユキ様が大好きだからユキ様と一緒に居たいんです、何もしなくたって傍に居るだけで心が温かくなります」

「ポチ……嬉しい」

もう機嫌が治った。ふにゃりと微笑んでいて可愛らしい。

「んふっ……ふふっ、ふっ……」

愛おしさが溢れて雪兎を抱き締め、雪兎も抱き返してくれたが、雪風が肩を震わせて笑っているのが気になって仕方ない。

「ふ、ふはっ……ケ、ケツにんなもん突っ込んでんのによくそんなセリフ吐けるな、性欲百パーじゃねぇか……んふふっ、心が温まっても体寒いだろそれ、ふふ、ふへへっ……」

人が真剣な話をしている時に──いや、人が真剣に仕事をしている時に妙な格好でいる俺が悪いのか? どちらにせよ部下とチャット中に突っ込むとか言うのが非常識なのは揺るぎない。

「……雪風の、ばかぁっ!」

俺の腕の中から抜け出した雪兎が雪風の元へ走り、キャスター付きの椅子を思い切り押した。

「うわわわ……ちょっと楽しかった」

零しては危ないので机の端に置かれていたコーヒーを飲み干し、親子喧嘩を見守る。

『あれ……社長がちっちゃくなった』
『遊園地で変な取引見たんでしょう』
『いや息子だろ』

おっと、これ以上は放送事故だ。マイクもカメラも切っておこう。

「茶化さないでよ! せっかくポチがいいこと言ってくれてたのに!」

「んっだよ仕事中に全裸でうろつくな! せめて勃起なんとかしろ!」

「雪風が昼間に抜いてあげないから治まらないんだよ!」

「抜いたわ! 抱かれたわ! 死にかけたわ!」

いつものことだが親子喧嘩で一番ダメージを負うのは俺なんだよなぁ。

「はぁ……もう……っておいなんでパソコンの電源切ったんだよ!」

「いやなんか見覚えのないアプリでよく分かんなくて」

「これ書類仕事だったらお前池に落としてたぞ……?」

特に被害はなかったようでよかった。雪風は電源ボタンに指を向かわせ──押さずに机から離れ、俺の手を掴んだ。

「今日はもう仕事いいや。ヤろうぜ、真尋。ユキとは今日はしないんだろ?」

「はぁ!? ちょっと待ってよ、ポチは僕と部屋に帰るんだよ!」

「はぁ!? じゃあ俺一人でこの部屋居ろって言うのかよ、やだよ寂しいじゃん!」

少し前までずっと一人で過ごしていたくせに……いや、だからこそか。昨日も一昨日も俺達は三人で眠り、三人で朝食を食べた。それこそが家族のあるべき姿だ。

「よーし分かったじゃあ真尋に決めさせようぜ? お前だけ部屋に帰って俺とヤるか、お前と部屋に帰って悶々とするか、真尋!」

二人が同時に俺の腕を引っ張る。

「……三人で夕飯食べましょう」

「…………そういや飯まだだったな」

「お腹減ったかも……ポチ、流石。ちょっと待ってね、持ってきてもらうよ」

内心雪風と一緒に過ごしたかったのか、雪兎は軽い足取りで内線の電話を取った。
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