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さんかん、ろく
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美術の授業が始まり、画板を首にぶら下げた雪兎が目の前に立つ。
「好きな物描けってさ」
美術教師が持ってきた果物籠、花、瓶など。それらから選べという意味だと俺は思っていたが、雪兎の解釈は違っていた。
「静物じゃなくていいのか?」
「いーじゃん別に。ね、先生、お兄ちゃん描いてもいいよね?」
席を回っていた教師が近くに来たので雪兎と二人で彼を見つめる。
「次回以降は参観ではないので……見て描く、というのはできませんよ?」
「ぁ、そっか……お兄ちゃん連れてきちゃダメ? 描く物持ってくる子他にもいたよね?」
「それなら構いませんよ」
許可するな、父兄と言えど部外者だぞ。
「やった、じゃあお兄ちゃん、脱いで」
「ヌードはダメです」
「芸術の基本でしょ?」
「ここは教室なので……あなたが美術部に入り、そこで描くなら、美術室でなら脱いで構いませんよ」
雪兎はぷぅっと頬を膨らませたが、教師はそれを無視して他の生徒の元へ行った。
「家ならいくらでも脱ぐぞ?」
「……人前で裸にしたかったの」
芸術とは一体。
「いいからポーズ取ってよ。できればセクシーにね」
何度でも言うが、俺にセクシーさは一切ない。それでもいいなら……とポーズを考る。ネクタイを外す仕草がセクシーと言われる風潮を思い出し、足を組んで肘置きに左手を置き、右手でネクタイを引っ張った。
「ん、おっけー。じゃ、二時間動かないでね」
「……二時間?」
「三、四時間目は美術だよ? 時間割見てないの?」
そういえば俺の学校でも美術や家庭科などは二時間連続でやることも多かったな……失念していた、ネクタイを解く途中で止めた中途半端な左手がどうなることか。
最初こそふざけていたものの、真剣に俺を描く雪兎に話しかけるのは躊躇われる。静まり返った教室に紙の上を鉛筆が走る音だけが響く、雪兎もその音を奏でている、何と言うか……気まずい。
「……っ、はぁっ……ん……」
下腹が疼く。扱かれたい、突かれたい、雪兎にいじめられたい、そんな欲望ばかりが膨らむ。何とか意識を逸らせないかと目を閉じると、ひとつ空けて隣に座った保護者達の話し声が聞こえた。
「──さん、どうされたんでしょうか」
「帰ったんじゃないですか? お忙しい方ですし」
どうやら俺がトイレで転ばせた男の話をしているらしい。そう長く気絶しているとも思えないが、打ちどころが悪かったか教室に戻らず本当に帰ったか、前者だったら少し困るな。
「お兄ちゃん、目閉じないで」
「あぁ……はいはい、まばたきくらいは許せよ?」
雪兎の手元を覗きたいが、仕方ない。完成を待とう。
チャイムが鳴り、休み時間になると何人かの生徒がトイレに行ったり水分補給をしたりしていたが、雪兎は真剣に絵を描いている。
「……お兄ちゃんトイレ行きたいな」
「さっき行ったでしょ。静物より描くの多いんだから我慢して」
組んだ足の間で勃起した性器に五十分間の我慢の褒美を与えたかったのだが、六十分の我慢の追加を与えることになってしまった。
四時間目も終わる頃、雪兎が画板ごと紙を持ち上げて「できた!」と達成感に満ちた声を上げた。すると俺より先に教師が絵を覗いた。
「上手に描けていますね、写実的で素晴らしい。今にも動き出しそうです」
雪兎は絵が上手いのか? お世辞か? 早く見たいが、身体が固まってしまったのでまずは軽く伸びをしよう。
「仕事終わりに一息……といったふうですね。疲れた男性の何とも言えない色気がよく描けています」
仕事はしてないし疲れてないし色気もない。
「俺別に疲れてないですけど……」
「そうですか……? すいません、目が満員電車の企業戦士のそれですので、激務なのかと……」
目が死んでいて悪かったな、生まれつきだ。
「お兄ちゃん、見て見て」
「お兄ちゃん見る見る……うわ、マジで上手い」
俺が見慣れたマンガ的な絵とは違う、確かに写実的だ。デッサンと呼ぶに相応しい。窓から射し込む太陽光が本当に光っているように見える。
本心から感動して眺めているとチャイムが鳴った。教師が教卓に戻り、日直が号令をかけ、授業は終わりだ。
「お兄ちゃん、中庭で食べよっ?」
「先にトイレに……」
「だーめ。ご飯食べるの。行こっ」
絵を提出し画板を片付けた雪兎は俺の手をぐいぐいと引っ張る。その子供らしい可愛さに絆され、俺は薬に促された興奮を理性で抑え込んで大人しく着いていった。
「好きな物描けってさ」
美術教師が持ってきた果物籠、花、瓶など。それらから選べという意味だと俺は思っていたが、雪兎の解釈は違っていた。
「静物じゃなくていいのか?」
「いーじゃん別に。ね、先生、お兄ちゃん描いてもいいよね?」
席を回っていた教師が近くに来たので雪兎と二人で彼を見つめる。
「次回以降は参観ではないので……見て描く、というのはできませんよ?」
「ぁ、そっか……お兄ちゃん連れてきちゃダメ? 描く物持ってくる子他にもいたよね?」
「それなら構いませんよ」
許可するな、父兄と言えど部外者だぞ。
「やった、じゃあお兄ちゃん、脱いで」
「ヌードはダメです」
「芸術の基本でしょ?」
「ここは教室なので……あなたが美術部に入り、そこで描くなら、美術室でなら脱いで構いませんよ」
雪兎はぷぅっと頬を膨らませたが、教師はそれを無視して他の生徒の元へ行った。
「家ならいくらでも脱ぐぞ?」
「……人前で裸にしたかったの」
芸術とは一体。
「いいからポーズ取ってよ。できればセクシーにね」
何度でも言うが、俺にセクシーさは一切ない。それでもいいなら……とポーズを考る。ネクタイを外す仕草がセクシーと言われる風潮を思い出し、足を組んで肘置きに左手を置き、右手でネクタイを引っ張った。
「ん、おっけー。じゃ、二時間動かないでね」
「……二時間?」
「三、四時間目は美術だよ? 時間割見てないの?」
そういえば俺の学校でも美術や家庭科などは二時間連続でやることも多かったな……失念していた、ネクタイを解く途中で止めた中途半端な左手がどうなることか。
最初こそふざけていたものの、真剣に俺を描く雪兎に話しかけるのは躊躇われる。静まり返った教室に紙の上を鉛筆が走る音だけが響く、雪兎もその音を奏でている、何と言うか……気まずい。
「……っ、はぁっ……ん……」
下腹が疼く。扱かれたい、突かれたい、雪兎にいじめられたい、そんな欲望ばかりが膨らむ。何とか意識を逸らせないかと目を閉じると、ひとつ空けて隣に座った保護者達の話し声が聞こえた。
「──さん、どうされたんでしょうか」
「帰ったんじゃないですか? お忙しい方ですし」
どうやら俺がトイレで転ばせた男の話をしているらしい。そう長く気絶しているとも思えないが、打ちどころが悪かったか教室に戻らず本当に帰ったか、前者だったら少し困るな。
「お兄ちゃん、目閉じないで」
「あぁ……はいはい、まばたきくらいは許せよ?」
雪兎の手元を覗きたいが、仕方ない。完成を待とう。
チャイムが鳴り、休み時間になると何人かの生徒がトイレに行ったり水分補給をしたりしていたが、雪兎は真剣に絵を描いている。
「……お兄ちゃんトイレ行きたいな」
「さっき行ったでしょ。静物より描くの多いんだから我慢して」
組んだ足の間で勃起した性器に五十分間の我慢の褒美を与えたかったのだが、六十分の我慢の追加を与えることになってしまった。
四時間目も終わる頃、雪兎が画板ごと紙を持ち上げて「できた!」と達成感に満ちた声を上げた。すると俺より先に教師が絵を覗いた。
「上手に描けていますね、写実的で素晴らしい。今にも動き出しそうです」
雪兎は絵が上手いのか? お世辞か? 早く見たいが、身体が固まってしまったのでまずは軽く伸びをしよう。
「仕事終わりに一息……といったふうですね。疲れた男性の何とも言えない色気がよく描けています」
仕事はしてないし疲れてないし色気もない。
「俺別に疲れてないですけど……」
「そうですか……? すいません、目が満員電車の企業戦士のそれですので、激務なのかと……」
目が死んでいて悪かったな、生まれつきだ。
「お兄ちゃん、見て見て」
「お兄ちゃん見る見る……うわ、マジで上手い」
俺が見慣れたマンガ的な絵とは違う、確かに写実的だ。デッサンと呼ぶに相応しい。窓から射し込む太陽光が本当に光っているように見える。
本心から感動して眺めているとチャイムが鳴った。教師が教卓に戻り、日直が号令をかけ、授業は終わりだ。
「お兄ちゃん、中庭で食べよっ?」
「先にトイレに……」
「だーめ。ご飯食べるの。行こっ」
絵を提出し画板を片付けた雪兎は俺の手をぐいぐいと引っ張る。その子供らしい可愛さに絆され、俺は薬に促された興奮を理性で抑え込んで大人しく着いていった。
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