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さえたやりかたをさがして

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黒いスーツに身を包み、マスクとサングラスで顔を隠し、同じ格好の使用人と共にエントランスを抜ける。他人から見れば俺も使用人の一人に見えるのだろう。

「どうぞ」

「……ありがとうございます」

自分でドアを開閉することなく後部座席に乗り込み、シートベルトを締める。この座席に押さえられる感覚すら事故の瞬間を思い出させ、俺の身体を冷やしてしまう。

「…………雪凪、知ってますか」

トラウマから意識を逸らすため、あるいは沈黙の重苦しい空気を消すため、助手席に座った使用人に話しかけた。

「元当主様ですね」

「……居場所、分かりますか」

「ええ、分かりますよ」

走り出した車の駆動音、体中に伝わる振動、窓の外を流れていく景色、五感にトラウマを呼び起こされ、叫びそうになった俺は座席の上で蹲った。

「何か用事でも?」

使用人がバックミラーを使って俺を見ていることにも気付けず、膝に額を押し付けて自分の世界に入り込んでいた。

一軒家のインターホンを押し、帽子で目元を隠して宅配便の名を騙る。不用心に扉を開けたら押し入って後ろ手に扉を閉じ、驚きと怯えを混じらせた表情の雪凪を蹴り倒す。もしくは顎を殴る。
とにかく転ばせて馬乗りになり、首を絞める。体重をかけるべきは、力を込めるべきは、頸動脈。中指に意識を集中させて太い血管を押さえるのだ。

「……さまー、雪也さまー?」

足先をつつかれて意識を現実に戻し、顔を上げる。

「大丈夫ですか?」

座席から身を乗り出して俺の様子を伺う使用人を見て、俺は咄嗟に彼の肩を押した。

「ちゃんと座って!」

「え? ぁ、は、はい……」

「シートベルトもっとちゃんと締めて、肘置きの外に腕出さないで、背もたれに背をつけて!」

「は、はい……どうしたんです、急に……」

今の使用人の体勢をみて詳細を思い出してしまった。
母は今の彼のように後部座席に座った俺の方を見ていた。鞄から出したお菓子かジュースでも渡そうとしてくれていたんだと思う。確かそうだった。それで、ひしゃげた車体に挟まれて、俺の目の前で──ぐちゃっ、て。
父はシートベルトを締めてはいたが、肩から腰にかけてを押さえられるのを嫌い、腕を上にしていた、脇から腰を押さえさせていたのだ、だから事故の衝撃でフロントガラスに突っ込んだ。

「俺はちゃんと座ってた、ちゃんと座ってたから無事だった、ちゃんとしないと、ちゃんとしてないと……」

座席の上で踞るなんて、なんて危ない真似をしていたんだ。今までもそうだ、頭を抱えていた。そんなんじゃダメだった、ちゃんと背もたれに背をつけておかないと。シートベルトをしっかり締めないと。

「……雪也さま? 大丈夫ですか?」

「………………平気です。ちゃんと、座ってますから」

雪兎と雪風にもよく言っておかないと。

「元当主様……雪凪様に何か用事があるんですか?」

「雪凪……? あぁ、えっと、はい、ちょっと用事が」

「……雪也様の外出許可は当主様が出すものなので、まず当主様に話してください。許可が確認できましたら私共がお送りします」

雪風の元へ行くか雪兎と旅行に行くかなのだから、そりゃ雪風が確認しているに決まっている。馬鹿正直に叔父に会いたいと言って雪風が許可を出すだろうか? 少なくとも理由を聞かれるだろう。

「ぁー…………雪凪の電話番号とか知りませんか? 電話で片付くかもしれません」

「私共には分かりかねます。当主様ならご存知かと」

「……雪兎は知りませんか?」

「おそらく……当主様が許可を出していないはずです」

正しい判断だ、あのクズは雪兎の教育に悪い。もし連絡を取り合っていたら手を出されていたかもしれない。

「じゃあ…………雪成は知りませんか?」

「え……せ、先代様ですか? えぇと、どうでしょう、分かりかねます」

分かりやすく動揺している。名を出しただけでこの反応とは……流石だな。

「あの……雪也さま、先代様にはあまり関わらない方がいいですよ? もし無礼な真似をすれば……」

どうなるか、すら恐ろしくて言えない。ここまで使用人に恐れられては逆効果だろう、仕事の能率が下がるぞ。叔父の連絡先のついでにそれも言ってやらなければ。
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